結婚式での一幕
祭壇の前には、大柄な赤毛の花婿と、ほっそりした茶色の髪の花嫁が並んでいる。
二人は見つめ合い、微笑みあっている。
ブルーネル公爵家の広々とした庭園に設けられた祭壇には、色々な種類の白い花が飾られ、とてもすっきりとしてしゃれている。今日のリングボーイは、天から降りてきた天使ミカエル君、五歳が勤めている。空も、彼が降りて来るにふさわしく、真っ青に晴れ渡っていた。
指輪をはめた二人が参列者の方を向くと、ワッと歓声が沸いた。
その歓声は、きれいな空の下、にぎやかに続いた。
ルイスの両親が結構大きな声で話している。興奮しているようだ。
「今度こそ、本当のハッピーエンドだよ。二人共幸せそうだね」
「それに、ルイスは瞬く間にきれいになったわね。恋すると女は変わるわ。あの二人の様子を見て。まるで、前世から夫婦だったかのようにしっくりする。不思議なものね」
ミカエル君が祭壇から降りて、とことこと親族たちの方にやって来た。
「ルイスお姉さまと騎士様は、これからずっと幸せに暮らすんだよ。今度は妖精のお姫様にも幸せになって欲しいな」
その妖精のお姫様はとんでもなく綺麗だった。ルイスの親族たちがデレッとしながら彼女の方を見ると、彼女がにっこり微笑んでこちらにやって来た。
「おめでとうございます。ルーザーに素敵な奥様を迎えられて、私達、公爵家の者達もとても喜んでいます。私はこの二年間一緒にロブラールで過ごしましたから、兄が結婚したような気分です」
ルイスの父親が代表して答えた。
「とても立派な騎士様で、我々も安心しています。数回話をしただけですが、とてもいい人そうで、ルイスは幸せです」
「彼の人柄と腕前は保証しますし、ルイス嬢を泣かせるようなことはしませんよ。彼は優しいライオンのような男です」
横の方で従兄らしき若い男性が、ライオンってハーレム作って、雌に働かせるんだったか? とつぶやいた。
イリスは、それを聞いて焦った。
「ライオンといっても、彼は山のような誘惑や求婚に見向きもしなかった男です。女性からのも男性からのも、その他、地位やお金にもですけど。ルーザーは多種多様な人から愛されるタイプなんです。
だから彼がルイス嬢に結婚しませんか、と言った時にものすごく驚きました。彼が自分から人を口説いたのは初めてじゃないかと思います」
ほーっと声がたくさん被った。そこまで詳しくはルーザーの事を知らないのだろう。
だが、知っているブルーネル公爵家では、本当に驚きの展開だったのだ。
「イリス様、何を必死になって話しているのですか?」
ルーザーが嬉しそうにこちらに向かって歩いて来ていた。ルイス嬢も、その腕に手を置いて一緒に歩いて来る。
ライオンのハーレムの話だと知れたらまずいので、イリスは笑ってごまかそうとした。
だが残念ながら、カイルが横にするっと入り込んできた。
「ライオン様はもてるって話で盛り上がっていたんだよ」
その頭をケインがボカッと殴った。
「ルイス夫人。ルーザーはものすごくもてます。実は権力者達の勧誘がすごいのです。でも、そのどれにも靡いたことが無いのですが、今後はそれがルイス夫人の方にも向かうと思います。大変だとは思いますが、対応をお願いしますね」
さすがケイン。多分駄目なカイルとミラ、それに意地悪な表情のアイラはなるべく近寄らせないように頑張るわ、とイリスは心に誓った。
大人達の腰より低いので、埋もれていたミカエル君が、人を押しのけて前に出てきた。
「ルイスお姉さまは幸せになったの。だから心配はいらないの」
まあ、とルイス嬢が嬉しそうにミカエル君の顔を両手で挟んで、ほおにキスした。
その後、ミカエル君はイリスの前に立って、イリスの目をしっかりと見つめた。
「イリスお姉さま、僕は早く大きくなるから、大きくなったら僕と結婚してください」
イリスはうれしくなってミカエル君を抱きしめた。
その時、横に立っているルーザーとカイルとミラが、ちらっと横目で、その向こうに立っているエドワード殿下を覗っているのが目に入った。
ルーザー夫妻の後ろに、王夫妻とエドワード殿下も付いて来ていたのだ。
堂々たるミカエル君の求婚に、王一家は固まってるようだった。
なぜか、たった5歳の子供の言葉が衝撃だったように見える。
王たちの更に後ろからアイラが付いて来ていて、この状況を見て取ると、即座に二人に走り寄ってきた。
「わあ、私とも結婚して欲しいな、ミカエル君。イリス様、私も混ぜてください」
そう言って、アイラは二人をまとめて抱きしめた。
ルイス嬢の親族は嬉しそうに笑い、おませなミカエル君は誰に似たのか、という話題で盛り上がって行った。
固まっていた王一家も、なんとなく変な顔つきになっていたルーザーたちも、ほっとしたように笑い始めた。