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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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奇襲攻撃


 アダムとルーザーが、伯爵邸に落ち着いたのは、一時間ほどの後だった。


 食事をしながら、王権交代の顛末を、アダムが淡々と語った。


「驚きました。では、イクリス様は、国が落ち着いたら、アダム殿下に王位を譲って去るというのですか?」


 伯爵が驚く様子に、ルーザーが笑い出した。


「そうです。愚痴ってましたよ。いつの間にか、国まで押し付けられたと」


「今からキルン国を、バイエルに併合しようというのに、ですか」


「国を大きくしようとしてではなく、圧政に苦しんでいる国民を救おうとしているのです。自分のものにしようとか、あの方は考えません」


 ルーザーと伯爵のやり取りを、黙って聞いていたアダムが、しみじみと言った。


「そういうところは、カーン殿と一緒ですね。こちらの王族の貪欲が、恥ずかしくなるくらい、何も求めずに善行を施してくれる」


「カーン様の方がケンカっ早いですけどね。イクリス様は忍耐強い」


「流石、神の娘が降りてくる家だけある」


 アダムが感心すると、伯爵がそれだけじゃないと言った。


「兵がルーザー殿に従っているのが不思議だったが、既にイクリス様を王として、受け入れているのですね。私が思い描いていた状況とは、全く違う」


 アダムは軽く自嘲するように笑った。


「敵は、隙を衝くつもりだろうけど、こちらは逆に強くなっているんだ。しかも王都にはレンティスの援軍までやって来ている。皮肉なものだね」


 伯爵がグラスに伸ばした手を止めた。


「軍の七割が不在の首都に、他国の軍が入るというのは、通常占拠されたに等しいが、大丈夫なのですか?」


 これにはルーザーが答えた。


「レンティスは完全に、イクリス様の意志に従います。おかしなことは起こりません。王位継承に付いても、その後の事も、あらかじめレンティス国王と協議済みです」


「まるでレンティスの王子かのようですね。イクリス様に、早くお会いしたいものです」


 ルーザーがビクッとした後、ハハっと笑ってごまかした。

 

「いつの間にか私達は、イクリス様の影響力を、当たり前の事としていました。そう言えばイクリス様の立場は、レンティスでもどんどん大きくなっているようです」




 次の日の早朝、危惧していた通り、大規模な敵襲が始まった。

 砦側は、増員を悟られないよう、兵を入れ替えて応戦している。そのため、人員にも、武器にもゆとりがある。

 こちらの戦力が一向に衰えない事に、敵側が戸惑い始めているのが、こちらからでも見て取れる。


 後方で余裕を持って指示を飛ばしていたルーザーの元に、カイルが走り寄ってきた。いつも通り、風のように速い。


「渓谷のルートから、敵の部隊が進入してきています。すぐに備えを。約二千名ほどです」


 ルーザーが伝令の一人を呼んで、アダムと伯爵への連絡を命じた。アダムは第一大隊を率いて、砦の防衛に当たっていた。


「アダム殿下と伯爵には、こちらは任せてくれと伝えろ。第三から第五までは、沢から上がってくる敵に応戦する。他はアダム殿下と伯爵の指示に従え」



 ルーザーは約六千人を率いて、渓谷へ続く草むらに移動した。

 渓谷は、余り人が立ち入らない森の中にある。ここから細い一本道を二十分程歩いた先が崖になっていて、その下を川が流れている。

 敵は崖を登るつもりのようだ。


 ルーザーは、カイルを偵察に送り出し、状況を兵に伝えた。


「敵兵二千名が、渓谷を渡って横っ腹に侵入してきた。たぶん全員が上がり切るまで、動かないと思う。包みこんで打ち取り、陣に返すな。命令があるまで音をさせずに待機」


 ルーザーが命令してから二十分ほどたった頃、カイルが音を全く立てずに現れた。


「上がり口付近に集合し始めている。多分もう少ししたら、こちらに向かってくると思う」


 では、と言ってルーザーが兵を動かし始めた。


「第二中隊、森の中を通って、後ろに回り込め。道案内はカイルがする」


「せいぜい潜れて百人だよ。この先の森は手付かずで、人の通れる道がほとんどないからね。準備する時間もないし、少数精鋭で行くしかないよ」


「仕方がないな。では、カイルにビルの小隊を付けるので、沢からの上がり口に回り込んで、逃げ場を塞いでくれ。なるべくそっちに負担が行かないようにする」


 ルーザーは隊を二つに分け、森の出口から見えない場所に隠した。


 しばらくすると、森を抜けた敵兵たちが、草むらに続々と現れた。

 先頭に立って草むらの中を進んでいた、隊長らしき男が振り向くと、出口付近からは見えない場所に潜んでいたルーザーの軍勢に気付いた。


「戻れ」


 敵の隊長の撤退命令に被せて、ルーザーが突撃と叫んだ。


「第二は森の中にいる兵を打て。それ以外は、草むらの兵に掛かれ」


 草むらに出た兵約千五百人は、四千人の兵に取り囲まれ、あっけなく全滅した。

森からの出口付近にいた兵たちは、突入する兵に斬り伏せられ、沢への降り口に待ち伏せしていた兵に挟まれ、こちらもほぼ全滅した。


 ルーザーはこの草むらに、監視用の小隊を残し、捕虜にした兵を引き連れて、野営地に戻った。捕虜の数は三十名にも満たなかった。


 砦への攻撃は、その少し後には止み、敵軍は早々に陣に引き上げていった。



 屋敷に戻ったルーザーは、伯爵とアダムと共に捕虜の尋問を行なった。

 捕虜から得た情報は、思っていた通りのもので、今ならば王家からの援軍も来ない、と考えていたようだった。


 指揮官はキルン国の王子で、奇襲部隊の隊長を務めていたという。彼は既に戦死している。つまり、砦の向こうの軍隊には総指揮官がいないのだ。


「それなら、総指揮官が行方不明の今が、仕掛けどころですね。

 奇襲攻撃を仕掛けたはずなのに、砦内に全く混乱が見られない。そして、砦を奇襲した部隊の様子も分からない状況でしょう。砦に一万人もの援軍が届いていることを知らなければ、全く訳がわからないはずだ」


 ルーザーが言うと、アダムが逡巡した。


「こちらから仕掛けるのは、どうだろう。本隊が到着するまで、大人しくしているようにと言われたのに」


 伯爵も考え込んでいた。


「これまでずっと、防衛一筋でしたから、攻撃するのは初めてです」


 ルーザーとカイルが顔を見合わせた。


「この状況で見送ったら、軍法会議ものです。私に指揮権をいただければ、連れてきた軍を率いて出ます」


 気楽な感じで出陣を請け負うルーザーに、アダムが疑わし気に聞いた。


「外の軍勢は3万近いのですよ。半分ほどの人数で、勝てるのでしょうか」


「何人いても、総指揮官がいなければ、統制が取れません。混乱するだけです」


「では、戦いの目的は、蹴散らして追い返すことでしょうか」


 そう聞かれて、ルーザーは少し考えていた。


「そうですね。イクリス様の目的は王家を排除することで、不必要な殺戮は禁止されています。そうすると、捕まえるか追い返すかだな。捕虜として拘留しておける場所は、ありますか?」


 伯爵が軽く笑った。


「負ける可能性は全く考えていないか。さすがだな。二千人ぐらいなら、まあ、国王軍の駐屯地に押し込めるかな」


 カイルがすぐに反対した。


「今いる場所で周囲を囲っておけば良いでしょう。面倒ですよ。彼らも食料やら何やら持っているでしょ」


 それもそうか、とすごく簡単なことのように、2人が言い合っている。それをアダムと伯爵がぽかんとして見ていた。


「じゃあ、行ってきますね」


 そう言ってルーザーが立ち上がり、カイルと一緒に部屋を出ていった。


「すごく気軽に言うものだな。これはお手並み拝見だ。アダム殿下、砦の上で見物しましょう」




 しばらくの後、砦の門が開けられ、騎馬隊が外に走り出た。先頭はバイエルの旗を掲げている。次に楽隊が演奏しながら出て行った。その後を歩兵が続く。


 伯爵とアダムは共に砦の歩廊に上がり、進軍の様子を見守った。


 真ん中の広く開いた道を、ルーザーが華やかな騎士服で、進んで行く。

 軽やかに馬を走らせ、軍隊の最前列に出ると、隊に合図を出した。

 それに従って、兵がざっと音をさせて動いた。前面に騎兵、その後ろに歩兵で、小隊単位に並び変えたのだ。

 日ごろの訓練のたまもので、小気味良いくらい素早く動く。

 次の合図で、全体が敵陣側にずいっと距離を縮めた。それからルーザーが敵陣に向かって、大音量で告げた。


「王子は立派に戦い戦死された。亡骸は丁寧に扱い、こちらで預かっている。話し合いに応じるなら、隊を預かる者が前に出て欲しい」


 こちらの様子を伺っていた敵陣内部が、慌ただしくなった。この混乱が長ければ長いほど、内部の統制が取れていないことになる。それはしばらく続いた。つまり王子の不在をまとめられる、強い立場の者がいないということだ。

 ルーザーはカイルに、これはうまく行くかもな、と声を掛けた。


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