王家とブルーネル公爵家
今度は両親とカーンの三人で、王に挨拶をした。カーンのことは公爵が自分の庶子だと紹介した。
王に対しては事前に、変装とこのパーティーで周囲に披露する計画を伝えてある。王もこの案に賛成している。それでも、目の前のカーンに王は戸惑っていた。
「カーン? これは……、まるで昔の公爵のようだ」
カーンが男の所作と声で挨拶すると、王は不審げな顔をした。やはり、騙せないだろうか。母の方を向いて小声でささやいた。
「やはり、知人には見破られますよね」
うーん、と首をかしげて母が何か考えている。
「そういうのじゃないと思うわよ」
王はカーンを散々、無遠慮に眺め回した。
「君がイリス嬢だというのは本当かね?」
「はい。おわかりになリませんでしたか?」
カーンは声と所作を普段の女性のもの、いつものイリスに戻した。
「わからない。今でも信じられない。男にしか見えないぞ」
「何か不審に感じられたのではないですか?」
王が頭を振った。
「事前に聞いてイリス嬢だと知っていても、その容姿は衝撃が強いよ」
そして父と母を順に見た。
「それに昔を知っている者は、とても信じられないと思うよ。こいつがマーシアを裏切るはずがない。しかも二人も子供を作っただって! ありえない」
母が、フフフッと楽しそうに笑う。
つまり、その昔、父は母にぞっこんだったと言うことになる。今でも仲が良いが、そこまで言わせるとはすごいとイリスは驚いていた。
母が微笑んだまま、王に向かって言う。
「でも、今回は昔を知る皆様にも、それを忘れていただかないと。我が家には二人の頼もしい男子が居るのですよ」
「もう一人! どんな男なんだ。想像が付かない」
王は、もう一人の庶子イクリスを見ていない。しかし、エドワードと近衛騎士数人が、イクリスと会っている。王はここでエドワードに引き会わせて、試してみようと言い出した。
王は従者を呼び、エドワードを連れて来るよう言いつけた。
イリスは、イクリスの変装について、いまだにエドワードに説明していない。その状態でカーンの姿を披露するのは気が引けたが、いい機会ではあった。ここで、エドワードに変装した姿を知ってもらったほうがいいだろうと腹を決めた。
「父上、お呼びでしょうか」
「ああ、彼を紹介しようと思ってね。ブルーネル侯爵家の血筋の者だ」
だます気満々だなと、カーンは苦笑した。
エドはカーンを見ると、びくっとした。そしてシモン? と小さくつぶやいた。
「カーンと申します。エドワード殿下。お見知りおきを」
エドはカーンをまじまじと見て、しばらく考えていた。
「以前、誘拐事件の時に会った男とよく似ている。もしかしたら兄弟か? 彼もブルーネルの血筋の者なのか?」
カーンはほっとした。同一人物には見えないようだ。これなら兄弟の設定が使える。
他の皆もそう考えたようだ。
王がネタばらしをすると、エドが目を剥いた。
「本当にイリス? 男だろ。そんなはずは」
カーンはイリスの声に戻って、笑いながら言った。
「アイラの変装術は素晴らしいのです。そして、私はなぜか変装すると年上に見えるようです。前回お会いしたイクリスは、もう二歳くらい年上に見えたそうですね」
言葉の出ないエドワードに、カーンは挨拶した。
「この姿で一時間ほどパーティーに参加して、イクリスとカーンの存在を示してきますね。その後女装に戻りますので、その時にまた改めてご挨拶に伺います」
そう告げ、その場を立ち去った。
◇~*~*~◇
ブルーネル公爵親子が立ち去った後、王はイクリスの姿についてエドワードに尋ねた。
エドワードはまだ先ほど見た物が信じられないようだ。目をこすりながら父に説明した。
「カーンより二歳位年上で、もっと冷やかな感じのする男でした。それに研ぎ澄まされた鋭さと、押し殺したような迫力があって、全く別人に見えました」
「そうか。イクリスにも会ってみたいものだ。そっちの方が昔のアルバートに似ているのかもしれないな。カーンはシモンを思い出させる」
複雑な面持ちのエドワードを見て、父王は思い出した。
エドワードが会ったイクリスは、美女を片腕に抱え、粉塵の中、剣を構えて立っていたそうだ。
変な言い方だが、イクリスの方がエドワードより、男として器量が上のように思われる。息子の恋は前途多難そうだ。
だが、この子はこの恋をあきらめることは無いのだろう。それならばイリスに並ぶレベルまで、努力するしかない。
「さあ、宴に参加しよう」
そう言って肩を押し、二人で炉がある方へ向かった。




