復讐と残酷な真実
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
夜、暗闇に紛れて青年と少女が歩いていた。
二人とも仮面をつけていて素顔を窺い知ることは出来ないが、青年は銀髪を、少女は黒髪を靡かせていた。
少女は腰に差した剣を撫でながら、青年に話しかけた。
「シャル……もう少しでフェニカの家ね。」
その言葉に青年……シャルは頷いた。
因みに黒髪の少女はセリーナだ。
彼女は魔法で目と髪の色を変えていたのだ……アナスタシアと全く同じ色に。
それから暫くして元王妃が住むには汚すぎる、家とも呼べない小屋のようなものが見えて来た。
セリーナはその小屋の前まで来ると扉を思いっきり蹴破った。
そこに居たのは、見る影もなくなった元王妃フェニカとフェニカ付きの元メイドだった。
元メイドの女は突然現れたセリーナとシャルに悲鳴を上げようとしたが、素早くシャルが気絶させた。
「シャル、貴方はその気絶させた女と一緒に外に出てて。」
その言葉にシャルは最初戸惑っていたが、セリーナの意志が固いのを感じとり、渋々小屋の外に出て行った。
シャルの後ろ姿を見届けてから、セリーナは寝台の上に縮こまるフェニカを見下ろした。
叫び声を上げる気力もないのか、フェニカはただこっちを見て体を震わせ、怯えているだけだった。
セリーナはそんな哀れなフェニカを見つめながら仮面を外した。
仮面の下から現れるのは、アナスタシアと全く同じ美貌。
それにフェニカは目を限界まで見開くと呟いた。
「アナスタシア……」
セリーナはそんな彼女を蔑むと嘲笑った。
「その汚い口で、私の妹の名を口にするな。」
「……妹?」
セリーナは訳が分からず怯えているフェニカに近づくとその髪を思いっきり引っ張った。
フェニカの顔が痛みで歪む。
「私の妹…アナスタシアはお前に苛められ、愛する人を奪われ、苦しみの末に自殺した!」
フェニカはその言葉に目を見開くと、セリーナに恐る恐る問いかけた。
「お前は本当に……シオンなのか?」
「私は貴様の兄に殺されて、生まれ変わった。アナスタシアと瓜二つの顔と前世の記憶も持って……これは運命だと思ったよ、復讐するために私は生まれ変わったんだと!貴様にわかるか?この憎悪が、果てない悲しみが!」
そうセリーナは憎しみを込めて吐き捨てた。
フェニカはその言葉に苦しげに顔を歪めたが、すぐにセリーナを睨みつけると嗤った。
「哀れだな……私を殺すのか?私の兄様も皆、憎い相手は殺すのか?そうしてお前はどうする?こんな復讐の先に一体何があるというのだ?ハッ、何もないでは無いか!妹に人生を狂わされ哀れな……」
「黙れ!貴様に何が分かると言うのだ!王妃となり今まで幸せに生きてきたお前に!」
そのシオンのこの言葉に、フェニカは顔を歪めると叫んだ。
「私は決して幸せになどなれなかった!王様は最後まで私を愛してくれなかった!王様は……ずっとアナスタシアを愛し続けていた!」
その言葉にセリーナは目を見開いた。
「嘘だ!でたらめを言うな!ヴィンセントはアナスタシアを裏切り、貴様と情を通じた!それなのに……」
フェニカはセリーナの言葉を遮って、笑い声を上げた。
「滑稽だな!復讐などと吠えながらも、お前は本当の事知らなかった!はっはは!私が王様を……ヴィンセントを誘ったんだ!催淫剤を騙して飲ませて、ヴィンセントと情を交わした!その時、ヴィンセントは私の事をアナスタシアと勘違いしていたよ!あっははは!滑稽だったよ……アナスタシアは涙を流しながら、私達の交わりを見ていたと言うのに。」
セリーナはフェニカの髪から手を離すと、正気の無い頬を思いっきり叩いた。
涙が溢れてくる。
王様は……ヴィンセントはセリーナを裏切ってなどいなかった……
それなのに……セリーナは勘違いをして……
許せない。
そう思い腰に差した剣に手を伸ばした、その時だった。
「だが、アナスタシアも悪いんだぞ?」
突然のその言葉にセリーナは手を止めると、鋭くフェニカを睨んだ。
「どういう意味だ!」
「私は元々アナスタシアを苛める気など無かった!だがアナスタシアがヴィンセントに私の悪口を吹き込んでいると聞いたのだ!先に私を侮辱したのは、アナスタシアの方だ!」
その言葉にセリーナは目を見開いた。
アナスタシアは、人の悪口を言うような性格では無い。
それは前世、兄であったセリーナが一番よく知っている。
誰にでも優しく快活な性格、それがアナスタシアだ。
そんなアナスタシアが誰かを侮辱するなど……あり得ない。
動揺しているセリーナに対して、さらに衝撃的な事をフェニカは言った。
「アナスタシアが人を侮辱する悪女だと、私に教えてくれたのはメレイアだった!あいつは色々と私に教えてくれた!アナスタシアがどれほどヴィンセントの婚約者として相応しく無いか!だから私がヴィンセントを寝取ってやったのだ!」
その言葉は衝撃を持ってセリーナを打ち据えた。
嫌な汗が首筋を伝っていく中、セリーナは意を決して剣を引き抜いた。
そしてフェニカの首筋に添えると、震える声で叫んだ。
「偽りを言うな!どうして、親友のメレイアがアナスタシアを貶すのだ!それにアナスタシアは人を侮辱する様な性格では無い。」
首筋に当てられた剣も意に介さず、フェニカは不敵に笑った。
「もし、そなたの言う通りアナスタシアが私を侮辱していなくてもだ……メレイアは本当にアナスタシアを貶めていたぞ?あっははは、だとすると私もアナスタシアも人を見る目がないな!私もアナスタシアも皆、あの女に騙されていた訳だ!」
そうして狂ったように笑うフェニカを見ながら、セリーナは涙を零した。
あんまりでは無いか。
どうして……メレイアが……
信じたく無い、そんな残酷な真実なんて知りたく無かった。
そんな震えるセリーナをフェニカは愉しげに見た。
「どうした?私を殺さないのか?」
フェニカは剣の刃先を掴むと自分の首筋に押し付けた。
「離せ!やめろ!」
「早く殺すが良い!シオン!」
その言葉にセリーナは震える手を落ち着かせ、フェニカの首を刎ねようとしたのだが……
ーー出来なかった。
セリーナの手から剣が落ちる。
その剣をフェニカは拾うとセリーナに向けた。
身構えるセリーナを、フェニカは嘲笑うと高らかに言い放った。
「私はこの国の王妃。誰も私を穢すことは出来ない!」
フェニカは一転して、剣を自分の首に押し当てると思いっきりそれを引いた。
鮮血が飛びちり、床やセリーナの顔を汚す。
その余りの衝撃に我を失い茫然としているセリーナに、フェニカは震える手を伸ばすと、セリーナの耳飾りに手をかけ、最後の力を振り絞って引きちぎった。
そしてフェニカはセリーナの耳飾りを握りしめると、目を閉じた。
そうしてフェニカ・ルト・メイヴィスは死んだ。
耳飾りを引きちぎられ、痛みで耳を押さえるセリーナだったが……
「セリーナ様!人が此方に向かっております!お急ぎください!」
外からのシャルの声に、セリーナは急いでフェニカの手から耳飾りを取り返そうとしたのだが、握りしめた力が余りにも強くて、取り返す事が出来ない。
仕方なく耳飾りを諦めると、小屋の外に出てシャルと共に夜道を駆けた。
夜道を駆けるセリーナの脳裏をよぎるのは、フェニカから流れた真っ赤な血。
セリーナは震える手で自分の顔を触った。
そしてその顔を触った手を見ると、そこにはフェニカの血がべっとりとついていた。
セリーナは我慢ならず途中で止まると、吐いた。
シャルは辺りを警戒しつつも、セリーナの背を優しくさすっていた。
セリーナの目から涙が溢れ落ちる。
直接手は下してないにしても……私が殺した。
フェニカを……
血が忘れられない。
自分がとてつもなく穢い存在になった気がして、たまらなく苦しい。
それに残酷な真実が堪らなく悲しい。
苦しくて悲しくて堪らない。
「うっうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
セリーナの悲しい絶叫が夜の闇に響き渡った。
物語が動き始めます。
次回も読んでくれると嬉しいです。




