屈辱と理不尽
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
此処はヴィンセントの私室。
そんな部屋に今、ヴィンセントと一人の騎士がいた。
メレイアは何とか一命を取り留めた。
だが、ヴィンセントは大事な側室メレイアを傷つけられた事に対して、かなりの怒りを抱いていた。
ヴィンセントは低い声で騎士に問い掛けた。
「誰がメレイアの殺害を謀ったのだ。」
騎士はヴィンセントの怒りに身を竦めながらも、意を決して口を開いた。
「どうやら、今回の首謀者は……王妃様のようなのです。」
その言葉にヴィンセントは大きく目を見開いた。
「何!それは誠か!」
「……誠に御座います。刺客が吐きました……王妃様の命を受けてメレイア様の殺害を謀ったと。」
ヴィンセントは机に拳を叩きつけた。
騎士はその音にビクッと体を竦ませた後、素早く部屋を後にした。
一人己が部屋に残されたヴィンセントは怒りで顔を歪めていた。
そんなヴィンセントが思い出すのは、少し前のフェニカの言葉。
『殺してやる!』
ヴィンセントは勢いよく立ち上がると部屋から出た。
早足で向かうは、王妃フェニカのいる部屋。
ヴィンセントは痛いほど拳を握りしめると低い声で呟いた。
「フェニカ……そなたはまた、私から大切な人を奪おうと言うのか……」
そんな怒りに満ちたヴィンセントの呟きは誰にも聞こえることは無かった。
相変わらずベッドで横になっているフェニカを、クレアは蔑んだ目で見ていた。
クレアは少し前のヴィンセントの訪問以来、フェニカに毒薬を飲ませる事をやめていた。
決して情が湧いたからではない。
飲ませすぎると死んでしまうからだ。
解毒薬は飲ませていない為、フェニカの状態は前となんら変化はない。
クレアは昏く昏く嗤った。
フェニカを簡単には死なせない。
まずは身に覚えの無い、側室殺害未遂の罪で平民に堕とされる屈辱を味わって頂かねば。
そして、セリーナ様に殺されて頂かねば。
クレアが昏い笑みを浮かべて、そんな事を考えていた時だった。
ノックもなしに部屋の扉が勢いよく開いたのは。
横になったままでも意識のあるフェニカとクレアは驚くとそちらを見た。
二人の目線の先には、怒りに満ちた形相の王……ヴィンセントがいた。
フェニカはヴィンセントのその表情に驚きながらも、痛む体を無理やり起こし微笑んだ。
「王様、ご機嫌……」
「フェニカ、そなた!メレイアを殺そうと刺客を送るとはどう言う事だ!」
突然のヴィンセントの怒鳴り声にフェニカはビクッと体を震わせたが、その後訳が分からず目を丸くした。
「何の事……でしょう?私は……何も……」
何も知らないと言いたげなフェニカの表情をヴィンセントは嘲笑った。
「とぼける気か……刺客が吐いたのだ!そなたの命によってメレイアを殺そうとしたと!それに以前、そなたはメレイアを殺してやると叫んでいたではないか!」
「刺客など……私は知りません……それに殺してやる……なんて申した……記憶も……御座いません…王様……本当に……私は何も……」
ヴィンセントが以前この部屋に訪ねてきた時、フェニカはかなり意識が朦朧としていた為、ヴィンセントが訪ねてきた事だけは覚えているのだが、それ以外に自分が発した言葉やヴィンセントに言われた言葉などは本当に覚えていなかった。
だが、ヴィンセントは毒薬のことやフェニカの意識が朦朧としている事を知らない。
彼の目にフェニカは、見苦しい言い訳をするただの悪女としか映っていなかった。
「フェニカ……見苦しいぞ……今まで何度も罪を犯し、私を騙してきたそなたの言葉どうやって信用せよと言うのだ!今までは我慢しておったが、今回ばかりはそうはいかぬ。処分は追って沙汰する故、心しておれ!」
そう吐き捨てるとヴィンセントはフェニカの部屋を後にした。
残されたのは茫然としている王妃フェニカと、今の会話を聞いて内心ほくそ笑んでいるクレアだけだった。
「どうして……王様……」
フェニカの目から静かに悲しみの涙が零れ落ちた。
王妃フェニカが側室メレイアの殺害を謀った罪で、王妃の身分を剥奪され、平民へと堕とされたと言う話は瞬く間に王国全土に広まった。
その話は学園にいるセリーナの耳にも直ぐに入った。
セリーナは目の前に傅いているシャルに微笑みかけた。
「ありがとう、シャル……貴方とクレアのお陰でフェニカは屈辱と理不尽を味わい、私の手の届くところまで、堕ちて来てくれたわ……これでやっと我が望みが一つ果たされる……」
「私達の望みは貴方様の望みが叶うこと、ただそれだけで御座います。」
その言葉を聞いたセリーナはシャルに近づくと頰に手を添えた。
そして、縋る様な視線をシャルに向けた。
「ねぇ、シャル……貴方だけは裏切らないで……私がどれ程醜くなっても……側にいて……」
そんな切なげなセリーナにシャルは微笑むと、頰に添えられた手に己の手を重ねた。
「貴方にあの日、私は救われたのです。貴方だけが、私の……私達の全てなのです。」
その言葉にセリーナは微笑むと涙を零した。
「貴方は私と一緒に地獄まで……堕ちてきてくれる?」
「ええ、貴方となら何処へなりとも参りましょう……我が女神よ。」
そうして、二人は暗い部屋の中いつまでも寄り添っていた。
次回も読んでくれると嬉しいです。




