罪と真実
楽しんでくれると嬉しいです。
前世シオンであった時、人の命の儚さを知ったのは僅か八歳の時だった。
隠れて街に出かけた時、シオンは刺客に襲われた。
絶体絶命の状態であったが、シオンは無事だった。
何故なら、シオンを庇った女が居たからだ。
その女は助けが来るまでシオンを庇い続けた為、あらゆるところを刃物で斬り付けられた。
そして、惨たらしく死んだ。
女から沢山の血が流れるのを見ながらシオンは思った。
人の命はなんて儚いんだろうと。
「刺客だ!皆のもの王様とメレイア様を守れ!」
美しく歌うセリーナを妨げる、騎士の野太い声が会場全体に響いた。
それによって劇は中断され、劇を演じている生徒達も観客達も皆、何があったのかと混乱した。
だが、事は直ぐに伝わるもので……側室のメレイアが何者かに命を狙われた事は、あっという間にこの場にいる全員に伝わり、あちこちで悲鳴が上がり始めた。
我先にと逃げ出す生徒と観客達。
大怪我をしたメレイアも外へ運び出したいようだが、人が邪魔で上手く行かない。
メレイアの傍には苛立たしげなヴィンセントとそれを守る近衛騎士、そして悲しげなユークリッドが居た。
セリーナは歌うのをやめ、会場全体を愉しげに眺めていた。
醜い争いをしている人々の姿が滑稽で堪らない。
セリーナは笑うのを必死に堪えていた、だが……
「メレイア!大丈夫か!」
そう必死にメレイアに呼びかけるヴィンセントの姿が可笑しくて我慢ならずセリーナは思わず笑ってしまった。
どうせなら正確にメレイアの心臓を狙わせて、殺させれば良かったかも知れない。
そうすれば、ヴィンセントにも私と同じ苦痛を味わわせる事が出来たのに……
セリーナがその事を少し残念に思っていた時だ。
「王様!刺客を捕らえました!」
突然のその声に目を向けると、そこには一人の怪しい男を捕まえた騎士がいた。
捕まっている刺客であろう男の手には弓矢が握られている。
ヴィンセントはその男を鋭く睨みつけると叫んだ。
「急ぎその者を拷問にかけよ!そして、これを仕組んだ者の名を吐かせよ!」
「承知しました!」
刺客を捕らえた騎士はそう返事をすると、男を騎士団本部へと連行していった。
セリーナは順調すぎる計画に思わず笑みが溢れた。
後はあの男がフェニカの名を言うだけ。
本当にそれだけなのだ。
嬉しさのあまり思わず昏い昏い笑みが溢れる。
そうして嗤っていたセリーナだったが、この時気が付かなかったのだ。
このセリーナの歪んだ笑顔を見ていた人物がいた事に……
刺客が捕まった後、何とか人々の混乱は収まりメレイアは無事に外に運び出された。
その後、学園は悠長に最優秀賞なんてものを発表している場合ではなくなり、賞は発表されず、その場で学園祭は終わりを告げた。
その夜、セリーナはこっそりと寮を抜け出すと学園の庭に忍んで来ていた。
頬を撫でる夜風が気持ちよく、セリーナの口から思わずため息が漏れた。
そうして夜の闇に身を預けていた時だった。
「誰かいるのか?」
突然のその声にセリーナは振り返ったが、暗闇に目が慣れず、直ぐに誰かは分からなかった。
どんどん近づいてくるその人物をセリーナは目を凝らして見続けた。
そして、やっと顔を認識する事ができた。
「……レヴィン?」
どうやら暗闇の中、現れたのはレヴィンのようだ。
レヴィンも此方にいるのがセリーナだと気が付いたらしい。
二人は今、互いの顔がはっきり認識出来るところにいる。
突然レヴィンはセリーナの腕を痛いくらい強く掴むと、鋭く睨みつけてきた。
その行動とレヴィンの表情にセリーナは首を傾げた。
何か彼を不快にさせる様な事をしたのだろうか?
そう思っていたセリーナだったが、次の瞬間ひゅっと息をのんだ。
「あんた、どうして怪我をしたメレイア様や刺客の人間を見て、笑っていたんだ?」
その思いがけぬ言葉に、心臓が早鐘の様に鼓動する。
苦しさの余り、思わず手で胸を押さえた。
そんなセリーナ様子に構う事なく、レヴィンは話し続けた。
「メレイア様が刺客に襲われた事で全員が混乱していたのに、あんただけは舞台の上で悠然と皆を見下ろしていた……しかも愉しそうに笑いながら………僕はずっと不思議に思っていた……何故、あんたがそんなにも冷静でいられるのか、どうして怪我している人や混乱している人達をそんなに愉しそうに見る事が出来るのか……ずっとそれを考えていたんだが、一つ最悪の結論が出た……もしかして今回のことは……あんたが仕組んだことなんじゃないのか?」
その言葉にセリーナは思わず震えた。
顔が青褪め、息が荒くなる。
バレてしまった、よりにもよって一番バレたくない相手に……
そんなセリーナの様子でレヴィンは自分の考えがあっている事を確信し、声を荒げた。
「どうして、こんな事を!」
レヴィンの軽蔑の眼差しが想像以上に胸に突き刺さる。
やはりね、こんな醜く歪んだ自分を……セリーナを愛してくれる人などいないのだ。
ならば、私も誰も愛したりしない。
セリーナは深く息を吐いて落ち着くと、冷たくレヴィンを見据えた。
「貴方には、関係ないわ。」
そう吐き捨てると同時にレヴィンの腕を振り払おうとしたのだが、想像以上に力が強く、それは出来なかった。
セリーナはレヴィンを睨みつけた。
「離して。」
その冷たいセリーナの様子にレヴィンは息をのむと悲しげに言った。
「この件は父に報告させて貰う……」
その言葉にセリーナは目を見開いた。
レヴィンは今なんと言った?
己の父に……オーランドにセリーナがやった事を報告すると?
その言葉があまりにも可笑しくてセリーナは思わず声を上げて笑ってしまった。
そんなセリーナの様子を訝しげに見るレヴィン。
「何が可笑しいんだ!」
「貴方とっても可哀想……罪人と、私を責めるなら自分の父も責めないと……」
「何故、父を……」
何も知らず今まで生きてきた可哀想なレヴィン。
今、貴方の父の正体を教えてあげる。
そしてセリーナは酷く残酷な真実をレヴィンに告げた。
「貴方の父はかつて妹フェニカによる侯爵家の令嬢アナスタシアへの苛烈な苛めを黙認していた。そしてアナスタシアは苦しんだ末に自殺した。また、自殺の真相を知ったアナスタシアの兄であり自分の親友でもあったシオンを口封じの為に殺した……貴方の父オーランドは最低の下衆よ。」
その言葉にレヴィンは限界まで目を見開いた。
だが、セリーナの話は止まらない。
「知ってる?そのあと侯爵家がどうなったか……真相を闇に葬られた事で、爵位は取り上げられて、家は取り潰され、シオンとアナスタシアの両親は自殺したわ……」
レヴィンは信じられないという表情でセリーナを見るがこれは全て真実だ。
だから今、私はここにいるのだから。
「信じられないならオーランドに聞くといいわ。」
今の言葉で、レヴィンはセリーナの話が真実だと理解したようだ。
かなりのショックを受けている様子のレヴィンに胸を痛めながらも、セリーナは変わらない表情でレヴィンを見つめた。
「私を罪人と責めるのなら……貴方の父も、四人もの人間を死に追いやった罪人ね。私の事を父に言いたければ言えばいいわ……あの刺客は私の顔を知らないし、何の証拠もないけどね。」
そう言い放ち、レヴィンを一瞥するとセリーナその場を後にした。
寮に帰る道すがら、セリーナは星空を眺めていた。
暗闇の中でも、負けじと光を放つ星々が羨ましい。
自分はもう、光など失ってしまった。
セリーナは悲しく微笑むと涙を零した。
自分を照らしてくれる光も失って、私に残されたものは復讐の為の醜い心だけ。
大切な人を傷つけ悲しませ、最低な事をした。
でも、それでも……
「私には復讐しかないの……」
苦しい程の虚しさを抱えて、セリーナは呟いた。
次回も読んでくれると嬉しいです。




