天才
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
七歳の時だった。
それは唐突にやってきた。
いつものように鏡を見ていた時、不意に頭が割れそうな程痛んだ。
それは鈍器で殴られ、頭をかち割られるような痛み。
「うっ……うあぁぁ……」
余りの痛みにベッドの上でのたうち回った。
暫くのたうちまわっていたが、痛みと共に何かが入ってくるような感覚に驚き、目を見開いて硬直する。
苦しい程の憎悪と悲しい記憶が自分の中に流れ込んでくるのを感じる。
「あぁぁぁぁぁ」
そうして、余りの苦しみに私は絶叫し意識を失った。
目を覚ました時、もう頭は痛まなかった。
そして、全て思い出した。
前世の屈辱を、アナスタシアの苦しみと悲しみを
「許さない……許すものか!」
シオン、改めてセリーナは拳をベッドの上に叩きつけた。
そして、鏡で再び自分の顔を見た。
記憶を思い出してから見る自分の顔は、懐かしかった。
「アナスタシア……」
愛しい私の妹
例え、今は伯爵家の令嬢セリーナであっても、心はシオンであった。
セリーナは自分の顔を改めて確認した。
さらさらの銀髪に血のように濃い紅の瞳。
そして、アナスタシアと瓜二つの顔。
これは偶然だろうか?否、必然だろう。
「アナスタシア……必ず、お前を苦しめた全ての者に復讐するから……」
セリーナは鏡の中の自分にそう話すと微笑んだ。
それは美しい笑みだった。
扉がノックされた。
大方、誰が入ってくるか検討がついていたセリーナは声を上げた。
「どうぞ」
そして、入ってきた人は予想通りセリーナの父、アレクシスだった。
アレクシスはセリーナに微笑むとすぐ側までやってきた。
「セリィ、大丈夫かい?」
その言葉にセリーナはにっこり微笑んだ
「もう、大丈夫ですよ!父様!」
今までと変わらぬセリーナを演じなければならない。
アレクシスに異変を悟られてはならない。
アレクシスは安堵したのか、ほっと息を吐いた。
「良かった、セリィ。君がいきなり叫び出して意識を失ったと聞いた時は肝を冷やしたよ。」
「うふふっ、そんなに心配してくれたの?ありがとう、父様!」
中々上手に演じられていると思う。
アレクシスは全く気がついていないようだ。
セリーナは父の瞳を見つめ、手を握った。
「父様……お願いがあるの!」
その言葉にアレクシスは一瞬目を見開いたが、直ぐに笑顔に戻った。
「セリィがお願いなんて珍しいね。何かな?」
「私ね、もっと難しいお勉強がしたいの!それに、魔法も学びたいの!」
その言葉にアレクシスは信じられないと言いたげな顔をした。
「セリィ、君は勉強が苦手だっただろう?」
「ううん……違うの……いつも簡単すぎて眠くなっちゃうだけで……それにテストもいつも手を抜いてただけで……本気でやれば、満点取れるよ!試してみる?」
セリーナはアナスタシアにより近づく為に、どうすれば良いか考えていた。
そこでまず、思いついたのが噂をたてることだ。
噂はあっという間に広まる、それをセリーナは身をもって知っていた。
アナスタシアは才女だった。
周囲に噂がたつほど。
アナスタシアが魔法学園に入る頃には、その賢さで天才、奇才と周囲から呼ばれていた。
復讐相手に恐れを抱かせる為にも、顔だけでなく中身もアナスタシアに近づかなければならない。
私は既に魔法学園の最高学年の問題まで解ける。
だから、勉強で噂をたてることなど容易い。
天才だと周囲に知らしめてやればいいのだ。
アレクシスはセリーナの熱意に負けたようで、渋々頷いた。
「わかったよ、セリィ。先生を呼ぶからがんばってね。」
その言葉にセリーナは満面の笑みで頷いた。
シェルヴィ伯爵家に天才がいる、その噂はあっという間に王国の全ての貴族に伝わった。
「とても美しい令嬢で、大人でも解けないような問題を解けるのだとか。」
「まだ、七歳なのだろう?本当なのか、その噂。」
「その令嬢を教えた人が言いふらしていたらしい、天才すぎて、何も教える事がないと。」
その噂を聞いたものは最初疑うのだが、シェルヴィ家の令嬢を担当した何人もの教師が同じ事を言う為、皆次第に信じていった。
そして、セリーナは見事天才という称号を得たのであった。
次回も読んでくれると嬉しいです。