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翌日、候補者達との顔合わせの間を縫って、王女のお茶の時間に皇太子が招かれました。

王女も皇太子ものんびりとお茶を楽しみます。

女官は、皇太子を観察し、側近は王女の美しさと庭の見事さに感嘆しきりです。


「それじゃあ、お二人は、従兄弟なのね?」

王女は、軽口をかわす皇太子と側近を見ます。言われてみれば、似ているかもしれません。若干凛々しい方が、従兄弟の側近ですが。

「はい、ですので、これの小さな頃の失敗談はたくさん存じております」

と、側近は皇太子を指差します。普通なら処罰物の不敬ですが、そこは従兄弟だから許されることです。

「どんなことがあるのかしら?」

王女はうきうきと尋ねました。女官も興味深々です。


「そうですね、子供の頃、ケンカで私の妹に負けたとか、内緒で街におりるのに女装し…」

「うわ~、それ以上言うな~!!」

皇太子は必死で側近の口をおさえます。


「女装…。ぐっく、だめ…想像してしまったわ…ふ…ふふ…」

王女は肩を震わせます。女官も下を向いて小刻みに震えていました。

「も、だめ…あは、あはははは!」

ついに王女はこらえられなくなりました。涙を浮かべて笑っています。

「お、王女。失礼、ですよ」

そう言う女官も笑っていました。

皇太子は真っ赤になって、側近を責めています。側近はニヤニヤ笑うばかりでした。


王女と女官が笑っていると、そこへ第一王子がやってきました。

「おや、アイラがそんなに笑うなんて、珍しいね。何年ぶりだろう」

「お兄様。どうなさったの、いらっしゃるなんて珍しいこと」

「いや、お前のところに珍しい客がいると聞いてね」

兄王子は、近くで見るとカッコい~と王子に見ほれている皇太子に視線を送りました。


「昨日ご挨拶したわよね。ランドル帝国のヴォルフラム皇太子殿下ですわ」

「よろしく」

「こっ、こちらこそ」

美兄妹に、皇太子は浮き足だっていました。


女官が、カップを追加し、またお茶会が再開したところで、王と女王、弟王子が次々にあらわれました。

「あら、偶然ねぇ」

などと、女王は言っていますが、もちろん王女が皇太子をお茶に呼んだという情報が入ったので、皆かけつけたのです。

国王一家の勢ぞろいです。皇太子は、素直にわ~、すごいな~と感心していますが、側近はちょっと青ざめています。


しばらくさわりの無い話が続いた後、王が口火を切りました。

「皇太子は、うちのアイラとずいぶん打ち解けたみたいだけど、婚約者がいるんだよねぇ?」

王は、するどい視線を向けますが、皇太子は、いつものようににこにこと答えます。


「あ、はい。名目上のがいますねぇ~。従妹なんですけど、周りがうるさいけどお互い結婚したくないからって、取引したんです」

皇太子はあははと笑いました。王女は、目をきらきらさせていますが、王女以外は、皆脱力してしまいました。


昨夜、王女と皇太子が密会していたという情報を聞いて、皆は婚約者がいる奴じゃないか!と憤慨していたのですが、なんか、怒っているのが、バカらしくなってきました。

王女と皇太子の様子も、ほのぼのとしていて、どうも密会ではなかったようです。


「あ~、従妹の方も結婚したくないのですか…」

どうにか持ち直した兄王子が、話を続けます。

「ええ、自分よりできる人でないといやだといって…」

「ほう、従妹の方は、しっかりした方のようですな」

兄王子は、皇太子の婚約者に興味を持ったようです。


「はい。彼の妹なのですが、二人とも小さい頃から勉強も剣もかないませんでした」

「父も、皇帝陛下も、男であったらと嘆いたものです」

皇太子と側近が、ため息をつきます。婚約者は、かなりの人物のようです。


「ほう、是非お目にかかりたいな。一度帝国にも行ってみたいし」

兄王子は楽しそうに言います。

「それも、いいな。さて、そろそろ行かねば」

王と女王が、席を立ちます。二人とも、笑顔です。


王と女王に続いて、兄弟も帰っていきました。

「あわただしかったですわねぇ、申し訳ありません」

「いいえ、皆さんにお会いできて、光栄です」

王女と皇太子は、のんびりとお茶を飲むのでした。


それから、皇太子は、毎日王女のお茶に呼ばれるようになりました。家族の誰かしらが、飛び入り参加します。このお茶会のことは、城中の噂です。

女官は、王女と夫候補達との顔合わせを減らし、側近は国と妹に事態を知らせる手紙を書きました。


王女は、皇太子といると穏やかな気持ちになりました。時々残念なことをしますが、そのお世話が楽しいのです。思っていた情熱的なときめきではありませんが、王女はこの暖かな気持ちを大事にしたいと思いました。

皇太子は、自分を見てもしっかりしろと言わず、ため息をつかない王女とずっと一緒にいたいと思いました。王女と一緒なら、国王をやっていける気がするのです。


周囲の人々は、そんな二人を生温かい目で見るしかありませんでした。

王女の夫候補の方々も、王女と皇太子を見て、身を引かれます。


やがて、即位20周年の式典も無事に行われ、お祝いに来た各国の方々も帰っていきました。

皇太子も粘って帰国を延ばしてきましたが、いよいよ帰国の日です。国王一家がそろって、見送ります。


皇太子は、国王に挨拶を済ませると、王女の前に来ました。

「アイラーシア王女、お手紙を書いてもよろしいですか?」

「はい、お待ちしています」

相変わらず、のんびりとした二人に、兄王子が口を出しました。

「皇太子、国としてのご提案をお待ちしていますよ」

「は?はい」

いまいちわかってなさそうなので、側近が代わりにに「必ず」と返事しています。

しばらく名残を惜しんでから、皇太子一行は帰国の途についたのでした。


一行に手をふりながら、兄王子が隣の王女に問いかけました。

「…いいのか?あんなんで。今ならまだ間に合うぞ?」

「あんなのが良いのです。そこがかわいいのですもの」

「…ああ、お前あのバカ犬のときもそう言ってたな…。まあ、いいか。幸せになれ、いや、してやれ」

「はい!」


王女と兄王子の横では、弟王子が爆笑し、憮然とした王を女王がなだめておりました。


その後、帰国した皇太子は、速攻で婚約をなかったことにしました。更に、元婚約者にアドバイスをもらい、毎日手紙を書いています。

側近は速やかに国王に事の次第を報告し、帝国として正式に王女に求婚しました。

すぐに承諾の返事が来て、王女と皇太子は婚約者となったのです。


半年後、王女は兄王子に付き添われて、帝国へとやってきました。もちろん、皇太子からもらった手紙も一緒です。

国民皆に歓迎され、王女は皇太子妃となりました。

皇太子は、優しい王として、皇太子妃は彼を支えた賢妃として、歴史に名を残したのでした。


兄王子が、皇太子の元婚約者を国に連れ帰っちゃったのは、また別のお話。



Fin.



これにて終了です。

兄王子の話は「陽光の王子と夜の姫君」で、どうぞ。

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