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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第67話 勇者の剣

「はい、というわけで到着しました。これが、うちのダンジョンの名物です」


 画面に映るのは、開けた広間だった。


 その中央に、人の背丈ほどの、大きな岩がある。


 そして、その岩に。


 ――一振りの剣が、深々と、突き刺さっていた。


タケヒコ「『郷土ダンジョン紹介』のタケヒコです。本日は、この岩窟型ダンジョン五層の、名所をご案内します」


タケヒコ「通称、『勇者の剣』」


『来た、名物回』


『これ、実在するんだよな』


『観光名所になってるやつ』


『抜けないから誰も持って帰れない剣』


タケヒコ「なぜ『勇者の剣』と呼ばれているか。……理由は単純です」


タケヒコ「岩に刺さっていて、誰にも抜けない。……そんなもの、勇者の剣しかないでしょう」


『理屈が雑w』


『でも他に説明のしようがない』


『物語の定番だからな』


タケヒコ「発見から十二年。……これまで、延べ四千人以上が挑戦しましたが、一人も抜けていません」


タケヒコ「リョウマ選手も、来たことがあります。……抜けませんでした」


『日本最強でも駄目なのか』


『あの人が抜けないなら、誰も抜けないだろ』


『そもそも「力」の問題じゃない説もある』


『資格がいるって言われてるやつな』


タケヒコ「ちなみに、協会の調査では、剣の材質も、岩の材質も、既知のものと一致しません」


タケヒコ「……つまり、正体不明です」


『いつものやつだ』


『この国、正体不明が多すぎる』


 ――そして、当然のように。


 その広間の隅に、白い人型が、立っていた。


『いた』


『いつからいた』


『こういう名所、好きそうだよな』


『観光客ムーブ』


タケヒコ「……え? コメント、『白いピクトグラムがいる』? ……本当ですか」


『います』


『剣をじっと見てます』


タケヒコ「……あー。なるほど。……まあ、来ますよね、こういう場所には」


『慣れてるw』


『名所には出るものと思われてる』


 白い人型は、岩に近づいた。


 そして、剣を、しばらく、見上げた。


 柄に、手を、伸ばす。


『触ったぞ』


『あ、これ』


『やる気だ』


『抜く気だww』


『いや、そりゃやるよな』


『目の前にあったら誰でも試す』


 白い人型は、柄を、両手で、握った。


 腰を、落とす。


 構えは、完璧だった。


 ――そして、引いた。


 ……抜けなかった。


『抜けないww』


『あいつでも駄目なのか』


『まあ、四千人が失敗してるからな』


『でも、ちょっと期待してた』


 白い人型は、しばらく、動かなかった。


 そして、手を離し。


 柄を、じっと、見た。


 それから――もう一度、握った。


 今度は、両足を、岩に、掛けた。


 全身の力で、引く。


 ……抜けなかった。


『二回目も駄目w』


『足を岩にかけてるのがもう必死』


『負けず嫌いだからな、あいつ』


タケヒコ「……あの。……コメントによると、挑戦中ですか」


『挑戦中です』


『既に二回失敗してます』


タケヒコ「……はは。……そうですよね。……四千人が抜けなかったんですから」


 ――だが、白い人型は。


 諦めなかった。


 三回目。


 画面の外へ走り、戻ってきた時には、焦茶モードになっていた。


 太い腕。厚い胸板。


『着替えたwww』


『パワー型に変更ww』


『そこまでするか』


『増量してから引くな』


 焦茶の人型が、渾身の力で、引いた。


 岩が、微かに、揺れた。


 ――剣は、抜けなかった。


『岩は動いたw』


『剣は動かないのに岩は動くのかよ』


『力の問題じゃないってことだな』


『資格説、補強されたな』


 四回目。


 白い人型は、僧衣に着替えて、戻ってきた。


 錫杖と、数珠。


 そして、剣の前で、読経を、始めた。


『お経www』


『何かに封じられてる説を試してるw』


『発想としては悪くない』


『でも駄目そう』


 ……剣は、抜けなかった。


 白い人型は、読経を止め、剣を、じっと見た。


 それから、剣の柄を、指で、こんこん、と叩いた。


 反応、なし。


『諦めろw』


『十二年誰も抜けてないんだぞ』


『いや、こいつは諦めない』


『前科がある』


『あの技に三回挑戦した男だぞ』


 五回目。


 白い人型は、けん玉を、取り出した。


タケヒコ「……え、なんですか、それ」


『けん玉です』


『どうする気だ』


 白い人型は、けん玉の紐を、剣の柄に、結びつけた。


 そして、玉を、持って。


 ――遠心力を、使って、引いた。


『物理でどうにかしようとしてるww』


『けん玉の使い方がおかしい』


『でも工夫としては面白い』


『……抜けないけどな』


 六回目。


 白い人型は、網を持ってきて、剣に巻きつけ、鶏五羽を呼んで、引かせようとした。


『鶏まで動員したwww』


『五羽で牽引ww』


『何やってんだよw』


『いや、力ずくでは無理だって分かっただろ』


 ――コケッ。


 鶏たちは、しばらく引いた後、諦めて、羽づくろいを始めた。


『鶏が先に諦めたw』


『賢いな、こいつら』


 白い人型は、その場に、座り込んだ。


 両手で、頭を、抱えた。


『ふてくされてるw』


『そこまでか』


『十二年の壁は厚い』


タケヒコ「……あの。……大丈夫ですか? ……抜けないのは、仕方ないというか。……そういうものなので」


『慰められてるw』


『でも本人は納得してないだろ』


 ――そして。


 白い人型は、突然、立ち上がった。


 そして、剣を、見た。


 次に、岩を、見た。


 剣。


 岩。


 剣。


 岩。


『……ん?』


『何を考えてる』


『嫌な予感がする』


 白い人型が、ぽん、と手を打った。


『あ』


『閃いたやつだ』


『これ、ろくなことにならないやつだ』


 白い人型は、画面の外へ、走った。


 そして、戻ってきた時。


 その手には――チェンソーが、握られていた。


『!?』


『おい』


『まさか』


『やめろ』


『やめろって』


タケヒコ「……あの、コメントの皆さん? ……急に、どうしました?」


『タケヒコさん、下がった方がいい』


『何かが始まる』


 白い人型は、チェンソーの、回転を、上げた。


 そして――剣ではなく。


 剣の刺さった、岩の、根元に。


 刃を、当てた。


『『『やめろおおおお!!!』』』


『岩を切る気だ!!』


『発想がおかしい!!』


『抜けないなら岩ごと持っていくって!?』


『いや、確かに理屈は通ってるけど!!』


『通ってないだろ!! 名所だぞ!!』


 ――ヴィイイイイイン。


 岩が、削れていく。


 白い人型は、丁寧に、正確に。


 剣を包む部分だけを、残すように。


 その周囲の岩を、削ぎ落としていった。


タケヒコ「……あの。……なんか、石を削る音がしてるんですけど」


『気のせいです』


『気のせいじゃない!!』


『名所が!! 名所が加工されてる!!』


『協会に連絡した方がいいだろこれ』


 削り、削り。


 やがて。


 ――剣は、抜けないまま。


 その周囲の岩だけが、削り落とされて。


 剣の刀身の先に、こぶし二つ分ほどの、岩の塊が。


 残った。


 柄。


 刀身。


 そして、その先に、岩の塊。


 ……それは。


 どう見ても。


 ハンマーだった。


『……』


『……え』


『……なんだそれ』


『剣じゃない』


『ハンマーだ』


『勇者のハンマーが誕生した』


『いや、待て、待って』


『十二年の名所が、たった今、ハンマーになった』


 白い人型は、それを、両手で、持ち上げた。


 ――軽々と、持ち上がった。


 岩から、切り離されたのだから、当然である。


『持ち上がったwww』


『そりゃそうだww』


『抜けないなら周りを削ればいい 合理的すぎる』


『合理的だけど絶対やっちゃいけないやつ』


 白い人型は、その「勇者のハンマー」を、しばらく、眺めた。


 振ってみた。


 ――ぶん、と重い音がした。


 悪くない、手応えだったらしい。


 こくこくと、頷いた。


『満足してるw』


『武器として気に入ったのかよ』


『いや、待て』


『そこじゃない』


『そこじゃないんだよ』


 ――そして。


 白い人型は。


 ふと、動きを、止めた。


 手にした「ハンマー」を、見た。


 次に、岩が――正確には、岩だったものの、切り株のような残骸を、見た。


 そして、周囲を、見回した。


 ……タケヒコが、まだ、そこにいた。


 カメラも、回っていた。


『気づいたwww』


『今、気づいたぞ』


『夢中でやってたのか』


『そりゃそうだ、あの集中の仕方は夢中だった』


『取り返しのつかないことをした自覚が、たった今』


 白い人型は。


 両手で、顔(のあたり)を、覆った。


『やっちゃった顔ww』


『例のやつだ』


『あの技に失敗した時と同じ姿勢』


『一生の不覚、二回目』


タケヒコ「……あの。……なんか、静かになりましたけど。……何が起きてるんですか?」


『……』


『……えーと』


『タケヒコさん』


タケヒコ「はい」


『……勇者の剣、ちょっと見てもらっていいですか』


タケヒコ「……え?」


 タケヒコが、岩の方を、見た。


 ――正確には、岩が、あった場所を。


タケヒコ「…………」


タケヒコ「…………え?」


タケヒコ「…………ない?」


『ないです』


タケヒコ「……いや、待ってください。……岩は? ……岩が、削れて……え、剣は? 剣、どこ行きました?」


『……浮いてます』


『あなたの三メートル先で、宙に浮いてます』


『そして、形が変わってます』


タケヒコ「……形」


『ハンマーになりました』


タケヒコ「…………は?」


 ――そして。


 白い人型は、顔を覆った手を、そっと、離した。


 しばらく、じっと、動かなかった。


 そして、ゆっくりと、周囲を、見回した。


 誰もいない。


 いや、タケヒコがいる。


 だが、タケヒコには、見えていない。


 カメラは、回っている。


 ……回っている。


 白い人型は、カメラを、見た。


 じっと。


 そして――


 人差し指を、口があるはずの場所に、そっと、当てた。


 ――しーっ。


『『『無理だろwwww』』』


『無理無理無理』


『十二年の名所だぞ!!』


『隠せるわけないだろ!!』


『全国放送されてるんだぞ今!!』


『同時視聴者、十二万人が見てるからな!!』


 白い人型は、コメント欄を、読んだ。


 そして、しばらく、動かなかった。


 やがて――両手を、上げた。


 降参の、姿勢だった。


『諦めたw』


『そりゃそうだ』


『証拠が多すぎる』


タケヒコ「……あの。……本当に、どうなってるんですか」


『……順を追って説明します』


『白いピクトグラムが、勇者の剣に挑戦しました』


『六回、失敗しました』


『そして、岩ごと切り出しました』


『結果、勇者のハンマーが誕生しました』


タケヒコ「…………」


タケヒコ「……あの、俺、明日から、何をご案内すればいいんですか」


『……勇者のハンマーだった場所を』


タケヒコ「跡地じゃないですか」


『跡地です』


 ――そして、白い人型は。


 しばらく考えるように、その場を、うろうろと歩き回った。


 岩の残骸を、見る。


 手にしたハンマーを、見る。


 カメラを、見る。


 そして。


 ハンマーを、抱えて。


 ――そそくさと、出口の方へ、歩き始めた。


『持ち帰る気だwww』


『証拠隠滅じゃんww』


『いや、隠滅になってない』


『映像に残ってるから』


『でも本人はそう思ってるらしい』


タケヒコ「……あの! 待ってください! それ、市の観光資源なんですけど!!」


 白い人型は、足を止めた。


 振り返る。


 そして――ハンマーを、抱え直した。


 それから、深々と、頭を下げた。


 そして、また、歩き出した。


『謝ってから持ち帰るなww』


『謝れば済むと思ってるw』


『いや、悪いとは思ってるんだよ、多分』


『思ってても持ち帰るのかよ』


 ――と、その時。


 視聴者の一人が、書き込んだ。


『……なあ』


『どうした』


『さっきから、変な音、聞こえてないか』


『音?』


『……いや、待って』


『聞こえる』


 配信の音声に。


 微かに、何かが、乗っていた。


 高い。


 細い。


 ……啜り泣くような。


 ――ひゅう、ひゅう、と。


 白い人型が抱える、ハンマーの方から。


『……』


『……おい』


『……剣、泣いてないか?』


『いや、まさか』


『でも音が』


『風の音だろ』


『風、吹いてないぞ』


タケヒコ「……あの、なんか、音が……。……え? ……泣き声、ですか?」


『……剣が、泣いてるかもしれません』


タケヒコ「……剣が」


『十二年、あそこに刺さってた剣が、たった今、岩ごと切り出されて、連れて行かれようとしてます』


タケヒコ「…………それ、拉致じゃないですか?」


『……』


『……拉致だな』


『拉致だわ』


『魔王軍の兵に続いて、二件目』


『こいつ、持ち帰る癖がある』


『鶏五羽、プロテイン鳥、魔族一体、そして今回、剣』


『家の中がとんでもないことになってる』


 白い人型は、その啜り泣きに気づいたのか。


 足を止めた。


 そして、抱えたハンマーを、じっと、見た。


 しばらく。


 ……そして。


 ハンマーの、柄を。


 ぽんぽん、と、優しく、叩いた。


 なだめるように。


 ……すると、啜り泣きが、少しだけ、小さくなった。


『なだめてるww』


『いや、優しいけども』


『そもそもお前が原因だからな!!』


『マッチポンプの極み』


 白い人型は、そのまま、ハンマーを、抱え直した。


 そして、こちらへ――カメラへ、向き直った。


 ハンマーを、掲げる。


 次に、自分を指差し、それから、大事に抱える仕草。


 最後に、両手で「◯」を作った。


『……訳すぞ』


『「大事にする」だ』


『……それ、拉致犯の常套句じゃないか?』


『言うな』


『でも本気で大事にしそうなのが、こいつのややこしいところだ』


 白い人型は、最後に、タケヒコに向かって、もう一度、深く頭を下げて。


 通路の暗がりへと、消えていった。


 啜り泣きの音も、遠ざかっていく。


 やがて、聞こえなくなった。


タケヒコ「…………えー」


 タケヒコが、跡地の前で、呆然と、カメラに向き直った。


タケヒコ「……本日の郷土ダンジョン紹介、まとめます」


タケヒコ「……名所、『勇者の剣』は」


タケヒコ「……本日をもって、消滅しました」


『『『合掌』』』


『十二年の歴史に幕』


『抜けなかったのに、なくなった』


『抜けないことが売りだったのに』


『いや、待て』


『どうした』


『「誰にも抜けなかった剣を持ち去った存在」って、ある意味、話題性は上がってないか』


『……あ』


『新しい名所が生まれたとも言える』


『「勇者の剣・跡地」』


『……観光客、来そう』


タケヒコ「……あの。……市の観光課から、電話が来てます」


『出ろw』


『説明しろww』


『頑張れ』


タケヒコ「……なんて説明すれば」


『そのまま言え』


『「白い何かが岩ごと切り出して持ち帰りました」』


『信じてもらえるか?』


『映像がある』


『十二万人が証人だ』


タケヒコ「…………分かりました。……行ってきます」


 ――そして、その三日後。


 市の観光課は、「勇者の剣・跡地」を、正式に観光名所として再登録した。


 説明看板には、こう記された。


 『十二年間、誰にも抜けなかった剣が、ここにありました』


 『ある日、抜くことを諦めた何者かによって、岩ごと持ち去られました』


 『現在の所在は、不明です』


『看板、正直すぎるw』


『でもこれ以上ない説明だ』


『観光客、前より増えてるらしいぞ』


『元の剣がある時より人気が出てるの、皮肉すぎる』


『……ところで』


『ん?』


『あの剣、今頃どうしてるんだろうな』


『鶏五羽と、プロテイン鳥と、魔族と、一緒に暮らしてるんだろ』


『地獄か天国か分からん環境だな』


『でも、あいつ、大事にはするだろ』


『そこは信じられる』


『……剣、泣き止んでるといいな』


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