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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第5話 鍔迫り合い


「前回のこと、まだコメントで聞かれるんだけど」


 カメラを構えたユナが苦笑する。


ユナ「白いやつでしょ。何回も言うけど、私たちは何も見てないの」


ミオ「見てないけど、ユナの怪我が治ったのは本当」


サキ「病院でも異常なしだったしね」


アカリ「はい、その話は終わり。今日は五層まで行くよ」


『来た来た』


『例の配信だ』


『アーカイブから来ました』


『ピクトグラム目当ての新規増えたな』


『今日も出るかな』


『怪我人出ないと出ないんじゃないか』


『不謹慎で草』


 五層は静かだった。


 静かすぎた。


アカリ「……おかしい。ここ、いつも小型がうろついてるのに」


ミオ「一匹もいないね」


サキ「嫌な感じ」


 通路の天井で、何かが擦れる音がした。


 全員が上を向く。


 天井に、緑色の巨体が張り付いていた。


 三メートルはある細長い胴体。折り畳まれた両腕の先に、鎌のような刃。


アカリ「カマキリ!? 五層にいるやつじゃない、散って!!」


 巨体が落ちてくる。


 四人が四方へ跳んだ。


『でかい』


『鎌デカすぎだろ』


『五層にいていい見た目じゃない』


『これ七層以下のやつだろ』


『徘徊個体か』


 着地したカマキリが、一番近くにいたサキへ向かった。


 速い。


サキ「っ……!」


 一撃目を屈んで避ける。


 二撃目が盾を掠め、サキの体勢が崩れた。


アカリ「サキ!」


ミオ「今行く……きゃっ!」


 薙ぎ払われた鎌が地面を抉り、破片がミオを退がらせる。


 サキは転がって距離を取ろうとした。


 壁だった。


サキ「……あ」


 カマキリが両鎌を振り上げる。


 壁を背にしたサキと巨体の間に、もう誰も間に合わない。


『まずい』


『死ぬ死ぬ死ぬ』


『サキ!!』


『逃げ場ない』


『誰か!』


 鎌が振り下ろされた。


 甲高い金属音と、機械の稼働音が同時に響いた。


『!?』


『え』


『何の音』


『画面左!!』


『いた!!!』


 サキと鎌の間に、白い人型が割り込んでいた。


 振り下ろされた鎌を、両手のチェンソーが受け止めている。


 回転する刃と鎌の刃が噛み合い、火花が散った。


『来た!!!』


『最初からチェンソーだ!』


『着替え済みで登場した』


『間に合ったああああ』


『[¥10,000] よく来てくれた!!』


『スパチャ早すぎて草』


『気持ちは分かる』


サキ「え……え!? なに、なんの音!?」


 サキの目の前で、鎌が空中で止まっている。


 彼女には、それしか見えていない。


サキ「鎌が、止まって……なんで!?」


アカリ「サキ! 今のうちに離れて!」


サキ「う、うん!」


 サキが壁沿いに転がり出る。


 その瞬間、白い人型がチェンソーを押し返した。


 カマキリの巨体が仰け反る。


『押し勝った』


『パワーもあるのかよ』


『[¥5,000] いけー!!』


『[¥2,000] 白いのがんばれ』


『お前ら財布緩すぎだろ』


『こんなん投げるしかないだろ』


 カマキリが体勢を立て直し、左の鎌を横薙ぎに振るった。


 白い人型が屈む。頭上を刃が通過する。


 返す右の鎌。


 チェンソーが下から迎え撃ち、再び金属音と火花。


 二合。


 三合。


 打ち合うたび、通路に稼働音と激突音が反響する。


アカリ「なにが起きてるの……鎌が、勝手に……」


ミオ「音、音がずっとしてる! 工事みたいな音!」


ユナ「……もしかして、前のあれ?」


アカリ「前のって」


ユナ「コメント! コメント読んで!」


『そうだよお前らの白いやつだよ』


『前回の医者が今チェンソーでカマキリと打ち合ってる』


『文字にすると意味不明すぎる』


『[¥3,000] ユナちゃんの恩人応援』


『恩人であってるのか?』


『恩ピクトグラム』


 四合目。


 鎌とチェンソーが正面から噛み合い、両者がそのまま押し合いになった。


 白い人型の足が、じり、と床を滑る。


『押されてる!?』


『踏ん張れ!』


『[¥10,000] 負けるな!!』


『力は流石に巨体が上か』


『いや見ろ、角度変えた』


 白い人型がチェンソーをわずかに傾けた。


 噛み合っていた鎌が刃の上を滑り、カマキリが前へ泳ぐ。


 がら空きになった懐へ、白い人型が踏み込んだ。


 稼働音が一段高くなる。


 振り抜かれた刃が、右の鎌を根本から断った。


『切った!!!』


『鎌もげた!!』


『うおおおおお』


『[¥50,000] 最高』


『五万は草』


『金銭感覚バグってる』


『バグるわこんなん』


 カマキリが絶叫し、残った左の鎌を滅茶苦茶に振り回す。


 白い人型は一歩も引かず、その一撃をチェンソーで弾き上げた。


 五合目。


 大きく開いた胴へ、回転する刃が水平に走る。


 緑の巨体が、二つに分かれて崩れ落ちた。


 稼働音が止む。


 静寂。


 通路には、荒い呼吸を繰り返す四人と、動かない巨体と、白い人型だけが残った。


サキ「………………死んだ、かと思った」


アカリ「サキ、無事!? 怪我は!?」


サキ「ない……多分、ない。鎌が急に止まって、それから、勝手に……」


ミオ「勝手にカマキリが切れてった」


ユナ「……ね、私の時と同じでしょ。見えない何かがいるの」


『いるぞ』


『今もお前らの目の前にいるぞ』


『チェンソー下ろしてこっち見てる』


『仕事終えた職人の風格』


『[¥1,000] お疲れ様でした』


『スパチャに礼儀正しいの好き』


 白い人型が、四人の方へ向き直った。


 サキが、何もない空間をじっと見つめる。


サキ「……そこに、いるんだよね」


『いる』


『ちょうどそっちであってる』


『すごい、方向合ってる』


サキ「あの……ありがとう。助かりました」


 サキが頭を下げた。


 白い人型は少しの間動かず、それから片手を上げた。


『手振った!』


『返事した』


『言葉分かってるんだよなやっぱり』


『[¥2,000] いいもの見た』


 白い人型が画面の端へ歩いていく。


『帰るぞ』


『今日は治療なしか』


『怪我人いないからな』


『怪我する前に助けたんだよ』


『……あれ、それって前より凄くない?』


『前は怪我してから来た 今回は死ぬ前に来た』


『間に合わせに来たってことか?』


 白い姿が、映像から消えた。


アカリ「……今日の配信、切り抜いていい?って聞かれたら全部許可でいい?」


ユナ「いいんじゃない。どうせ私たちには何も映って……あー、映ってるのか。私たちに見えてないだけで」


ミオ「その言い方、なんか怖いからやめて」


『スパチャ総額いくらだよ今日』


『本人受け取れないのに投げられ続ける白いやつ』


『配信者の収益にはなるから』


『命の恩人に投げ銭が届かない問題』


『グッズ化はよ』


『勝手にグッズ化したら怒られるだろ』


『誰に?』


『……誰に?』

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