↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/75

第32話 珍走団

「……えー、あー。テスト、テスト。……映っとるんか、これ」


 画面が、ぐらぐらと揺れた。


 浮遊カメラの設定に手間取っているらしい、日焼けした若い男の顔が、アップになったり遠くなったりを繰り返す。


シュウヘイ「……よし、多分映っとる。えー、初めまして。シュウヘイいいます。今日から配信、始めます」


 同時視聴者、5人。


シュウヘイ「地元は山しかない田舎でして。近所に小さいダンジョンがあるもんで、ガキの頃から潜っとりました。今日は、その、都会のもんはこういうの見るんやろ思うて……あの、見とる人、おりますか」


『おるで』


『初配信見に来た』


『新人発掘が趣味なんや、わし』


『初配信タグから来ました』


『5人おるな 物好きが揃っとる』


シュウヘイ「5人も! ありがとうございます! 今日はよろしくお願いします!」


 探索が始まった。


 そして、視聴者5名は、すぐに気づいた。


 この男、動きが、おかしい。


 通路に現れた中型モンスターを、シュウヘイは、鉈一本で、こともなげに処理した。


 三体まとめて、無駄のない動きで。


シュウヘイ「……ほい、と。すんません、地味で。うちの山のダンジョン、こういうのばっかり出るんで、慣れとるんです」


『いや待って』


『今の動き、慣れてるってレベルじゃないぞ』


『中型三体を鉈で……?』


『ド田舎の実力者ってやつか』


『初配信タグ、たまにこういう逸材おるから止められんのよ』


シュウヘイ「コメントありがとうございます。いやいや、うちの爺ちゃんの方がずっと強いですわ。儂なんぞまだまだで」


『爺ちゃん何者だよ』


 順調な探索は、七層で、終わった。


 シュウヘイの足元の床石が、かこん、と沈み――足元一面に、光の紋様が広がった。


シュウヘイ「……あ。これ、あかんやつや」


 光が、弾けた。


 次の瞬間、シュウヘイの立っていた場所には、誰もいなかった。


『!?』


『消えた!?』


『転移トラップだ!!』


『どこ飛ばされた!?』


『カメラ! カメラは追尾……ついてった! 映像生きてる!!』


 浮遊カメラは、転移の光に巻き込まれる形で、主と共に飛ばされていた。


 映像が、回復する。


 そこは、広大な、円形の空間だった。


 そして、その空間には――びっしりと、モンスターがいた。


 床に。壁に。天井に。


 大小さまざまな影が、蠢いている。


 その数、百は下らない。


シュウヘイ「…………」


 シュウヘイは、鉈を構えたまま、ゆっくりと周囲を見渡した。


シュウヘイ「……えー、視聴者さんら。これ、あれですかね。いわゆる、モンスター部屋、いうやつですかね」


『モンスター部屋だ』


『転移トラップの飛ばし先の最悪パターン』


『多い、多すぎる』


『百体はいるぞ』


『まずいまずいまずい 通報……いや、位置が分からん! 転移先の座標なんて誰も知らん!』


『協会に連絡だけ入れた 転移トラップの報告として』


『俺たち5人しか見てないのに、何ができるんだ』


『とにかく声かけ続けるぞ 一人にさせるな』


シュウヘイ「……まあ、なるようになるですわ。爺ちゃんが言うとりました。『囲まれたら、囲みの薄いとこから順に薄うしていけ』と」


 シュウヘイは、鉈を握り直した。


 モンスターたちが、一斉に、こちらを向いた。


 包囲が、縮まり始める。


シュウヘイ「……ほんなら、始めますか」


 その、時だった。


 遠くから、地響きが、聞こえてきた。


 どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、どっ――


 複数の、重い足音。


 それに混じって。


 ――「「「「「コケコッコオオオオオオォォォ!!!」」」」」


シュウヘイ「…………は?」


『!?』


『この鳴き声は!!』


『嘘だろ!? こんな場所に!?』


『来た!! 来たぞ!!!』


『5人しか見てない配信に来てくれた!!』


 モンスター部屋の入口――百体のモンスターがなだれ込んできたであろう大穴から、それは、突っ込んできた。


 巨大なニワトリが、五羽。


 編隊を組んで。


 先頭の一羽の背には、白い人型。


 そして、しんがりには、焦茶色の、丸々としたプロテイン鳥が一羽、太い脚で地を蹴って続いていた。


『総員出撃だああああ!!』


『五羽+一羽のフルメンバー!!』


『プロテイン鳥まで参戦してる!!』


『新入りの初陣だ!!』


『珍走団の御成りだ!!!』


シュウヘイ「……で、でっかい鶏? 鶏の、群れ……? なんや、あれ。なんやあれ!?」


 シュウヘイの疑問に、答える者はいなかった。


 答える代わりに、宴が、始まった。


 一号機が、包囲の一角に頭から突っ込み、機関銃のごとき速度で、ついばみ始めた。


 一突きごとに、小型モンスターが一体、消えていく。


 二号機と三号機は、左右に展開し、鉤爪の薙ぎ払いで、中型を弾き飛ばしていく。


 四号機は、天井に張り付いたモンスターへ跳びかかり、引きずり下ろしては、ついばんだ。


 五号機は、逃げ出そうとする獲物を、丁寧に、回収して回った。


 そして、焦茶のプロテイン鳥は――丸々とした巨体で、モンスターの群れに、体当たりを、かました。


 保齢球の球のように、影が、まとめて吹き飛んでいく。


『ディナー会場と化したモンスター部屋』


『ついばむ速度が今日も音速』


『プロテイン鳥、戦い方が体当たり一辺倒なの草』


『脳筋の飼い主(坊主'z)の影響か?』


『違う、あれが種族の戦法なんだ、多分』


『どっちにしろ筋肉で解決してる』


 白い人型は、一号機の背の上から、戦場全体を指揮していた。


 右を指せば二号機が右の群れへ。


 左を指せば三号機が左へ。


 そして、シュウヘイに迫っていた一団を指せば――五羽が、進路を、そちらへ揃えた。


シュウヘイ「う、うわっ!? こっち来た!? 鶏が!?」


 シュウヘイに群がっていたモンスターたちが、五方向からの鶏の襲撃に、蹴散らされていく。


 気づけば、シュウヘイの周囲だけ、ぽっかりと、安全地帯ができていた。


シュウヘイ「……た、助けて、くれとる……ん、か? この鶏ら……」


『助けてくれとるんや!!』


『その鶏たちは味方だ!!』


『先頭の鶏の背中に、見えない乗り手がいる!! 日本一有名な怪異だ!!』


『説明が追いつかんが、とにかく信じろ!!』


シュウヘイ「見えない、乗り手……? ……いや、視聴者さんら、なんぼなんでも、そんな話……」


 その時、シュウヘイの目の前に、一号機が、ずん、と降り立った。


 二メートル半の巨体が、シュウヘイを見下ろす。


 そして、背中を、低くした。


 ――乗れ。


 と、言わんばかりに。


シュウヘイ「…………乗れ、いうことですか。これ」


『乗れ!!』


『乗るんだ!!』


『はねどりタクシーだ!! 脱出便だぞ!!』


『安全は保証されてる!! 過去に実績多数!!』


シュウヘイ「……えぇい、ままよ!!」


 シュウヘイが、羽毛を掴んで、背によじ登った。


 その前――首元の定位置には、白い人型が座っている。


 シュウヘイには、見えていない。


 だが、彼の掴んだ羽毛のすぐ先で、白い人型が、前方を、びし、と指差した。


 ――コケッ!!


 一号機が、駆け出した。


 残る四羽と一羽が、最後の獲物を平らげ、あるいは弾き飛ばしながら、後に続く。


 モンスター部屋の大穴を抜け、通路を、疾走する。


シュウヘイ「はっ……速っ!! 速い速い速い!! うわ、うわああああ!!」


『時速どれくらい出とるんやこれ』


『カメラの追尾が限界ギリギリ』


『五羽と一羽の編隊走行、圧巻すぎる』


『珍走団(善良)』


 通路を駆け、階段を三段飛ばしで登り、時に壁を蹴って角を曲がり。


 編隊は、地上への道を、まっすぐに駆け上がっていった。


 そして――入口の光が、見えた。


 一号機は、ゲートの手前で、緩やかに減速し、止まった。


 背中を、低くする。


 ――到着。降りて。


シュウヘイ「……つ、着いた……? 地上……?」


 シュウヘイは、ふらふらと、鶏の背から降りた。


 腰が、抜けかけていた。


 五羽のニワトリと、一羽のプロテイン鳥は、降りたシュウヘイの前に、ずらりと、整列した。


 先頭の一号機の背の上で、白い人型が、サムズアップをした。


 シュウヘイには、六羽が並んで自分を見ている、としか分からない。


シュウヘイ「……あ、あの。……助けて、もろたんですよね。儂。あんたらに」


 六羽が、こくり、と頷いた(ように見えた)。


シュウヘイ「……なんが、なんやら、さっぱり分からんのですけど。……ありがとう、ございました」


 シュウヘイは、深々と、頭を下げた。


 顔を上げた時には、六羽は、もう背を向けていた。


 ――「「「「「コケコッコオオオオォォ!!」」」」」


 ――クルアアアァ!!


 五重奏と、一声の鳴き声を残して。


 編隊は、ダンジョンの暗がりへと、駆け去っていった。


 シュウヘイは、茫然自失のまま、その背を、いつまでも見送っていた。


シュウヘイ「…………視聴者さんら。……儂、今日、何に助けられたんでしょうか」


『説明すると長くなるんやが』


『まず、日本のダンジョンには白い怪異がおってな』


『そいつが討伐推奨個体の鶏を五羽飼っとって』


『最近、色違いのプロテイン鳥が六羽目に加わったんや』


シュウヘイ「…………すんません。一個も分からんです」


『やろな』


『wikiのURL貼るから、家帰ってゆっくり読み』


『それ読んでも多分分からんけどな』


シュウヘイ「……はあ。……あの、それより視聴者さんら。最初からずっと見ててくれて、通報とかも考えてくれて……ありがとうございました。あんたらがおらんかったら、儂、あの鶏に乗る決心、つかんかったです」


『気にすんな』


『こっちこそ、ええもん見せてもろたわ』


『……あ、そや。一応言うとくけど』


シュウヘイ「はい?」


『あんたの配信、今、アーカイブ化される前から切り抜かれとる』


『「珍走団、新人配信者を救出」ってタイトルでな』


『同時視聴者、5人やったのが、今リアルタイムで8,000人おるで』


シュウヘイ「……は?」


 シュウヘイが、画面を確認した。


 同時視聴者:8,412人。


 数字は、今も増え続けていた。


シュウヘイ「…………爺ちゃん。都会は、ようわからんとこですわ」


『ド田舎も大概やったけどな(中型三体を鉈)』


『それな お前さんの実力も普通にバズる要素やぞ』


『初配信で転移トラップとモンスター部屋と珍走団、全部引く男』


『持っとるわ、こいつ』


『登録者、今3,000超えた』


『最初の視聴者5名、古参ヅラしてええぞ』


『初日から見とるからな 誰よりも古参や』


『5人で見守った夜のことは忘れんわ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。