↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/75

第30話 同志

「「「うおおおおおおッッ!!」」」


 配信開始の雄叫びは、今日も健在だった。


「どうも! マッスル坊主'z、ダイゴ!」


「テツだ!」


「ガンジだァ!!」


 三人の坊主頭が、オイルで黒光りしながら、十五層への道を進んでいた。


ダイゴ「本日の企画を発表する! その名も……『プロテイン鳥、飼育計画』ッッ!!」


『は?』


『飼育?』


『討伐じゃなくて?』


『前回は解体して持ち帰っただろお前ら』


テツ「前回の胸肉を食べて、我々は気づいてしまった! あれを……あの高タンパク低脂質を、安定供給できたらどうなるか!!」


ガンジ「毎日が胸肉パーティーだァ!!」


ダイゴ「そこで思い出したのだ! あの白い友が、巨大な鶏を飼い慣らしていたことを!!」


テツ「鶏がいけるなら! プロテイン鳥もいけるはず!!」


『発想が完全に畜産』


『はねどりライダーの映像から着想を得るな』


『テイムって文化、この世界にあるのか?』


『ないぞ モンスターの飼育例、あいつのニワトリ五羽だけだ』


『前例が怪異しかいない』


ダイゴ「テイム? という文化は知らん!! だが、試す価値はある!! 筋肉と誠意があれば、心は通じる!!」


『理論が雑w』


『誠意(ダブルバイセップス)』


『まあこの人たちの誠意は本物だからな……』


 十五層。


 三人は、前回の遭遇地点である岩場へ、慎重に進んだ。


 餌として、大量のプロテインと、茹でたブロッコリーを持参している。


 その道中、画面の端に、白い人型が、ひょこっと合流した。


『来た!』


『今日は最初から見えてるとこに来たな』


『飼育計画って聞いて興味持ったんじゃないか』


『先輩テイマーとして視察に来た説』


ダイゴ「む! コメントによると、白い友が来ているらしい!! 歓迎するゥ!!」


 三人が、揃って後方に向かってダブルバイセップスを決めた。


 白い人型は、少し考える素振りをしてから、すたすたと画面の外へ歩いていき――戻ってきた時には、焦茶色になっていた。


 太い腕。厚い胸板。


 あの、バルクアップ仕様の焦茶モードだった。


『着替えたwwww』


『焦茶モードだ!!』


『坊主'zに会う時の正装』


『ドレスコードを守る怪異』


『わざわざ着替えに行ったのが律儀すぎる』


テツ「コメントいわく、焦茶になってくれたらしい!! 友よ!! その心遣い、胸に響くぞ!!」


 焦茶の人型は、ダブルバイセップスで応えた。


 三角筋が、主張していた。


『フォームがまた良くなってる』


『自主練の成果』


『会うたびに仕上がってるんよ』


 四人(三人と一体)は、岩場の奥へ進んだ。


ガンジ「……いた」


 岩場の陰。


 丸々とした胸肉のシルエットが、見えた。


 三人は息を潜め、そっと近づき――そして、固まった。


 そこにいたプロテイン鳥は、前回の個体と、色が違った。


 全身が、深い、艶のある――焦茶色だったのだ。


ダイゴ「…………こげ茶」


テツ「…………だと?」


ガンジ「……色違い個体……!? プロテイン鳥の、レアカラー……!?」


『焦茶wwww』


『色違いだ!!』


『野生の色違い、遭遇率どんなもんなんだ』


『激レアだろ プロテイン鳥自体が幻なのに』


『てか今この画面、焦茶が二体いるんだが』


『あいつと色被りしてるww』


 焦茶のプロテイン鳥が、侵入者に気づいた。


 太い脚で、地を掻く。


 小さな翼を、威嚇するように、広げた。


 ――クルアアアァ!!


ダイゴ「警戒されている!! だが、逃げてはいない!! 脈はあるぞ!!」


テツ「餌だ!! まず餌で誠意を!!」


 テツが、茹でブロッコリーを一房、そっと地面に置いて、下がった。


 焦茶のプロテイン鳥は、ブロッコリーと三人を交互に見て、警戒しながら、じり、じり、と近づき――ぱくり、と食べた。


 ――クルル……。


 少しだけ、警戒が緩んだ。


『食べた』


『第一段階クリア』


『でもまだ警戒してるな』


『そりゃそうだ、こいつら前回、同族を解体して持ち帰った奴らだぞ』


『鳥からしたら不審者オブ不審者』


ダイゴ「……よし。ならば、次の段階だ。言葉が通じぬなら……身体で語るしかあるまい!!」


 ダイゴが、一歩前に出て、ゆっくりと、サイドチェストを決めた。


 威嚇ではない。


 敵意がないことを示す、彼らなりの、最大の誠意だった。


『始まったw』


『鳥にポージングで語りかけるな』


『これが誠意なんだよなあ、この人たちの』


『伝わるのか? これ』


 焦茶のプロテイン鳥は、首を傾げた。


 ぐ、と胸を張った男の姿を、じっ、と見る。


 それから――自分も、ぐ、と胸肉を、張った。


『!?』


『張り返したwwww』


『胸肉のサイドチェストww』


『応えたぞ!!』


『通じてる!! なんでだよ!!』


テツ「おおお!! 応えた!! 応えたぞダイゴ!!」


ガンジ「ならば俺もォ!! ラットスプレッドだァ!!」


 ガンジが、広背筋を広げる。


 焦茶のプロテイン鳥が、翼を、ばさり、と広げた。


 鳥なりの、ラットスプレッドだった。


 テツのモストマスキュラーには、全身の羽毛を、ぶわり、と逆立てて応えた。


『完全に会話が成立してるwwww』


『筋肉披露会が始まってしまった』


『種族の壁を越えるポージング』


『羽毛モストマスキュラーかわいいな』


『かわいい……のか? 二メートルあるぞ』


 そして、焦茶の人型も、輪に加わった。


 四者、車座になっての、ポージングの応酬。


 ダブルバイセップス。サイドチェスト。ラットスプレッド。


 人間三人と、怪異一体と、モンスター一羽が、無言で、筋肉だけで語り合っていた。


 その異様な宴を――少し離れた岩陰から、覗いている影が、複数あった。


 通りかかった小型モンスターの群れだった。


 五、六体が、岩陰から顔だけ出して、車座のポージング大会を、じっ、と見ていた。


 そして、誰からともなく――そそくさと、来た道を引き返していった。


 関わり合いになりたくない、という背中だった。


『モンスター逃げたwwww』


『ドン引きして帰ったぞ』


『「ヤバい集会がある」って顔してた』


『同族(プロテイン鳥)すら参加してる集会だからな』


『筋肉は最強の魔除けだった……?』


 ポージングの宴が、ひと段落した頃には、焦茶のプロテイン鳥は、すっかり警戒を解いていた。


 テツの隣に座り、ブロッコリーをもらっては、嬉しそうに鳴いている。


ダイゴ「……懐いた。懐いたぞ、二人とも」


テツ「ああ。……こいつ、いい奴だ」


ガンジ「胸肉の張りも、一級品だァ……」


『餌付けとポージングで心を開かせた』


『前代未聞のテイム手法』


『論文書けるぞこれ』


『「筋肉披露によるモンスター懐柔の一考察」』


ダイゴ「よし! では、連れて帰……」


 言いかけて、ダイゴは、止まった。


ダイゴ「……待て。冷静に考えろ、俺。……我々の家は、普通のアパートだ。二メートル級の鳥を、飼えるか?」


テツ「……飼えん。大家に怒られる」


ガンジ「そもそも、モンスターだァ……。飼育の法律も、ないィ……」


『今頃気づいたのかよw』


『計画段階で気づけ』


『アパートの大家に配慮する筋肉』


『詰んでるじゃん、飼育計画』


 三人が、頭を抱えた。


 その様子を見ていた焦茶の人型が、ぽん、と手を打った。


 そして、焦茶のプロテイン鳥を指差し、次に、遠くを指差した。


 両手で屋根の形を作り、それから指を五本立てて、鳥が歩き回る様子を手振りで示す。


『ん?』


『屋根……家?』


『指五本……あっ』


『ニワトリ五羽だ!!』


『「うちで預かる」って言ってるんじゃないか?』


『あいつの家(所在不明)には五羽の先輩がいるからな』


『環境が違いすぎる』


ダイゴ「……! コメントによると、友が、預かってくれると!?」


 焦茶の人型が、力強く、頷いた。


 それから、条件を示すように、指を一本立て――三人の持つプロテインの袋を、指差した。


『取引だw』


『「預かる代わりにプロテインをよこせ」ってことか』


『餌代の要求、真っ当すぎる』


『物々交換の経済が生まれてる』


テツ「取引成立だァ!! このプロテイン、全部持っていけ!! 最高級のホエイだ!!」


ガンジ「毎月、届ける!! どこに届ければいいかは分からんが、このダンジョンの入口に置いておく!!」


『定期便の契約まで結んだw』


『置き配(プロテイン)』


『支払いサイトが確立された』


ダイゴ「そして、友よ! 一つだけ、願いを聞いてくれ!!」


 ダイゴは、びし、と指を突きつけた。


ダイゴ「たまに!! 会わせてくれ!! こいつはもう、我々の……筋肉で語り合った、同志だからな!!」


 焦茶の人型は、頷いた。


 焦茶のプロテイン鳥も、翼を、ばさりと広げて応えた。


『同志認定w』


『食材から同志への大出世』


『飼育計画、最終的に「友達の家で飼ってもらう」で着地』


『小学生の飼えない捨て犬みたいな結末』


 別れ際。


 三人と、焦茶の人型と、焦茶のプロテイン鳥は、最後に全員で、揃いのモストマスキュラーを決めた。


「「「また会おう!! 同志ィィィ!!!」」」


 焦茶の一体と一羽が、通路の暗がりへ、消えていく。


 色まで揃った主従の後ろ姿は、妙に、様になっていた。


『色が揃った主従、絵になるな』


『焦茶コーデ』


『wikiのペット欄:ニワトリ×5、プロテイン鳥(色違い)×1(New!)』


『動物園になってきたな、あいつの家』


『餌代、プロテイン現物支給で賄われる家』


 その後ろ姿を見送りながら、コメント欄には、一つの疑問が、静かに流れていた。


『……ところでさ』


『ん?』


『こいつらの当初の計画って「安定供給」だったよな』


『つまり最終的には食べる予定だった』


『同志になった今、どうすんだそれ』


『倫理とか大丈夫なんですかねえ』


『畜産って本来そういうものではあるが』


『ポージングで心を通わせた相手だぞ、もう』


『情が移った時点で詰んでるんだよなあ』


ダイゴ「……ところで二人とも。今、ふと思ったのだが」


テツ「なんだ」


ダイゴ「……あいつの胸肉を食べる未来が、想像できなくなった」


ガンジ「……ああ。ブロッコリー食べる姿が、可愛かったからなァ」


テツ「…………卵が採れる種なら、卵だけで、いいかもしれん」


『ほらwwww』


『言った通りになったww』


『飼育計画、開始三時間で「食」の字が消滅』


『畜産の道、初日で挫折』


『倫理は守られた、情によって』


『プロテイン鳥、命拾いしたな』


『でも冷静に考えると「知り合いに預けた元食材に月一で会いに行く」って字面、なんなんだ』


『考えるな、楽しめ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。