第十三章 斥候たちの密会
第十三章 斥候たちの密会
さらに一週間が過ぎた朝、フェリックスとポールは火が入ってすぐの暖炉に両手をかざしてベッタリくっ付いていた。プリシラは厨房の釜戸に火を起こしてお釜でお米を研いでいた。
母屋の中で飼っているヤギがひと声鳴いた。
メエエェ〜〜ッ!
すると、それを聞きつけたデボラが寝室から起きてきた。
「ヤギさん、待ってて。すぐニンジンを持って来てあげる!」
デボラはそのまま地下倉庫に行ってニンジンを三本持ってきて、それをヤギに与えた。
フェリックスが言った。
「あまり家畜を甘やかしたらだめだぞ。そのうち、ニンジンしか食べなくなってしまう…」
「私のヤギさんだから、私に懐いてもらわないと困る!」
(…お前のヤギじゃないだろ。)
みんなはそう思った。
フェリックスは一計を案じて、含み笑いをしながら言った。
「ニンジンばっかり食べさせていると…ヤギの乳がニンジン味になるぞ。」
ヤギにニンジンを食べさせていたデボラの手がピタリと止まった。
(そんなバカな…!そんな事があり得るのか?…でも、本当にヤギさんの乳がニンジン味になったらちょっと嫌だな…。)
ニンジンをもらっているヤギを見て、母屋の裏口付近に繋がれていた馬が啼いた。
ヒヒィ〜〜ン!
デボラは地下倉庫から今度はキャベツ一個を持ってきた。
「お前も欲しいのか…ホレ。」
馬はデボラのキャベツを美味しそうに食べて、キャベツを平らげると…その口でデボラの肩を噛んだ。
「痛ててて…こ、こいつ…!」
それを見て、フェリックス、プリシラ、ポールは笑った。
ポールが言った。
「母ちゃん、それ甘噛みだよ。」
「アマガミ?…痛たたた…何じゃソレ⁉︎」
今度はフェリックスが笑いながら言った。
「ははは…デボラ、馬に好かれたな。馬はお前のこと気に入ったみたいだぞ。馬はヤギよりも賢いからな、もしかしたら…命を助けてもらって、お前のことを命の恩人だと思っているかもしれんな。」
「そうなのか…?痛ててて…にしては痛い愛情表現だな…。」
デボラは何とか馬から離れて、ポールを押し退けて暖炉の前に中腰になって両手を暖めた。すると…ヤギさんがデボラの背中に忍び寄って来て、デボラのお尻に頭突きを敢行した。
ドンッ…
「うわっ…‼︎」
デボラはもう少しのところで暖炉に掛かった大釜に頭をぶつけそうになった。
「ううう…ヤギさん、何をするぅ〜〜っ⁉︎」
デボラはハッとした。
「これは…もしかして、ヤギさんの愛情表現⁉︎」
「いや、もっとニンジンが欲しいだけだろ。」
朝食を済ませたフェリックスは南側の窓を開けて空を眺めた。
「今日は天気が良いな。午前中は雪掻きをして…午後から久しぶりに城下町に行ってみるか。」
昼下がりのエステリック城下町。
ティモシーは町女の格好をしているコニーに言った。
「ここだよ。この通りが平民が買い物をする商店街になってるんだ。多分、ここが一番安く品物を売ってる。」
「さすが詳しいな、ティモシー…うん、ありがとう。」
「僕の勘だと…今日あたり来るんじゃないかなぁ?…この二週間ほど雪が酷かったからね。今日は天気が良いから、食料を買いに来ると思うな。」
「…だといいな。」
「僕は通りの向こう側で見張ってますよ。」
「えっ、君は君の仕事があるだろう…それは悪いよ。」
「屑鉄集めより…友軍のお手伝いの方が大切でしょう。」
「君、いい奴だな!」
コニーは考えていた。
「こんにちわ。良い天気ですね。」
「いらっしゃい。」
「…ここのお店が良いって、フェリックスさんに勧められてやって来たんですけど。」
A「フェリックス…誰だったかなぁ?」
B「ああ、フェリックスさんね。ありがたいね、会ったらよろしく言っておいてくださいね。」
Aパターンなら、そこはフェリックスの行き付けの店ではない。Bパターンなら大当たりだ。
コニーはまず、食料品の要…穀物を扱う粉屋に入って行った。
「こんにちわぁ〜〜。良い天気になりましたねぇ。」
「へい、いらっしゃい。おや…奥さん、初めて見る顔だね。」
(…「奥さん」かい、「お姉さん」って言えよ!)
「ああと…最近引っ越して来てねぇ…」
「へえぇ…城下町から出て行く連中は多いけどね、珍しいね。」
「んでね、城下町の事をよく知らなくてさ…フェリックスさんに『粉屋ならここだよ!』って教えてもらったんだよ。」
「おおっ、そうかい。あんたフェリックスの知り合いかい、ノーチルス村の人?」
(ノーチルス村かっ!…これ以上ない情報だっ‼︎)
「…そそ、ノーチルス村に引っ越して来たの。お安いのある?…ライ麦とか大麦とか。」
「生憎だったねぇ…ライ麦や大麦は入荷するとすぐ売れちゃうんだ。」
「それは困ったわねぇ…じゃ、他を当たって…」
「お米ならあるよ。」
「…え?」
「この前フェリックスが全部買って行ってくれたんだが…他の店じゃ売れないみたいでね、俺が引き受けたんだよ。だから…100kgくらいあるよ?」
「お米かぁ〜〜、良いねぇ。じゃ、20kg買っちゃおうかしら!」
(うおおぉ〜〜っ!久しぶりに米が食えるっ‼︎)
「買ってくれるのは嬉しいけど、あんた…お米の食べ方、知ってるのかい?」
「ん…んんん〜〜…知ってる知ってる、えっと、フェリックスさんに教えてもらった…!」
「そうか、良かった。ならさぁ…ちょっと安くしてあげるからさぁ、お米の食べ方ってのを俺にも教えちゃくれないだろうか。それが判らないとお米が売れないんだよ。…いやね、フェリックスの奥さんが知ってるらしいけど…教えてくれなかったんだよ、変な人だよねぇ。」
(うおっ…デボラ確定っ‼︎)
コニーはお米20kgを肩に担いで粉屋を出た。そして、通りの向こうにいるティモシーに指で粉屋を指し示して合図を送った。
(このお店を見張って!)
午後二時頃、ようやく雪掻きが終わってフェリックスたちは外出の準備をしていた。倒壊した厩から馬ゾリを引っ張り出すのは大変だったが何とかなった。
普段であれば外出を嫌がるデボラだったが、さすがに二週間も母屋に缶詰になっていたせいで、快く馬ゾリに乗ってくれた。
「お米があったらまた買い足そうか。でも、それじゃ飽きるから、あればライ麦か大麦も買うか…」
ポールが嬉々として言った。
「父ちゃん父ちゃん、もうね…羊皮紙が真っ黒になっちゃったよ…もう書くところがないよ。」
「そっかぁ…羊皮紙は高いんだが、でも仕方ないかぁ…買うか。」
教育とは…「投資」だ。
デボラも言った。
「五寸釘を買おう。」
「うっ…もしかして、またアレに使うのか?」
「アレに使うのだ。四寸釘は軽過ぎる。」
フェリックス一家が馬ゾリで村道を走っていると、缶詰から解放された子供たちが畦道でソリ遊びをしていた。
デボラを見て…
「おっ、ポールの母ちゃんだっ!」
「熊殺しのデボラだっ‼︎」
そう叫んで、子供たちはしばらくフェリックスの馬ゾリを追いかけた。ポールは自分の事のように喜んで、友だちに手を振っていた。デボラも…悪い気はしなかった。
フェリックスの馬ゾリは城下町にやって来た。馬ゾリを通りの隅に置いて、フェリックス一家はまず雑貨屋に寄った。
「羊皮紙をくれ。このくらいのヤツを二枚…いや四枚。」
「一枚銅貨十五枚ね。四枚で…」
プリシラが答えた。
「銅貨六十枚っ!」
「そうそう…銅貨六十枚ね。おや、お嬢ちゃんは計算ができるんだね。」
デボラは店主に言った。
「私もプリシラもポールも計算ができる!できないのはフェリックスだけだ…舐めるなよっ!」
「…すみません。」
プリシラは得意顔だった。その反面…フェリックスは頭を抱えていた。そして…
「…五寸釘を50本頼む…。」
次にフェリックスたちは粉屋に入った。
「やぁ、フェリックス。」
「やぁ、また来たよ。ライ麦、大麦…お米あるかい?」
「ライ麦と大麦は売り切れだ。お米はあるよ…80kgある。それがね、お昼前にお前さんの知り合いって人が20kg買って行ってくれたよ…」
「誰?」
「名前は訊かなかったなぁ…。ノーチルス村に最近引っ越して来た女の人だよ。」
「…そんな人いたかなぁ…。」
「おかしいなぁ…お米の食べ方をあんたに教わったって言ってたよ?」
「えええ…?」
デボラは嫌な予感がした。
(20kg買って行った奴がいる…ヒヤカシなら1kgでも2kgでも構わないはずだ。明らかにお米を知っていて大好きで20kg買って行ったんだ。そして、お米の食べ方も知っている奴だ…まさか?)
すると粉屋に少年が入って来た。
「おっ、トムじゃないか、精が出るなぁ。」
「こんちわ。」
「トム、悪いけど屑鉄はないよ。」
「そっかぁ…残念だ。」
ティモシーはデボラとフェリックスの方を見て、わざとらしく驚いて見せた。
「あっ…フェリックスさん、デボラさん、お久しぶりぃ〜〜。」
「おお、君とは確か…大循環駅馬車の時に会ったよね。」
デボラは無言で…「近づくな!」という強烈な「陰キャ」のオーラを発した。ティモシーはちょっと怖かったが、素早く右手でデボラに「手信号」を送った。
(…僕に着いて来て。)
「手信号」は上級の兵士なら誰でも知っている通信手段だ。同盟三国の「手信号」とイェルマの「手信号」は微妙に違うが、文法構造は同じなのでだいたい通用する。フェリックスたちは「手信号」の存在すら知らない。ティモシーはデボラだけを連れ出したかった。
しかし…デボラは目を背けた。
(ええええぇ〜〜〜〜っ?どうしてっ‼︎)
ティモシーはもう一度試してみた。デボラはそっぽを向いた。
(何でえぇ〜〜っ⁉︎)
ティモシーは諦めて、粉屋を後にした。
しばらくして、デボラはフェリックスに言った。
「ちょっと、お花を摘んでくる。」
「…う。そうか、行っておいで。」
ティモシーはコニーと連絡を取るべく通りを歩いていた。ティモシーは突然、背後に殺気を感じて振り向くと…デボラが鬼の形相で立っていた。
「お前…何者だ。どこの手の者だ、何で私をつけ回すんだ…?」
「…デ、デボラさん、落ち着いて。僕の話を…」
問答無用で五寸釘が飛んできた。ティモシーはそれを間一髪で回避すると、慌てて「セカンドラッシュ」で二秒走った。するとデボラも二秒着いて来た。
(うわっ…デボラさんも深度2の「セカンドラッシュ」持ってるのかぁ〜〜っ!)
(こいつ、斥候だったのか…深度2の使い手か⁉︎…とりあえず殺しとくかっ!)
「セカンドラッシュ」で二秒走ると、だいたい40mだ。デボラはナイフ二本を構えてティモシーに迫った。仕方なくティモシーもナイフ二本を抜いて、デボラの攻撃を防いだ。
チン…チチン…カンッ!
ティモシーは困った。相手は脱走兵とは言え「友軍」である。攻撃できない…!
その時、デボラに向かって投げナイフが飛んだ。
…キィ〜〜ンッ!
デボラはすぐにそれをナイフで弾いた。そして投げナイフが飛んで来た方向を見た。そこにはコニーがいた。
「…コニーッ⁉︎」
通りの路地から出てきたコニーは固まっているデボラの肩を叩いて言った。
「デボラ…そこまでだ。ちょっと来い。ティモシーも着いて来て。あ…投げナイフ、拾ってきてね。」
イェルマではコニーはデボラの先輩格…実力は十分知っている。本気で戦った場合、師範のコニー相手だと本当にどちらかが死ぬ。さすがにそれは嫌だったので…デボラはコニーに従った。
三人はちょっと歩いて、大通りの食堂に入った。そして三人揃って店のカウンターに座った。コニーは店のメニューを見ていた。
デボラは尋ねた。
「コニー…何でここにいる?」
「決まってるだろ。脱走兵を捕縛しに来たんだ…」
「私は脱走兵じゃない。ちょっと…旅をしているだけだ。」
「誰が許可を出したんだ…ヒナギク房主か?それともボタン様か?」
「…。」
しばらく静寂が続いた。
「まぁ、とりあえず…何か頼め。私が奢ってやる、ティモシーも何か頼め。」
ティモシーは店のメニューを見て…言った。
「お腹は減ってないので…ハーブティー。」
「ハーブティーって…何か食べろよぉ〜〜。せっかく奢ってやるってのにさ…」
「コニーさん、コニーさん…」
コニーはティモシーの指差す方向を見て…メニューを見直した。目が飛び出た。
(げっ…一番安いハーブティーで銅貨二十枚だと…!)
するとデボラが…
「ローストチキン…ポタージュスープ…小麦粉パン…二個。」
(…デボラ、容赦ねぇなっ‼︎)
店の主人が言った。
「お姉さんは何するね?」
「…ハーブティーで。」
ローストチキンを食べているデボラに…コニーは言った。
「ヒナギク様が心配していたぞ。お前の事は斥候房以外には漏れていない…今なら、なかった事にできるんだがな…。」
「…もうしばらく旅をしていたい。」
「おいおい、駄々を捏ねるなよぉ…。」
ティモシーがハーブティーを啜りながら言った。
「そうですよ、デボラさん…イェルマに帰った方がいいですって。」
デボラは憎悪の視線でティモシーを睨んだ。
「お前は何なんだよぉ…お前には関係ねぇだろうが…」
「うおっ…お…すみません…」
ティモシーは戦慄した。コニーが紹介も含めてデボラに言った。
「この少年は屑鉄屋のトム。実名はティモシー…我らと同じ斥候職だ。リーンの斥候だから、あんまり脅すな。一応、友軍だからな。」
「…知ったこっちゃねぇ。」
デボラはティモシーをガン無視してローストチキンを食べ続けた。コニーは返答を要求した。
「で、どうするんだ?なかった事にするか…脱走兵になるか…」
デボラの脳裏にフェリックス、プリシラ、ポールの姿が浮かんだ。
「…脱走兵になったら、どうなる?」
「脱走兵に対する処罰…お前が知らないわけはないだろう。それは…イェルマに帰りたくないってことか?」
「…うん。今はまだ帰りたくない。」
「今は…って、何かここにお前を縛るものがあるのか?」
「…。」
よせばいいのにティモシーがまた口を挟んだ。
「…フェリックスとか言う旦那さん?」
デボラの踵が一直線にティモシーの喉元を襲った。ティモシーはハーブティーをぶち撒けながらカウンターから飛び退いた。デボラの皮靴の踵には光る物があった。
「わわわっ…怖わっ!この人怖わっ…!」
店の店主が物音に驚いて、厨房から出てきた。
「お…お客さん、喧嘩は外でやってくれ…!」
コニーは店主を左手で宥めながら言った。
「そっか…図星なのか。」
「ふん、飯を食わせてくれるから居候してるだけだ、冬の間だけだ。居心地が悪くなったら夫婦ごっこを終わらせてとっとと出て行くつもりだ…。」
コニーは頭をボリボリと掻いて、それからハーブティーを一気飲みした。そして…懐から一枚の羊皮紙を取り出してデボラに渡した。
「…これは?」
「読んでみろ。」
「…デボラは密偵としてエステリック城下町探索の任務に着任したことをここに証明する。城塞都市イェルマ、斥候房師範コニー。こ…これって…⁉︎」
「とりあえず作った。近くにオリゴ村の駐屯地があるからな…もし仲間に見咎められたらそれを見せろ。春にまた来るから、その時にもう一度返答を訊くぞ。」
「…。」
「…親の心子知らずって、ホントにお前のコトだぞ。」
「…ん?」
「まぁ…いいや。で…お前、何か困った事はないのか…」
「え…困った事?」
「例えば、足りない物とか…欲しい物とか。私ができる事なら融通をつけてやる。お金はダメだぞ…持ってないからな!」
デボラは少し考えて…
「…コニーの投げナイフ、鎖帷子…それから持ってるなら皮鎧も欲しい。」
「うおおっ、身ぐるみ剥がす気かっ⁉︎…容赦ないなっ!…まぁ、よかろう…。」
「コニーは…大丈夫なのか?」
「ああ、乗ってきた馬を売れば何とかなる。」
「あ…その馬も欲しい。」
「マジ容赦ねぇなっ‼︎」
コニーにとっては、これでもデボラは可愛い妹分だった。
粉屋の外でフェリックスたちが待っていた。そこにデボラが一頭の馬を曳いて現れた。
「デボラ、一時間も…うおっ、何だその馬…?」
「もらった。」
「誰に?…じゃなくて、馬をくれる人なんかいないだろう⁉︎」
「知り合いと会って…ちょうだいって言ったらくれた。」
「いやいやいやいや…あり得んっ!」
「フェリックス…馬、欲しくないの?」
「欲しいに決まってる…が、そう言う事じゃなくてさ…」
すると、プリシラが言った。
「お父ちゃん、この馬、牝だよ。うちの馬さんのお嫁さんになるね!」
「むむむ…」
とりあえず、フェリックスは馬を連れて帰ることにした。フェリックスも牝馬は喉から手が出るほど欲しかった。馬を繁殖させることが出来れば…それは大変ありがたい事だ。
(城下町ではぐれ馬ってことはないだろうし…デボラめ、どこかで盗んできたのか?いやぁ…そんな事が出来るんだったら、うちのような貧乏農家でじっとなんかしてないだろう…)
デボラが頑として口を割らなかったので、馬の入手先は永遠の謎となった。
その夜、コニーは買ってきたお米とティモシーが作ってくれたトウモロコシスープで一緒に夕飯を食べていた。
ティモシーが言った。
「イェルマに帰るんですか?」
「うん。とりあえず…オリゴ村まで行きたい。あそこにイェルマの駐屯地がある。そこで馬ゾリを借りることにする。それでだなぁ…少しお金を貸して欲しいんだが…デボラのせいでスッカラカンだ。」
「いいですよ。でも、この雪じゃ道中危ないでしょう。雪解けまでここにいたらいいのに…。」
「ありがとう。でも、デボラの事を早くヒナギク様に報告しないといけない。春の大循環駅馬車を待っていられない。」
「じゃあ、冒険者ギルドで馬を借りたらいいのかな…。中央街道でティアーク城下町まで行って、それから東の街道ですかね。…それにしても、あのデボラさんって…大丈夫なんですかね?」
「…どういうこと?」
「何と言うか…兵士としての資質と言うか…。コニーさんほどの人がここまでして、あのデボラさんを庇うのが僕には信じられなくて…」
「そうか…。私にとってはあれでも妹分なんだ。そして、房主のヒナギク様にとっては養女…自分の娘のようなものだ。あまりデボラを邪険にしないで欲しいな…。」
「んんん〜〜…実際、殺され掛けましたからねぇ…」
「うへへ…それについてはすまないと思っている。デボラをあんな性格にしてしまった事にヒナギク様は責任を感じておられるみたいだ。」
「…育て方を間違ったって…?」
「いや、デボラを斥候房に引き抜いた事を…だな。君も斥候だから分かると思うが、斥候になるためには過酷な肉体的訓練もさることながら、それ以上に精神的訓練が必要だ。『忍耐』と『献身』…これが元々脆弱だったデボラの精神に強い負荷を与えたのではないか…とな。戦闘センスはあるから、剣士房とか戦士房の方がデボラにとっては良かったのではないか…と言う事だ。」
「そんな…兵士ひとりひとりにそんな事を考えてちゃ…軍隊は成り立ちませんよ〜〜!」
「私もそう思う…」
「僕の場合は家業が斥候だったから、一族みんな斥候です。だから僕には他の職種を選ぶという選択肢はなかった。いや、違うな…僕は一族の誇りとして好きで斥候をやってるのかな…」
「デボラは『口減らし』のために無理やりイェルマに連れてこられて、好きでもない斥候職を押し付けられた、それで性格がひん曲がった…とヒナギク様は思っているようだ。まぁ、私はトップの指示に従うまでさ、はははは。」
「…。」
「とにかくだ、私はイェルマに戻るんで…ティモシー、デボラの事頼んだよ!」
「ええええぇ…。」
ティモシーはあからさまに嫌な顔をした。




