二人が帰った後
王子達が踊り終わるのを見て、ナナエルとウィリアムは会場を後にした。
出席は必須だったがそれ以外のルールは通常の夜会と同じ、帰りたいところで帰ってしまえる。
帰り際ジョエルが近づいてきて「後はまかせて」と耳打ちをした。
* * *
ナナエルとウィリアムが帰った後の会場は騒然としていた。
数名、外交に明るい家系の者の中には早々に帰ろうとしているものもいた。
当たり前だ。
根回しも何もなく、同盟を結びましたという訳でもない国の王子と王妹の娘とはいえ王族の血の混ざった令嬢が付き合って将来を約束している。勝手に。
これは由々しき事態だ。
全て丸く収まる可能性は勿論あるが、それは丸く収めるべく人々が動いた場合だけだ。
この国で外交を司る家はいくつかある。
そのうちの公爵家を切り捨てた上で、しかも最初から身分を明かしていた訳ではなく追い出した後実はとなっている。
完全に公爵家をコケにしている。
それでも通常であれば何とかなった可能性もある。
公爵家に力が無ければいいだけだ。
けれど、それも難しくなった。
国防の一翼を担う侯爵家と縁づくという道を公爵家は選んだのだ。
しかも救国の英雄は仕方がなくではなく進んで公爵令嬢を守ろうとしていた。
公爵家は王子も姫君も無傷で丸く収める気はないだろう。
そんなことも分からず王子達二人はくるくると踊っている。
踊りが終わると、伝令として何人かの令嬢や令息が足早に会場を後にするのが見えた。
「ごきげんよう」
ジョエルは配下の令嬢達を従えて声をかける。
配下たちはジョエルを見捨てていないというアピールもあるが、何より侯爵家の家門が盤石であると示すことにもなる。
それに現実は世知辛く、『あんな滅茶苦茶な人のお世話なんて無理です!!』といって兄の配下になることを辞退したものもいた。
無理、となる気持ちはジョエルにも分かる。
だから、という訳ではないけれどジョエルはジョエルのできることをする。
少なくともあの頭の中お花畑の王子とお姫様に忠誠を誓えるとは思えない。
ジョエルを見た派閥外の令嬢は露骨にほっとしている様だった。
まず令嬢達とたわいもない話をした。
一人、また一人ジョエルの周りに令嬢たちが集まる。
頃合いか、と思いジョエルが切り出す。
「羽色が珍しい蝶についてどう思われます?」
貴族はえてして湾曲な言い方をする。
もうこの年になれば令嬢であってもそういう言い回しはできなければならない。
すぐに令嬢達も気が付いた様だった。
そっと、認識阻害の魔道具を発動させる。
宮殿では不可能なそれは、ここでは簡単に起動できてしまう。
本来全くよろしくない状況だけれど、今回は存分に利用させてもらう。
宮廷魔導士レベルの力が無ければ令嬢が集まっていると認識もできなくなるだろう。
王子とお姫様は側近たちと楽しそうに飲み物を飲んでいて、こちらをちらりと見ることもしない。
魔道具は分かりやすいように指輪型のものを使った。キラキラと光っているので令嬢たちは発動に気が付いたはずだ。
ぽつぽつと令嬢たちは、現状への不満を漏らし始めた。
公爵令嬢が学園に来なくなってから、学園の質があらゆる面で落ちた。
学園に補助を受けて行うサロンが行えていない。
婚約者があの姫君に夢中になってしまった。
出てくる話はこの先への不安にも似たものだ。
兄は想い人を搾取していた者は皆等しくその反動を受けるべきだと考えているようだが、まだ兄は侯爵家を継いでいない。跡取りとして決まっただけだ。
今の侯爵家の方針はそうではない。
こちら側に付きそうなものは日和見だろうが取り込むというのが現侯爵の意見だ。
兄は王家を打倒する力はある。
物理的に宮殿を更地にしろと言われれば十秒後にはあの場所には何も残っていないという状況にできる。
だが、王に向いてるとはジョエルにはどうしても思えなかったし、それは彼に関わるほとんどの人間が思っていることだ。
だから、ジョエル実際にあの宣言を聞いて彼らを見限るべきと判断した次世代を探しこちらに引き入れなければならない。
同じように、公爵家と兄の配下の者が動いている。
実際に見、どちらがまともだったのかを考え親たちに伝えてもらわねばならない。
少なくとも今日のやり取りで兄は絶対に王子のことを許すことはない事だけは断言できる。
ジョエルはにこやかに微笑みながら令嬢たちの愚痴にも似た話を聞き続けた。




