分野が違う
ウィリアムはぐしゃりと髪をかき上げた。
明らかなマナー違反だったけれど紫がかった銀髪はセットが崩れてしまってもまるでそれが最初からそうあるべきだったように美麗に見えてしまう。
「分野が違うでしょう」
「あら、同じ魔法でしょ?」
姫君は言った。
「同じ音を鳴らすと言っても、オルゴール職人と、広場の鐘を鳴らす人に同じ技術が求められる訳がないだろうに」
今、小国の姫君だと宣言した相手への話方ではない。
ナナエルならすぐに揚げ足取りをされそうなのに、誰も何も言わない。
ただ、妹であるジョエルだけは頭を抱えていたけれど。
「言っておくが、俺の魔法が鐘を鳴らす方だから」
何をわざわざ念を押しているんだと参加していた生徒たちは皆思った。
実際魔道具を作る技術と自ら魔法を放つ技術は少し違っている。
片方に特化した人間が多いとはいえ、けれどナナエルにしろウィリアムにしろどちらも本当はできるのだ。
ウィリアムは魔道具等の細かい作りこみが必要な技術を今後見せないと言っているのだ。
あの氷の花をナナエルの専用だと言ったように。
「ウィル――」
ナナエルは正しく訂正しようとした。けれどそれは他でもないウィリアム自身に遮られた。
「このほかにも、彼女は複数の魔法の発明、魔道具の開発により、準男爵位を賜ることになっている。
喜ばしいことに叙爵は、私の祝賀会で同時に行われることになっている」
会場がざわつく。
祝賀会に合わせて、国家への功労者の叙爵が行われることは広く知らしめられていた。
主にウィリアム以外の竜討伐に貢献した者たちへの叙爵だと思われていた。
けれど、その中にナナエルがいるという情報が入っていたものは誰もいなかった。
当の本人であるナナエルも知らなかったくらいだ。
「これほどまでに優秀な人材に、何の仕事を任せていたんだろうね。
何の能力を確認していた?」
王子に問うているようでいて、その言葉は会場にいるすべての人間に問うていた。
一体王家は彼女の何を確認していたのか。
彼女の何の資質がたりなくて、彼女はふさわしくないと言われたのか。
今日のナナエルは見た目は文句なく整えられており、所作も公爵令嬢として申し分ない。
貴族として一番の所作と、学園での一番の成績、そして魔法の才能。
学園の勉強には外国語もあり、それもナナエルは一番だった。兄は外交官であり、手ほどきを受けているという話もあった。
そして公爵家の後ろ盾。
一体どんな問題があったのだろう。
一時期は落ち着いていた疑念が生徒たちに再燃した。
「すべてに決まっているだろう!!」
王子はそう怒鳴って、姫君に向かい「ここで時間を浪費しないでダンスでもしよう」と言った。
王子からは今までのねぎらいも謝罪も何も無かった。
それが答えだった。




