竜殺しの英雄
竜殺しの英雄の話はナナエルでも知っていた。
国境近くで暗黒竜と呼ばれる邪悪な竜が暴れていてこの国は大層困っていた。
そこで宮廷魔術師団に所属している魔法使いが竜を倒すことになった。
彼は見事竜を倒し、しかも貴重とされる竜の牙などはすべて綺麗にそろっているという。
それらは通常所属する国家に献上される。
邪悪な竜は倒されたし、国庫は潤う。
近く祝賀会が開かれるという。
各種予算関連の処理を押し付けられていたナナエルはその行動の一端を書類でよく知っていた。
王子がナナエルに色々なものを押し付けられたのも竜の関係で宮廷全体がバタバタとしていて、誰もそこまで関わっていられなかったからというところも大きい。
「やはり、あなたは、ぼんくらなんて呼ばれる人じゃなかったですね」
ナナエルは言った。
ナナエルのはった結界に入れる時点で、さいしょから彼が噂と違う人だとナナエルは知っていた。
つり合いが取れない。
ナナエルは無意識に髪の毛に編み込むように飾られた髪留めに触れる。
無能な傷物令嬢と、竜殺しの英雄ではとてもつり合いが取れない。
「まさか。あなたのためにですよ。『あなたに結婚を承諾いただけるよう万難を排しましょう』と約束したではないですか」
ウィリアムは言った。
「竜殺しだなんだと面倒なものは放ってしまおうと思っていたのですが、公爵令嬢を迎えに上がるには地位と権力が必要だということなので」
必要なものは全部使いますよとウィリアムは言った。
本当に変な人だとナナエルは思った。
「勿論、あなた、ナナエルの不名誉な噂も必ず払拭すると誓います」
「名前……」
「当然調べていますよ」
けれどあの日ボロボロのナナエルに求婚をしてくれた彼ならば信頼してもいいのかもしれないとも思った。
「だから、今日この日俺とあなたは出会って、劇的な恋にお互いに落ちた。
という話にあなたものってください。」
片膝をついて許しを請う様にウィリアムは言った。
最初の求婚と同じ、唐突で変な流れだったけれど、今度はナナエルは「両親に相談させてください」と言った。




