翼=大河?
真実とは決して心地よいものではなくつまらないただの思い過ごしでしかない。
「アリア訂正しろ。誰が翼だ。いい加減なことを言うな。
俺は翼なんかじゃない。た…… 大河…… 大河…… 大河だ…… 」
「かなり動揺してますね翼さん。私はあなたの命を受けやって来たんですよ。
あなたがどうしてもと言うからアリアに成り代わって調べたと言うのに。
皆の前では対立するよう命令したでしょう?
自分が疑われないが為に私を生贄にするなんて酷い。
あの時だって…… ハッピー先生の部屋で対立するようにしたのはあくまで演技。
管理人のおばさんが疑ってたから一芝居打ったんです。そうでしょう翼さん? 」
さすがはアリア。息を吐くように嘘を吐く。
自分が不利だと分かると黙り、最善の策を練り俺を道連れに。
賢い奴だ。一瞬騙されそうに。自分が翼じゃないかと本気で思い込むことも。
俺は一体誰なんだ?
「俺は…… 俺はそんなこと言ってない。何の命令も…… 命令も何も…… 」
「違いますか翼さん」
目で訴えかけるアリア。だからと言って俺がそうだと認めはしないぞ。
翼の正体があやふやなものだからこの俺を当てはめやがった。
確かに筋は通ってる。俺がそうだと認めれば翼になってしまう。
楽になりたい。楽に…… 打ち明けられたらどれだけいいか。
俺は翼さ。翼だ。認めるぜ。俺は翼だ。
だがそれはもちろん俺の妄想の産物でしかない。
だから真実は違う。
「違うも何も俺は…… 俺は…… 大河だ」
自分が大河であるかどうかなど証明のしようがない。
一年前のあの悲劇で自分は一度すべてを失った。
復活したその男が本当に大河かと問われれば自信を持って肯定できない。
もしかしたら翼かもしれない。
あの崖から落ちたのは大河ではなく本当は翼だった可能性もある。
俺が俺である証明など誰に出来ると言うのだ?
カナなら俺を証明できるかもしれないが今は病院のベットの上。
アリアは俺の弱点を突いている。そして和を乱そうとしている。
俺は誰なんだ? 大河なのか? 翼なのか? まさかそれとも別の誰か?
自信はない。そして証明のしようがない。
徐々に追い込まれていく。
どうする? どうすればいい?
うん…… いや一人だけいた。
俺と翼の二人を知る者。悲劇の目撃者。
そのことにより心を病んでしまった少女。
ドルチェ。彼女がいる。俺にはドルチェがいるじゃないか。
「そんな酷い。あなたが全部本当のことを話せって言うから…… 酷い」
アリアは落ち込んだ振りをしドルチェに泣きつく。
ふふふ…… 馬鹿め。唯一正体を知る冷静なドルチェに頼るとはな。
これで一気に形成逆転だな。
大河さんに翼。
確かに私は一年前のあの日に会ってる。
だから想像上の翼を追いかける他の者とは違う。
でもなぜか私も自信が……
大河からバトンが渡される。
「大河さんあなたまさか? 」
記憶の中であの翼のイメージを思い起こす。
悪知恵の働く蛇のように執念深い悪魔のような男。
大河とは似ても似つかない。
ぼやける。
もう一度思い浮かべる。
あの冷酷で自分本位のやたらと注文を付けてくる男の顔を思い浮かべる。
あれおかしいな?
やはりぼやけてしまいあんなにも強烈だった印象が次第に失われていく。
ついには大河の顔へと変化してしまう。
ええっ? 大河?
目の前の男があの時の少年だったのかそれとも翼だったのかもう判断がつかない。
「大河さん。いえ翼さん。もういいでしょう? 私の任務は失敗に終わりました。
早くこの場を立ち去りたいと思います。どうぞ許可を願います」
アリアは跪く。
これは本来あり得ないこと。
アリアがただの大河にへりくだったり跪くようなことはしない。
彼女のプライドに賭けてそのようなことは。できるはずがない。
これはもはや言い逃れできない。
「そ…… そんな…… そんな…… 俺が翼なのか…… 」
「もういい加減そのような驚いた芝居はおやめください。
私は認めたのです。翼さんも彼女たちの為に早くお認め下さい」
まったく呆れるぜ。何が翼さんだよ。
アリアめ。ちゃっかり悲劇のヒロインを気取りやがって。
ついにはここの者を味方に付ける。
認めたいよ。認められるような事実があればね。
だがはっきり言って無理がある。
アリアに会ったのはここに来てから。
彼女に慕われるよな間柄じゃない。
でも…… 一つだけ心当たりがあるとしたらそれは……
俺とアリアが結ばれたあの時。
シンディーに代わり俺と……
アリアが耐えられなかったのは俺が翼だから?
それなら確かに不思議ではなく納得もできる。
いやこれは客観的に物事を捉えた場合だ。
もちろん事実ではないと知っているが。
アリアの圧倒的な演技力の前に成す術なし。
続く




