最終章突入 愛を育む場所
【最終章】
マウントシーの長い長い一日。
フラジール編 灰色
十四日目
早朝。
「大河さん」
こんな風に呼びかけるのは決まってブリリアント。
いつも恥ずかしそうに笑いながら走ってくる。
だが今日は違った。ハッピー先生だった。
館の外なのでミス・マームと呼ぶべきか。
「随分早いですね」
驚いてると言うよりはもっと早くと発破をかけてるようにも感じる。
「あと二日しかないんですよ」
それは今日を含めて二日と言うこと。
だから祭りが始まる明日の昼までが勝負。
時間にして三十時間あるかないかだ。
タイムリミットは僅か。
ここに来てエンジンがかかってくる。
「焦ってはダメです。落ち着いて行きましょう。
それにお気づきかと思いますがあなたに残された時間は無限です。
私さえ協力すれば来年も再来年だって五年後だって問題ありません。
お神酒が作られている祭りの期間。そこを狙えば難しくありません。
現にあなたは祭りの直前にやって来た。
ただ祭りの最後に皆で飲み干す慣習から祭りが終われば不可能になります。
仮に保存してもお神酒の性質上品質も落ちますし役に立たなくなるでしょうね」
「ええ俺にとってはもちろん来年でもいい。だがなるべく早く救ってあげたい」
「まさか大河さん本気でまだ彼女たちを救うなどとふざけたことを? 」
彼女たちとはここの五人のことだろう。
「もちろん。俺はその為にここに来たんです。
これは副村長との約束であり自分に課された試練だと思っています」
二人は泉に向かう。
「大河さん…… 今日ようやくあなたの目的、本心が分かったような気がします。
では約束してください。あの子たちを必ず助けると」
ハッピー先生が深々と頭を下げる。
「そんなことしなくても…… 」
「いえ残念ながら私には無理なんです。大河さんにしかできないことなんです。
副村長も私もあなたにすべて押し付けてしまっている。
それがどれだけ罪深いことか分かっています。
私がどうにかしてあげられるならそうしたい。でも私にはできない。
この島にあなたがやって来た時私は心の底から喜びました。
もしかすると彼女たちを救ってくれるかもしれないと」
泉に到着。
「そうだ大河さん。この場所がどう言う役割を果たしているかご存知ですか? 」
実際に見たのでよく分かる。だが果たしてそのままを言っていいものだろうか。
「それは…… 神聖な儀式の前に清めるよう沐浴する場所」
「大河さん。まったく本当にもうそこまで…… 困った人ですね」
どうも間違えたらしい。おかしいな……
「確かにそれは祭りにおける重要なことだと思います。
しかしそれ以上にここは昔から伝えられるように…… 」
「もう伝説はたくさん」
ミス・マームの長話を遮る。
「最後までしっかり。泉の辺りは東屋もあってお洒落でしょう? 」
「それが…… 」
「ここは古くから私たちがこの島に移住する前は無人島だったんですよ。
でもそれよりももっともっと昔はもちろん人が生活し豊かだったと聞いてます」
「あの…… 話し長くなります? 手掛かりを見つけないと。もう時間がない」
「だから落ち着いて話は最後まで」
これ以上余計なことに時間を取られたくない。
この辺の話は祭りが終わってからゆっくり。
態度で示しても鈍いのか分かっててわざとやってるのか気付かない。
相当強靭な精神が宿ってるようだ。
しょうがないので頷き先を促す。
これが一番手っ取り早い。
「ゴホン」
咳ばらいをし頬を赤く染め言いにくそうにしている。
「この場所は昔から愛を告白する場所だとされています。
年頃の男女が語り合い愛を育む場所だと」
照れながらも最後まで続けるミス・マーム。
さすがはベテラン。動揺を見せない。
「どこからそんな話を? 」
「長く生きていればそんな話の一つや二つ」
自慢じゃないよな。そうだとすると俺へのアドバイス?
「それでそんな話を俺に? どうしろと? 」
「愛の形も人それぞれです。婚姻もそう。人と人との関係も。
男女であろうとなかろうと自由です」
俺に一体何を悟らせようとしてるのか?
生憎俺の頭ではそんな難しいこと分かりはしない。
もっとシンプルに。
「どう言うことです? 」
「大河さんは聞いてればいいんです」
「酷いなミス・マームも…… 」
「どうであれ私は大河さんを応援します。もちろん協力だって惜しみません。
迷われた時はどうぞご相談を」
おかしなミス・マーム。
朝はダメだと皆が言ってたがまさかこのこと?
「はいはい。分かりましたよ。散歩終わり。館に戻りますね」
「すべて片付いた時あなたは決断せねばならない…… 」
予言めいたことを言うので怖くなる。
「何か? 」
「いえ何でもありません」
「そうだ。今日は誰の番かな」
つい我慢できずにふざけてしまう。
「大河さん」
ミス・マームに叱られる羽目に。
続く




