エレン編突入
第四ドール 紫。
深海エレン編
うん。熱は下がったみたい。
さあそろそろ尋問。いえ違った。お話をしましょう。
目の前には女の子が目をぱちぱちさせている。
「あなたのお名前は? 」
もっと簡単に言うと君の名は。答えてくれるといいんだけど。
「分からない」
本当に分からないのか分からない振りをしているのか。
見た目からでは判断できない。
ただ本当に自分が分からないのだとしたら厄介。
ううん。かわいそう。
「年齢は? 」
私もここに来て三年。でも年齢なんか気にしたことがない。
マウントシーは外界から隔絶された世界。
時の流れが他と違っている。
「分からない…… 」
「自分の年だよ。思い出せない? 」
分からないと首を振るばかり。
「マウントシーに来た目的は? 」
まるで尋問をしているようで嫌だ。でもこれも彼女のため。
今は名前がなく不便だから少女Aとしている。
大した意味は無くて単純に形式的なもの。
記憶を取り戻し名前が判明したら書き換えればいい。
「分からない」
まあ当然そうでしょうね。予想はしていた。
「うーん。記憶喪失かな。どうします? 」
「もう一度お願い」
後で私たちを見守る者が一人。
まだやる気? これ以上苦しめるのはかわいそうだ。
「あなたのお名前は? 」
「分からない」
怒るでもなくからかうでもなく同じ言葉を繰り返す。
本当に分からないから困ってるのだろう。
こっちもこれではどうしてやることもできない。
「ありがとう。今日はこれで。また明日もお願いねエレン」
管理人のおばさん。
名前を教えてくれないのはこの人も同じ。
何て呼べいいか本当に困る。
仕方ないのでお姉さんと呼ぶことに。
そうするともう一人はお兄さん?
それはさすがに見た目に反して失礼なのでシードクターと呼ぶ。
もっぱらドクターとだけ呼んでいるが……
階段を降り木の椅子に全身を預け眠りこけている男に挨拶して出て行く。
「また頼むよ」
寝ぼけた声が返ってくる。
翌日、同時刻。
「あなたのお名前は? 」
「分からない」
「おいくつ? 」
「分からない」
「ここには観光で? 」
「分からない」
「何か覚えてることある? 」
「分からない」
「本当に何も覚えてない? 」
「うーん。やっぱり何も覚えてないや」
「もういい。眠りなさい」
「そんな怖い顔しないでお姉ちゃん。美人が台無しだよ」
「ごめんなさい。つい…… 」
言葉自体は通じている。でもこれではどうしようもない。
ただ何も覚えてないものだろうか?
まさか私信用されてない? もう少し仲良くなる必要がありそうだ。
せめて名前さえ分ればな……
「エレン。どうだった? 」
「分からないそうです」
「ダメか…… 」
「はい。こういうことは根気よくやるのが大事です。また来ます」
粘り強く続ければきっと何か分かるはず。
そうやって来たが結果が伴わない。
次の日。同時刻同場所。
「あなたのお名前は? 」
「えっと…… うーん分からない」
「お名前は? 」
「同じ質問しないでよ! 」
「いくつ? 」
「ティーンエージャー」
「いくつ? 」
「だから十五、六、七? それぐらいだと思うよお姉ちゃん」
「マウントシーにはなぜ来たの? 」
「マウントシーって何? 」
「ハイハイ。なぜここに来たのかな? 」
「分かんない。うーん。お姉ちゃんに会いに来たんだよきっと」
「ありがとう。もう寝てなさい。お姉ちゃんが何とかしてあげるから」
日課を終える。
「ご苦労さま。やっぱり何も思い出せないって? 困ったな……
大きな病院で見てもらおうかしら」
「待ってください。もう少しで思い出しそうなんです。私に時間を下さい」
「あらあら立場が逆転したみたい。さすがはお姉ちゃん。
もう一度あの人に見てもらってから判断しましょうか」
謎の少女の正体は分からないまま。
本人が思い出さないとどうしようもない。
手掛かりになるようなものは一つもない。
村の者に聞いて回るのも難しい。
ここに来た以上あの子にも何か事情がある。それは間違いない。
でもハッピー先生は連絡を受けてないと言うし謎が深まるばかり。
噂を聞きつけた家出少女が頼って……
それはおかしいの。島全体で騒ぎが起きてない。
残るは観光客ぐらいだけどその線も薄い。
いつの間にか変な期待をしてしまった。
ここはいつものんびりしてるから少しは刺激が欲しい。
この子がどうであれ私が解決してあげたい。
ふふふ…… まるで探偵みたい。
アリアさんにでも相談しようかな。
とにかく記憶が戻るまでは我慢我慢。
さあここは待つ。待つのよエレン。
彼女の記憶が戻るまで。
続く




