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運命の日前夜

一年前の夏。


ガヤガヤ

ガヤガヤ


「おやじ酒もう一丁! 」


気分よく顔を赤らめる貧相なナリの男。


「おいおい! それぐらいにしておけ」


「何を言ってんの源さん。これからじゃねえか! 」


「酒に弱いのに飲み過ぎなんだよ防ちゃんはよ」


「源さんだって同じじゃねえか! 」


完全に出来上がっている酔っぱらい。


「うるさい! 俺の勝手だろ! 」


お酒の力で気が強くなっている。


そろそろ帰らないとトラブルを起こしかねない。


店は繁盛しておりそこら中で酔客が同じように騒いでる。



「いらっしゃいあの…… 」


暖簾をくぐると挨拶もそこそこに奥の席に走る。


「なあ源さんよ。あの祭りで使われる酒を一度は飲んでみたくないか」


また酒の話。これだって酒なんだけどなあ……


「おいおいやめとけって。あれは神聖なもので特別な人しか許されていない。


幻の酒。俺たちじゃどうにもならんって」


源さんが宥めるが言う事を聞かない。



「特別な人ね? おら副村長とも飲み仲間でいつか飲ましてやるって言われたぜ」


「ははは! それはお前をからかってるのさ」


「うんうん。そうかもな。そうだ良いこと教えてやろうか?


あの酒は三つが混ざったもの。まずその年に作った最高級の酒を選別。


副村長が言うにはそれに謎の液体を掛け合わせるそうだ。


伝説とされる何だったかなあ―あれだあれ…… 忘れちまった。


まあいいや。それで割合がちょうど一対一にならないといけない。


専用の器があってな…… 二杯分? 三杯分だったかなだいたいそれくらい。


完全に混ぜ合わさったら最後に秘密の液体を一滴垂らす。それで完成よ」


酔っぱらいの戯言。真に受けるのもどうか。



「よく知ってるな。関心関心」


幻の酒。この島から別名グリー酒と呼ばれる代物。


「副村長が酔っぱらってオラに話すんだ。


まあ本人も話していいことと悪いことは弁えてるだろうがな。


オラが信頼されている証でもあるがな。このことは誰にも言い触らさないでくれ。


オラこの村におられなくなるようになる」


「どうせホラだろ。お前が言ってたって言い触らすかな」


「源さんそれはねえわ! 」


「ははは! 冗談だって。さあ酒を飲め! お前には詳しく聞かにゃならん」


「いやいや副村長は馬鹿じゃない。長くやって来た人だ。


大事な部分は敢えて伏せてる。オラたちじゃ絶対に作れねえ! 」



「おっと悪い。倅が迎いに来てる。お前んとこの娘さんも一緒だ」


「そうだな。この辺でお開きとすっか」

 

ドルチェは横に来て無言で圧力をかけていた。


こっからが長い二人。


「ほら娘っ子。一緒に飲み! 」


「源さんうちの娘をからかうなって」


源さんは悪酔いしている。


「何か言いたそうだぞ。へへへ…… 」


源さんは他人事。



我慢できずに叱り飛ばす。


「おとっちゃん! またこんなところで飲んじゃってだらしない。


体に障るよ。早く家に帰んなくっちゃ。ねえおとっちゃん! 」


「ははは! これじゃ時代劇だ。俺は目が覚めたよ。また今度な」


源さんは気分よく出て行く。


「おう! お互い飲み過ぎには注意しようや」


酔っぱらいを支えるが真っ直ぐ歩けずによろける。


源さんも息子の源三郎さんが肩を貸し連れて行った。



「ありゃ! 源さんの奴勘定も払わずに行っちまいやがった。


何とかごまかすしかねえかな」


「源三郎さん…… 」


酔っぱらいの戯言を聞き流す。


また派手に飲んで。ツケも溜まってるのにまったくもう……


「おとっちゃん。いい加減にしてよ! 」


「うるせい俺の勝手だろ! 親に文句を垂れるな! 」


本来温厚な父。だが酒を飲み人の目が無くなると態度が豹変。


手が付けられなくなる。


ただ決して記憶をなくすことはない。


その証拠に……



前方に酔っぱらいを抱えた青年。


「源三郎さん…… 」


つい目が行ってしまう。


似たような境遇の源三郎に好意を抱いている。


「なあ、お前は明日暇だろ? 俺の代わりに観光客の案内引き受けてくれないか。


俺は他に用があるから」


べろべろに酔っぱらった男の戯言。ハイハイと聞き流す。


「いいな? やることはいつもと変わらない。


客相手にガイドだ。しっかり煽ててたんまりチップをもらって来い。


明日の客はなあ何と都会からのお客さまだぞ。若いカップルだ。


お前も憧れていたろ? だから頼むよ。父ちゃんの代わりに行ってきてくれ」


どうやら本気だったらしい。これも父の手かうまく丸込められる。


どうせ面倒臭くなったのだろうけど嫌なものを押し付けるから困ってしまう。


ただ客のことでは嘘をつかないのでどうやら本当に都会からのお客様のようだ。



「ちょっと私だってお祭りの準備が…… 」


「うちは島の中でも特に貧乏なんだからしっかり稼いできなさい」


何を馬鹿言ってるんだろう。偉そうに娘に言える立場?


貧乏はこの人のせい。すべて酒代に消える。本当に困る。


「おとっちゃん! 」


反応が無い。眠ってしまった。


仕方ない。私が代わりに行くしかないか。


せっかく楽しみにしてるお客さんに悪いものね。


嫌々引き受けることとなった。


                続く

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