狙われた楽園
こうしてただのお茶会だったはずの催しはお開きとなった。
夜は更けていく。
外からは獣の雄たけび。それに合わせるように老人の唸り声。
誰も止められない。
副村長が真面目な顔を向ける。
酔いが醒めた? まさか前回と同じ展開?
非常に困った展開。酔っぱらって寝てくれたらいいのにとつい思ってしまう。
始まってしまった。老人特有の長話。
「この島はなある者は楽園だと言う。
しかしなこんな楽園のような島にもな消えない過去がある」
はいはいと先を促す。前回と同じ話なのは分かり切っている。
「この島は警備が手薄でな外からの侵入を許すことが何回もあった。
その中には悪い輩もおって酷いことを……
それから対策を立て上陸できないようにし見張りも増やした。
だからここ最近は事件らしい事件は起きていない。両の手に収まる程度じゃ。
それでも記憶に残る強烈なやつがあってな…… 」
話し出したら止まらない副村長の酒癖。これは一体何酒? 絡み酒?
前回とまったく同じ。一言一句違わない。
聞いているこっちは堪ったものではない。
同じ話をさも初めて話すかのような雰囲気。
訂正する訳にもいかないから困ってしまう。
前回と同じ展開。昔話を永遠に聞かされるこっちの身にもなって欲しい。
困惑気味の俺に同情する仕種は見せるが……
若者に昔話を聞かせる儀式みたいなもの。儀式?
酒好きの副村長は話好きでもある。
十分が経過。
酔い潰れていた二人が目を覚ます。
「あらいつの間にか眠ってしまったみたい」
「それでは私たちはこれくらいで」
二人が同時に謀ったように挨拶を済ませ出て行った。
残された俺は酒癖の悪い爺さんの話を聞く。
酒を飲みつつ刺身のイカを二枚口の中へ。
ゆっくりモグモグしながら飲み込む。
ふう苦しかった。
箸を置き集中。
「本土に繋がる定期船は週一度。土曜日の昼に着き翌日に出港。
その船に悪い奴が観光客に混じってな。そうお主のように」
爺さんまだ疑っているのか? 困ったなまったく。
「ははは…… まあ冗談じゃ。そ奴らが島を物色して夜中に侵入。
女子供に悪さをして朝になんてことないって顔して船で帰って行く。
事件が発覚するのは朝も遅く後の祭り。
そうやって何件か起きて行くうちに殺人事件にまで発展する事態に。
二人組の輩が夜中に侵入し島の娘ら三人を次々と手にかけ証拠隠滅のため殺害。
それでも足らずに幼い姉妹が住む家に押し入り同様な悪行を繰り返した。
しかし一人が抵抗に遭い頭を強く打ちそのまま死亡
慌てた一人が仲間を放置して逃走。
発見が早く船に乗れず海辺を彷徨っていたところを島民に取り押さえられる。
結局犯人一人を含めた五人の死亡が確認された。
犯人は本土の刑務所に服役。まだ執行されてないと聞くがどうじゃったかの。
恐ろしい昔話さ。済まんなこんな話に付き合わせてしまってな。
まあ君もここの人間になるのだろ? 島の歴史ぐらい知っていて損は無かろう」
いつの間にか酔いが醒めたのかえらく真剣な副村長。
「あの他には…… 」
島の歴史も大事だがやはりここは伝説。
昔起きた出来事なんかよりももっと知って起きたいことがある。
「いや今日はもう遅いこれくらいにしておこう」
副村長は口を閉ざす。
その閉ざした口を無理矢理にでも開かすのが俺の使命。
じっと見つめる。
「どうした…… 」
「いえ…… 何でもありません」
「分かった。分かった。不満そうな顔をするな。それでは一つだけ。
まったくこんな爺の話に真剣に耳を傾けるのはお主くらいな者。立派な青年じゃ」
満足そうに笑う副村長。
違うんだけどな…… 悪い気がする。誤解されたままでいいのだろうか?
「あの…… 」
「おおそうじゃったな。いつだったか…… 同様の事件が続発。
島にも獣が多く生息していることもあり危険だと判断した島民たちは話しあった。
ついには防犯、身を守るためにと限定的ではあるが銃所持を認める案が出された。
もちろん皆銃の危険性は認識している。だから慎重だったし反対が多数だった。
最初の内はな。だが引き続き凶悪な事件が起きる。
惨たらしい最期を目の当たりにした島民は一時的に賛成多数に。
一度携帯を許可すればもう二度と回収できない危険な代物。
身を守る意外には使用しないことを条件に銃の所持が認められる。
ただ反対派も黙っていない。
ここで賛成派と反対派で激しい対立が起き最後の判断に任された。
冷静さを取り戻した島では結局数の上で勝っていた反対派に押し切られる結果に。
銃所持は幻となった。
その夜、集まっていた賛成派が島民を多く巻き込んで銃乱射事件が起きてしまう。
反対派のリーダー格の夫婦を殺害し多数の負傷者が。阿鼻叫喚の大惨事。
現場に居合わせた者はその恐怖に震え、逃げるのがやっとだったと後に語った」
間を取り様子を窺う。
「巻き込まれた者は実にかわいそうであった。
なぜか銃の使用を認める判断を下し現在に至る。
あまり不審な動きをしてみろ夜などは容赦なくぶっ放されるぞ。ハハハ……
以上が怖い怖い村に伝わる昔話」
副村長はそう言うと自分の部屋へ。
一人残された俺は呆然とする。
副村長の話を理解するには時間かかった。
詳細を語らず逃げるように話を無理矢理終わらせた感がありどうも腑に落ちない。
何か知っているのか。何を隠してる?
こうして地獄のお茶会第二ラウンド。爺の長話は終焉を迎える。
続く




