夏の定番カレーが染みる
【四日目 残り十一日】
<おはようございます。未だに不審者発見の報は届いておりません。
引き続きご注意願います。心配されておりました雨の影響は少ない模様。
本日は晴れの予報。それでは皆さん頑張っていきましょう>
以上 広報部。
青のカチューシャが陽に照らされて煌めいている。
別館から本館へ。用事を済まし急ぎ足で向かう少女。
汗を掻くことを忘れているかの如く。
瞳は青みがかっており感情が表に現れてこない。
島育ちの割には肌は小麦色に灼けておらず肌全体が透けているかのように白い。
いや薄い。何でもかんでも薄いのだ。
言い過ぎかもしれないがマウントシーに来た少女は自然と薄くなっていく。
存在が徐々に失われていく。そんな思いに囚われてしまう。
通称会議室と呼ばれる部屋に入ると皆、勢揃いしていた。
ハッピー先生が一言注意し朝の挨拶に移る。
少女四名に謎の少年とハッピー先生。
うん。間違いなく全員揃っている。
赤のカチューシャの岬アリア。
白のカチューシャの島内シンディー。
緑のカチューシャの防人ドルチェ。
紫のカチューシャの深海エレン。
そして謎の男、大河。
午前中は部屋で過ごし午後には祭りの準備と踊りの練習。
今月はずっとこうだ。嫌でも従うしかない。
私はここで生かされてるのだから文句を言える立場にない。
練習も辛いばかりじゃない。慣れてしまえば楽しいって思える。うん大丈夫。
ただ何日か経つと飽きが来る。何て言ってもいつもの繰り返し。
今頃がちょうど苦しい。しかし誰も文句を言う者はいない。常に静か。
指示に従い黙々とこなす。私語は禁じられている。笑顔もいけない。
それは内でも外でも変わらない。もはや何の疑問の余地もない。
これが当たり前になっている。普通なのか異常なのか分からない。
「以上で島の歴史を終えます」
今日はこの島の歴史。次回は島の謎について。
「はい大河さん。分からないことはありますか? 」
「早すぎて書きとれませんでした」
「いいんですよ。しっかりと話を聞いていればそれでいいんです」
眠くなった目を無理矢理に見開き懸命に粘る。
情報があるのではないかと睡眠不足による眠気と戦いながら。
しかし特に得られるものはなくただ一人の手によってこの島は作られた。
後に周辺の島々の者が渡って村ができた。
都会からも人がやって来て人も随分と増えたとか。そんな感じの話だった。
かったるい歴史は流して飯だ飯だ。
昼はカレーライス。
夏の定番。悪くない。でも辛いのはちょっと……
基本的に朝昼晩と近くの小屋のコックが作ってくれる。
たまにハッピー先生が作ってくれることもあるらしい。
食事は基本食堂室で。小屋に出向くこともある。
ただ祭りまでの期間中は朝だけは各自で摂るのが約束事。
カレーか…… 辛いのはどうも。まあそんな贅沢は言ってられない。
急いで掻きこむ。
ゆっくり食べてなどいられない。ここ一年で体に染み込んだ感覚。
もちろん米一粒、汁一滴たりとも残さずに完食。
がつがつ
がつがつ
ラッキーなことにお替りがもらえた。しかも三杯もとは有り難い。
美味しいか? そんなことは関係ない。
腹が膨れればいいのだ。もちろん味に文句はない。あっても言える立場にない。
ふう。
最後の一口を水で流し込みフィニッシュ。
アリア始めお嬢様方は皆お上品にお食べになってらっしゃる。
「ホホホ…… ごきげんよう」
口の周りにカレーが付いていてごきげんようも何もない。
あれ俺まさか…… 変な感覚。アリアに吸い込まれていく感覚がある。
なぜかアリアの口の周りをつい舐めたくなってしまう。
衝動が抑えきれない。まだ食い足りないと言うのか?
そんな馬鹿な。いやそんなに意地汚いのか。
変態? まさかそれはない。
まあいいや。それよりも俺には使命がある。
腹が膨らむと急に眠くなりボーっとする。そう言えば……
副村長と山小屋の二人から語られた話をぼんやりと思い出す。
続く




