グリーズ島からの脱出
間奏;
ハアハアー フウフウー
ギギギ ギギギ
グァオオオ! ギャオオオ!
ハアハアー ハアハアー
息が荒くなりついつい真似をしてしまう。
毎日一緒だったからな。癖になっている。
似てたかな? たぶんこんな感じだったと思うけど……
結局あの人は誰だったんだろう? 良くしてくれたし、治療もしてくれた。
目が見えなかったから音だけが頼りだった。
見えるようになる頃にはもういなくなっていた。
そして一人取り残されてしまった。
それからは独りぼっちの孤独な日々。不安に押しつぶされる自分がいる。
ぼんやりとした記憶。
ビンとナイフが置いてありビンには液体が入れられていた。
この液体は俺の体を治してくれたものに違いない。
ナイフは険しい崖を登る助けとなった。
臭い。嗅いだことのない異臭。何かが腐ったような体臭。
もういないが彼との思い出はどこから出したのか分からない叫び声。
それと鼻をつまみたくなるような独特の臭い。
お世話になった方を悪く言うのは間違っている。だが風呂には入れよな。
今の俺だって似たようなものだがどこかが違う。決定的に違う。
俺と恩人とでは種類が違う。まるで神のような存在。
這いずり回っていた俺にせめてもの情けをと神が降臨したか?
人智を超えた何者か。今はそう思うことにしている。
俺が助かったのもその後生き延びたのもすべて彼の助けがあってこそ。
その彼に報いるためにも俺を嵌めた奴を、地獄に落とした者に鉄槌を下す。
即ち復讐。これは運命だ。もはや止めようがない。
ただその前にもう一度彼に会いたい。
お礼を言わなくては。だが探している余裕などない。
俺を橋から突き落とした奴がこの島にいる。
俺が生きていることを知れば再び襲って来るやもしれない。
いや奴のことだもう気付いているだろう。
油断も隙も無い蛇のような奴。
早く。早くこの島を抜け出して安全を確保しなければならない。
邪魔をする者は誰であれ排除する。
俺が生き残るためには必要なこと。
「すみません。あの…… 」
もちろん誰も相手をしない。
女は逃げ惑い。子は泣き叫ぶ。
老人は無視を決め込む。
「おい、いたぞこっちだ。逃げるなガキ」
男たちは農具を持って追いかけ回す。
俺が一体何をした? ただ助けを……
ダメだ。逃げるしかない。
ようやく追手もいなくなり一息つく。
落ちていたトマトにかぶりつく。
口の中も傷だらけで染みるがそんなこと言ってられない。
次だ。次。
歩いてるつもりだったがいつの間にか走っていたようだ。
ハアハア
ハアハア
息が上がる。言葉が出てこない。それどころか誰も振り向いてくれない。
目を合わせることもしない。こんなに困っているのに誰も助けようとはしない。
それも仕方ないこと。俺は分かっているんだ。
常識で考えれば警戒されていると理解してる。
髭がぼうぼうで汗臭く白いシャツが泥まみれの上に全身傷だらけ。
これでは逃げ出したくもなる。
だが待ってほしい。俺は別に怪しい者じゃない。言葉も通じるし凶暴でもない。
身なりがそう思わせてるならせめてシャワーを貸してくれ。どうにか繕えるはず。
髪も髭も落とすよ。服だって着替える。
でも誰も相手してくれなければ俺の力ではどうすることもできない。
お願いだ誰か助けてくれ。
村人は案の定大声を上げて逃げてしまう。
俺を助け、話を聞くお人好しはこの島には居ない。
もちろんそんな暇人は本土にだっていやしないが。
そんなに怖いか? そんなに醜いか? そんなに汚らわしいか?
待ってくれ頼む! 頼む! 頼むよお願いだ!
フフフ…… もう笑うしかない。
俺だって仕方ないんだ。
誰しも一ヶ月以上のサバイバル生活を送ればこうなる。
島を脱出するしかない。
ここに居ては危険。
島の定期船は一週間に一度。
それ以外だと緊急用のヘリが一機と漁船ぐらい。
そんなの借りれる訳もなくいつ来るか知れない船をひたすら待ち続けるしかない。
ここで一つの疑問。果たしてこんな格好の俺を乗せてくれるだろうか?
こんな身なりでは不審がられる。結局断られるのがオチ。
別の手段を考える。
何か他に手はないか?
港の辺りまで捜索。
港から少し行ったところに緊急用の船が隠されていた。
やった! これで脱出できる。
夜になり港から人影が無くなったところで船を一時的に借りる。
盗むのではない。ちょっとの間使わせてもらうのだ。
うん壊れてはいない。よし動くぞ。
待ってろよ。今迎いに行ってやるからな。
船を夜の海へ漕ぎ出す。
続く




