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World of Gray  作者:
『world of gray』
8/45

『E4』










world of gray8










『さぁ、 勝負だ!太陽!』


「雫」は頭を上げ、その場より声を張る。

ただ真っ直ぐに、其処を見つめる。

「太陽」は、フィールドへと向かった。


『試験を、明日に延ばすことは出来ないでしょうか?』


其処に着くや否や「太陽」は「生徒会長」に言った。

遠目でも分かってはいたが、間近で見る「雫」からは、より強く疲労感が感じられた。

こんな「雫」を見るのは初めての事だ。

「雫」は不満そうにしていたけれど、「太陽」の考えは変わらない。

「生徒会長」は、何処かに確認をしている。

どうなるのか、そんな事を意識するよりも早く返事は返って来た。

意外とあっさり良い返事が貰えたので、よくある事もしくは、あった事なのかも知れない。

但し、日付は明日ではなく、また後日知らせると言う事だった。

日程調整も簡単な事ではないらしい。

「太陽」は「生徒会長」に感謝を伝えると、「雫」の腕を引いて言った。


『じゃぁ、保健室に行こう!』


「生徒会長」は「真依理」へと歩み寄る。

「真依理」は天を仰いで言った。


『完敗だな。』

『真依理・・』







保健室へとやって来た「太陽」は、目を丸くして驚いた。

試合の日だと言うのに、保健室はガラガラだったのだ。

それもその筈、ボロボロになるまで戦う人は滅多にいない。

それと合わせて、人の事をボロボロに出来る程の力を持っている者が少ない。

それも相まって、この状況なのだ。

だが、これは決して悪い事では無い。

寧ろ良い事の様に思う。

「雫」は簡単に手当てを済ませ、「太陽」は「火憐」を探す。

まぁ、探すと言う程の事でもない。

使われているベッドは四つだけ、四分の一の確率で当たり。

と言うのは、少し危ない考え方かも知れない。

カーテンを開けて、知らない人だったら言うまでも無く最悪。

「火憐」だったとしても、余り良い結果にはならないだろう。

そんな気がする。

カーテン越しに声を掛けると言うのも、少し違う気がする。

知らない人だったらホラー、「火憐」だったら・・

そもそもこう言った場所では、声を出すべきではない。

休んでいる人を起こすとか、周りの人への気遣いだとか、そう言った問題と言うよりは本能的なもの。

生まれた時から身体の何処かに、そうプログラムされているに違いない。

勇気は普段の0、5倍、必要以上にむやみやたらと身体が緊張する。

声なんか出せたものではない。

まだ、カーテンをパッと開けて違ったらパッと閉める、コレの方が幾らかマシまである。

無理に声を出そうものなら、ひっくり返った声を笑われるだけ。

コレは被害妄想では無い、未来予知だ。

頭を抱える「太陽」に「雫」は言った。


『火憐なら多分あそこ。』


「太陽」は「何でわかるんだ?」と、二つの意味で疑問を感じながら「雫」が指差すそのベッドをよく見ると、カーテン下の隙間から「火憐」の鞄が少し見えていた。

ちなみに、何故それが「火憐」の鞄だと分かったのかと言うと、「火憐」は私物に名前を書く癖がある。

癖と言うよりは習慣かも知れないが、それに特徴的な御守りが付いている。

「太陽」は、カーテン越しに小さな声で話しかけた。

地声と裏声を有耶無耶にするかの様に。


『火憐、大丈夫?』


返事は無い。

どうやら寝ているらしい。

そう解釈した「太陽」は、一歩二歩下がる。


『試合、どうだったの?』


「太陽」はビックリして、つい大きな声を出してしまう。

「火憐」には怒られてしまった。

同じプログラムがなされている者同士、理解し合える。

「太陽」は「火憐」が知らないであろう出来事を全て伝えた。

「火憐」は一言『そっか』とだけ返した。


『・・大丈夫か?』


『大丈夫・・とは言えないわね。見事なまでの惨敗。「火傷を負わせてやる」なんて言っておきながら1発もダメージは与えられず 、私の方が火傷させられちゃうなんて・・笑物よね。』


「雫」は小さく仰向いた。

「太陽」は、周囲の音が書き消える程の大きな声でこう言った。


『そんな事ない!』


「火憐」からは盛大に怒られてしまった。が、「火憐」の感情は其れとは裏腹に見て取れた。


『うるせーぞー。』


数個隣のベッドから、聞き覚えのある声が聞こえて来る。


『ここは保健室だ!手当てのいらねぇ奴は、さっさと行った行ったあ!』


『すいません、お騒がせして。太陽、行くよ。』


『うん。火憐、また明日!白金先輩もお疲れ様です!』


「明希正」はカーテンを開け、身支度を整える。


『面白れ奴等だな。』


『はい。』


『お疲れ様、ナイスファイト・・まぁでも、カッコ良かったぜ、火憐!きっとアイツらもそう思ってる。』


『・・ありがとうございます。』


『じゃあ俺、先帰るわ。火憐も気付けて帰れよ!じゃあな!』


「火憐」はカーテンを開け、ゆっくりと閉まり行くドアを見つめていた。


『はい。お疲れ様でした・・』


ドアの閉まるその音に耳を預け、一息付く。

そのドアは、再び開いた。


『失礼するよ。』


保健室を後にした「太陽」と「雫」。

二人で下校するのは初めての事。

長かった一日に思いを馳せ、歩き慣れた道を歩く。

凄く疲れている筈なのに、凄く気分が良い。


『あの後、土宮先輩はどうしたんだろうね?』


『土宮先輩なら、何とも無かったと思うけど。今頃、家で寛いでるんじゃないかな!』


『流石だな。凄かったね、土宮先輩。』


『この試合、僕が負ける可能性だって十分にあった。それこそ、僕はラッキーだったのかも知れないね。』


『土宮先輩が、言ってた。たとえラッキーでも、結果が出てしまえばそれが全てだ、って。』


『・・・』


『僕達の試合、いつになるんだろうね。』


『さぁ、いつになるんだろうね。』


二人して空を見上げる。

いつも当たり前に其処にある空に、思いを馳せ。










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