二十二頁
「【激流剣】」
レヴィアは静かに剣の柄を構え、魔法で水流の刀身を発生させる。
「神に逆らう愚か者めぇええ!!」
〔祓魔狂典〕の一人が突出する。黒尽くめで、属性色はわからない。
魔法は、強力な戦闘手段である。大抵の実力者は、十中八九、魔法を行使することができるため、戦闘の際にはまず、相手の属性を判別するところから始まるものだ。
それがわからないのであれば、相手の魔法を誘発して、わざと後手にまわることもある。先手を取ったとして、それを相手の魔法で対処されては、大きな隙になる可能性もあるからだ。しかし
「排除します」
淡々と、レヴィアは剣を薙いだ。水流の刀身は、伸長し撓り強く、一人の狂信者の身体を打ち据えた。
「ぐっ……!?」
狂信者は一瞬、耐えるのものの、衝撃に負けて吹き飛ばされた。
「アァァァァァアアアァァァァ………!」
しかし、自身が格上であるならば、話は別だ。
圧倒的な威力、強度、速度のいずれか、もしくは、そのすべてによって、相手の魔法を封じる手段があるならば、わざわざ後手にまわる必要などない。
それがどれだけ合理的な戦術であったとしても、守るよりも攻める方が精神的に楽であるのは事実なのだから。
「キサマァァァァァアアア!!」
仲間をやられて、狂信者たちが気勢を上げる。
「排除します」
ただ、レヴィアの様子に変わりは無い。淡々と、自身の役割を全うする。
「【氷柱乱舞】」
「「【炎弾】!」」「【風刃】!」
「【岩石砲】!」「【茨の壁】!」
レヴィアが行使した魔法は、無数の氷柱を形成し、それが矢衾となって狂信者たちに襲い掛かる。
狂信者たちは、それぞれの魔法で相殺や防御を試みる。
「「グワァアア!!」」「バカな!」「ナァ!」「アタシのイバラがぁあ!?」
だが、レヴィアの魔法はそれを上回り、威力を多少、減衰させながらも、狂信者たちを吹き飛ばした。
これで約半数。レヴィアに向かってきた〔祓魔狂典〕は排除された。
「まだ、続けますか?降参をお勧めします」
レヴィアが全くの無表情で、小首を傾げる。
狂信者たちが、無意識に後ずさる。
「に、人形風情が調子に乗るなぁああ!!全ては神の元に!!」
一人の狂信者が錯乱気味に叫んだ。そして
「【絶対凍土】」
世界が、凍てついた。
錯乱気味だった狂信者が、叫びを上げた体勢そのままに、凍りついている。
「私は、人形では、ありません」
淡々と、されど強調するように区切って、レヴィアが言った。
表情は変わらない。だが、明らかに怒っていた。
冷え込む空気に、狂信者たちの吐く息は白かった。
「ねむ、い?」
一人また一人と、狂信者たちが意識を手放す。
遂には、その場に立つのは、レヴィアただ一人となった。
……
「全ては神の元にぃぃいいいいい!!!」
狂信者の一人がメイスを振るう。
ラインハルトは冷静に、それを避けた。そして、反撃を叩き込む。
「ガァ!?」
痛みに呻めきながら、その狂信者は吹き飛ばされた。
そこへ背後からの、刺突。
「甘えよ」
背後に目でもついているのか、ラインハルトは前に出て相手との距離感を変えて刺突を回避し、さらに、振り向き様に大剣を振るうことで狂信者をまた一人吹き飛ばす。
「まぁ、流石に数が多いか。【幻日】」
ラインハルトが魔法を行使すれば、一瞬、周囲の光が歪む。そして、そこにいたのは、三人のラインハルト。
光の屈折を利用した分身。実体は無いが、敵の注意を分散させるには、充分。
「【千里眼】」
さらに、ラインハルトは視点を俯瞰にする。
「白の悪魔め!小癪なぁあああ!」
狂信者がそう叫びながら、ラインハルトに襲い掛かる。
だが、それは分身だ。攻撃は何の手応えも無く、すり抜けた。
「バカな!コイツに影があったはずだ!?」
確かに【幻日】の魔法には、いくつかの弱点がある。
本体にだけ影があることも、その一つ。相手が冷静になれば、すぐにバレてしまう。
三人のラインハルトが、それぞれ別々に動いた。
「何、だと?」
また、本体を投影した分身であるため、本体と全く同じ動きしかできないはずであった。
だが、ラインハルトの分身はそれぞれに別々の動きをしていた。
「【光熱剣】」
そして、最も明確な弱点は、実体の無い分身であるため、攻撃ができないということ。
だが、三人のラインハルトすべての攻撃が、狂信者たちの身を焼いた。
「何だ……それ、は?それが本当に、【幻日】か?」
最初に分身を攻撃してから、呆然としていた狂信者の問い掛けに、ラインハルトが口を開く。
「魔法はイメージだ。いくらでも応用が効くんだぜ?」
既に立っている狂信者は、その一人だけだった。
「白の悪魔メェエエエエエエエエ!!!!」
憎悪にも似た激情とともに、狂信者はラインハルトに襲い掛かる。
「カハッ!?」
吐血しながら、狂信者が倒れる。ラインハルトの大剣が振るわれたのだ。
「悪魔は、テメェらの方だろ?俺の国で好き勝手やりやがって」
ラインハルトが、そう吐き捨てた。
「そんなに、国が……大事、か?」
「あぁ、大事だ」
「ククク……オマエは、後悔する……だろう、さ……必ず……必ずだ!くはははは!!」
狂信者は、最期に不吉な哄笑を遺して逝った。
『魔法について
【幻日】
光の屈折を利用した分身魔法なのだが、研鑽を
積んだラインハルトは、平行時間を顕現させかけ
ている。つまり、シュレディンガーの猫状態。
【千里眼】
視覚が受け取る光を自由に設定できる補助魔
法。ラインハルトのように俯瞰もできるし、文字
通り、千里先も見える。また、才能によっては過
去視や未来視に発展する。 』




