二十三頁
「【黒道】」
ハルトは、瞬間移動によってレオパルトに迫る。
「【雷迅】」
だが、レオパルトは雷速となってハルトの剣を避けた。
「せあ!」
雷速の刺突が、ハルトの背へと迫る。
「【黒道】」
瞬間移動によってそれを躱し、すぐさま追いついたレオパルトがレイピアを振るう。
甲高い金属音を響かせて、鍔迫り合う。
「何故、この国を選んだ?」
ハルトが静かに問い掛ける。レオパルトは、敵意を隠しもせず、ハルトを睨みつけながら答える。
「お前たちだよ。お前たち《七つの宝玉》こそがその理由だ!強すぎる!一国が抱える戦力としては強すぎる!お前たちのような者は、神に仕えるべきだった!だからこそ、この国を選んだ!お前たちが仕えた者を神の元に帰し、お前たちから表舞台に立つ理由を奪う!そして、後顧の憂いを断つために、お前たちもまた、神の元に帰す!それが我らの目的だ!黒の悪魔ァアアアア!!」
強さこそが、攻撃の理由となる。それは、シュバリア王国とて理解していた。いや、だからこそ理解していたというべきか。
故に、シュバリア王国は、その方針を専守防衛とし、決して侵略者とならないことを護ってきた。時には、周辺諸国の魔物災害の対処に協力することで、《七つの宝玉》を抑止力としながらも、敵とはならないために、騎士道精神を学び、育み、騎士の国と呼ばれるほどに、義理堅く人情深い人間性を特権階級にまで浸透させてきたのだ。
だが、それでもやはり、怖いのだ。触らぬ神に祟りなしという言葉もあるが、眠れる獅子が目覚めない保障などどこにも無い。眠れるうちに、殺してしまえ。そう思う人間は、一定数、存在するのだ。
統一世界を目指す統一派ならば、尚更のこと。自分たち以外に、強大な存在などいてはならない。
故に、排除する。踏まなくて良い竜の尾を踏む。
レオパルトが、怨嗟にも似た気合とともにレイピアを押し込んでゆく。
「そうか。だが、それは罪無き者たちを傷つける理由にはならないな」
「バカめ!これは聖戦だ!我らが正義だ!傲慢な人間の支配から解放されて喜ばれることこそあれ、恨まれる理由など存在しない!そもそもだ!人間は既に、原罪を背負っている!傷つける理由はそれだけで充分だ!神の元に帰ることができて、良かったじゃないか!くはははは!!」
狂信者は嗤う。彼にとっては、それが真実。
世界の支配者は神であり、人間が統治者であるなど思い上がりも甚だしい。
ハルトの眉間に皺が寄る。怒りが湧き上がる。
「それなら、お前たちだけで神の元に帰れば良いだろう。俺たちを、巻き込むな!」
押し込まれていた鍔迫り合い。だが、怒声ともにハルトが押し返す。
「蒙昧なる者たちを導かねばならない!そんなこともわからないか!」
「良い迷惑だってんだろうが!」
ギチギチと互いが互いの得物を押し当てる。そして、決着の時は訪れる。
ビキッという音が聞こえたと思えば、次の瞬間には、バキッと折れる音が聞こえた。
折れたのは、レオパルトのレイピア。当然の結果だった。ハルトの剣は、鉄塊を【圧縮】で加工した超強度の重剣。
どれだけそれが業物であろうと、細身のレイピアが負けるのは、必然。
「バカな!?祝福を受けたレイピアが折れるなど!?」
「悪魔はあんただ!そんなヤツが、祝福なんて受けられるはずがねぇんだよ!」
無防備を晒すレオパルトに、ハルトの一撃が撃ち込まれる。
「ぐっ……ァァァァァアアア!!」
折れたレイピアで防ぐものの、レオパルトは重剣の重みに耐え切れず、吹き飛ばされた。
「【黒道】」
容赦無く、ハルトが追撃を仕掛ける。
「っ!?カハッ!?」
これもまた、レオパルトは折れたレイピアで防ぐ。だが、今度は兜割を防いだために、地に叩きつけられる。
「【重撃】!」
「【紫電一閃】!」
さらなるハルトの追撃に、レオパルトもまた、折れたレイピアで迎え撃つ。
「ぐっ!?」
呻いたのはハルトの方だった。閃いた紫電は、ハルトの鉄剣に通電して、痺れを齎したのだ。
「ゴホッゴホッ……馬鹿力め……」
体勢を整えながらも、身体のダメージにレオパルトが咳き込み吐血した。
「降参したらどうだ?その状態じゃもう、戦えないだろう?」
既に痺れの抜けたハルトが、決着はついたとレオパルトに声を掛ける。
「捕虜になろうと、私は何も喋らないぞ?それに、まだ、終わりじゃない。立ち止まることは許されない。これは、聖戦なのだから」
苦しげに笑いながら、狂信者は胸を張る。
そして、折れたレイピアを自身の心臓に突き立てた。
「なっ!?」
「ククク、お前だけは私が倒す……カハッ……【嵐王】」
吐血しながら、レオパルトが魔法を行使する。
突風が巻き起こり、紫電が空間を駆け抜ける。
「何、を?」
砂埃に目を開けることさえ難しい。ハルトは、一先ずレオパルトから距離を置く。
レオパルトが存在する辺りの上空から、黒雲に覆われてゆく。瞬く間に、世界が暗がりに沈む。
轟音立てて雷霆が近くの山に落ちた。
それから堰を切ったかのように、次々と辺りに雷霆が突き刺さる。
砂埃が晴れる。
そこにいたのは、紫電と烈風を纏い、嵐そのものと成り果てた堕天使だった。
「何だ、その翼は?」
「ククク……」
ハルトの問い掛けに、漆黒の翼を生やしたレオパルトは不気味に笑う。




