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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
24/46

二十三頁

「【黒道】」


 ハルトは、瞬間移動によってレオパルトに迫る。


「【雷迅】」


 だが、レオパルトは雷速となってハルトの剣を避けた。


「せあ!」


 雷速の刺突が、ハルトの背へと迫る。


「【黒道】」


 瞬間移動によってそれを躱し、すぐさま追いついたレオパルトがレイピアを振るう。


 甲高い金属音を響かせて、鍔迫り合う。


「何故、この国を選んだ?」


 ハルトが静かに問い掛ける。レオパルトは、敵意を隠しもせず、ハルトを睨みつけながら答える。


「お前たちだよ。お前たち《七つの宝玉》こそがその理由だ!強すぎる!一国が抱える戦力としては強すぎる!お前たちのような者は、神に仕えるべきだった!だからこそ、この国を選んだ!お前たちが仕えた者を神の元に帰し、お前たちから表舞台に立つ理由を奪う!そして、後顧の憂いを断つために、お前たちもまた、神の元に帰す!それが我らの目的だ!黒の悪魔ァアアアア!!」


 強さこそが、攻撃の理由となる。それは、シュバリア王国とて理解していた。いや、だからこそ理解していたというべきか。

 故に、シュバリア王国は、その方針を専守防衛とし、決して侵略者とならないことを護ってきた。時には、周辺諸国の魔物災害の対処に協力することで、《七つの宝玉》を抑止力としながらも、敵とはならないために、騎士道精神を学び、育み、騎士の国と呼ばれるほどに、義理堅く人情深い人間性を特権階級にまで浸透させてきたのだ。


 だが、それでもやはり、怖いのだ。触らぬ神に祟りなしという言葉もあるが、眠れる獅子が目覚めない保障などどこにも無い。眠れるうちに、殺してしまえ。そう思う人間は、一定数、存在するのだ。


 統一世界を目指す統一派ならば、尚更のこと。自分たち以外に、強大な存在などいてはならない。


 故に、排除する。踏まなくて良い竜の尾を踏む。


 レオパルトが、怨嗟にも似た気合とともにレイピアを押し込んでゆく。


「そうか。だが、それは罪無き者たちを傷つける理由にはならないな」

「バカめ!これは聖戦だ!我らが正義だ!傲慢な人間の支配から解放されて喜ばれることこそあれ、恨まれる理由など存在しない!そもそもだ!人間は既に、原罪を背負っている!傷つける理由はそれだけで充分だ!神の元に帰ることができて、良かったじゃないか!くはははは!!」


 狂信者は嗤う。彼にとっては、それが真実。


 世界の支配者は神であり、人間が統治者であるなど思い上がりも甚だしい。


 ハルトの眉間に皺が寄る。怒りが湧き上がる。


「それなら、お前たちだけで神の元に帰れば良いだろう。俺たちを、巻き込むな!」


 押し込まれていた鍔迫り合い。だが、怒声ともにハルトが押し返す。


「蒙昧なる者たちを導かねばならない!そんなこともわからないか!」

「良い迷惑だってんだろうが!」


 ギチギチと互いが互いの得物を押し当てる。そして、決着の時は訪れる。


 ビキッという音が聞こえたと思えば、次の瞬間には、バキッと折れる音が聞こえた。


 折れたのは、レオパルトのレイピア。当然の結果だった。ハルトの剣は、鉄塊を【圧縮】で加工した超強度の重剣。

 どれだけそれが業物であろうと、細身のレイピアが負けるのは、必然。


「バカな!?祝福を受けたレイピアが折れるなど!?」

「悪魔はあんただ!そんなヤツが、祝福なんて受けられるはずがねぇんだよ!」


 無防備を晒すレオパルトに、ハルトの一撃が撃ち込まれる。


「ぐっ……ァァァァァアアア!!」


 折れたレイピアで防ぐものの、レオパルトは重剣の重みに耐え切れず、吹き飛ばされた。


「【黒道】」


 容赦無く、ハルトが追撃を仕掛ける。


「っ!?カハッ!?」


 これもまた、レオパルトは折れたレイピアで防ぐ。だが、今度は兜割を防いだために、地に叩きつけられる。


「【重撃】!」

「【紫電一閃】!」


 さらなるハルトの追撃に、レオパルトもまた、折れたレイピアで迎え撃つ。


「ぐっ!?」


 呻いたのはハルトの方だった。閃いた紫電は、ハルトの鉄剣に通電して、痺れを齎したのだ。


「ゴホッゴホッ……馬鹿力め……」


 体勢を整えながらも、身体のダメージにレオパルトが咳き込み吐血した。


「降参したらどうだ?その状態じゃもう、戦えないだろう?」


 既に痺れの抜けたハルトが、決着はついたとレオパルトに声を掛ける。


「捕虜になろうと、私は何も喋らないぞ?それに、まだ、終わりじゃない。立ち止まることは許されない。これは、聖戦なのだから」


 苦しげに笑いながら、狂信者は胸を張る。


 そして、折れたレイピアを自身の心臓に突き立てた。


「なっ!?」


「ククク、お前だけは私が倒す……カハッ……【嵐王(ワイルドハント)】」


 吐血しながら、レオパルトが魔法を行使する。


 突風が巻き起こり、紫電が空間を駆け抜ける。


「何、を?」


 砂埃に目を開けることさえ難しい。ハルトは、一先ずレオパルトから距離を置く。


 レオパルトが存在する辺りの上空から、黒雲に覆われてゆく。瞬く間に、世界が暗がりに沈む。


 轟音立てて雷霆が近くの山に落ちた。


 それから堰を切ったかのように、次々と辺りに雷霆が突き刺さる。


 砂埃が晴れる。


 そこにいたのは、紫電と烈風を纏い、嵐そのものと成り果てた堕天使だった。


「何だ、その翼は?」

「ククク……」


 ハルトの問い掛けに、漆黒の翼を生やしたレオパルトは不気味に笑う。

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