同期からの手紙
難産!
楽しい昼休みが終わり、自分のディスクに戻った。
いつも空気を読まずに、近寄って来る織部。私のディスク側まで来ているのに悩んでいる様子で佇んでいた。一瞬目が合ったが、私の方から逸らした。悪いなと思ったが、積極的な織部が苦手だった。
彼なら何で目を逸らしたのかと理由を追及してくると思って、仕事中も落ち着かなかった。だが、普段と一味違った。
仕事が終わって私がタイムカードを切る寸前になって、織部が不安な顔をし近寄ってきた。
「矢野さん、何か落ち込むことがあったじゃないんですか? 俺じゃお役に立てないかもしれませんが、これ手紙です。気が向いたら読んでもらえると嬉しいです」
「そんなに、顔に出ていたかな。織部君にまで心配かけてしまって申し訳ないな。手紙ありがとう、読ませてもらいます」
私は短く答えながらも感謝していた。同期のエースの彼は多忙なはず。
品のいいバラ色の無地の便箋を選んで、手紙まで書くのは骨が折れただろう。挙動不審だったのは手紙を渡すタイミングを図っていたのだ。やっと合点がいった。
今日も電車に揺られて、帰宅だ。窓に映った顔からは力みが薄れた気がする。同僚に気付かれるくらい肩に力入ってたんだと恥ずかしくはあったが、気遣いがありがたかった。
駅近くのスーパーに寄って夕飯と明日の弁当の材料を買い込む。今晩はミネストローネとガーリックトーストを作ろうと計画した。後は里芋やレンコンに椎茸、鶏の手羽先を購入して筑前煮に挑戦しようと考えうきうきしている。美味しく出来たら嬉しいなと、最近は料理が気分転換になっていた。
ようやく帰り着いて、紅茶を入れてソファーに座ると織部君の手紙を開いた。
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矢野さんへ
手紙なんて柄じゃないものを書いています。
最近の矢野さんは、以前よりも輝いています。ただ、頑張り過ぎている気がします。
だから少し危なっかしく感じていました。
俺は強引な人間だし、好きなものや欲しいものは必ず手に入れたいと思っているタイプです。
でも矢野さんには、のんびりしたところがあって見ているとホッとするんです。目先のことに惑わされない落ち着いたところも魅力だと思っています。俺が求めても持てない部分があるからこそ惹かれています。
矢野さんの変化はいいことなんでしょう。それが、俺の手柄じゃないのは悔しいですが。
恐らく矢野さんは恋をしているんではないでしょうか? それが上手くいかないから心が不安定なんじゃないかと考えています。
俺は強引で強気と思われ、矢野さんには敬遠されているようですね。
俺だって人並みに傷付いたりイケてない自分に失望したり挫けそうになったこともあるんですよ。
信じてもらえないかな。
とにかく一つの恋に苦戦しているかもしれませんが、人の縁なんてどこでどうなるか分からないものです。あまり悲観しないで下さい。
本当はチャンスが来たと喜ぶところなのかもしれませんが、こういう時に迫るのは俺の美学に反します。
矢野さんの優しさやひたむきさは、とても可愛らしいです。これは本音です。
元気が出ないときは、俺を利用して下さい。とりあえず美味しい喫茶店を紹介しますよ。
織部順より
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私はこの思いやりに溢れた手紙の内容にびっくりしてしまった。織部に対して下していた心のシャッターを開けるきっかけになった。
幸せになる為には、もっと人として成長しなくてはならないんだなと感じた。勇気を持って明日から内気な心から踏み出す努力をしていこうと決意した。
新年書き始め!読んで下さりありがとうございます!




