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リグレット

今回はボリュームダウンです。

「真由美さんには、もっと自分を大切にしてほしい。僕のような男性が簡単にどうこうしていい存在ではない」

 視線を私から外して、ヒギンズ教授が言った。そしてソファーから立ち上がるとカーテンを開けて階下の景色を見下ろして暫く黙っていた。沈黙が重くて、耐えられなくなり、

「私はそんな上等な女ではありません。ほんの少しの変化に戸惑い、些細な優しさに動揺してしまう愚か者なんです」

 と切り出した。


「そこが、貴女のいいところなんですよ。自分の心を偽らない、真っ直ぐさがいとおしいです。成長途中だからこその魅力かもしれません」

「私は、年齢に対して世慣れていないところがあります。それは未熟なだけじゃないんですか?」

 恥ずかしそうに言った私に教授は、

「僕は未完成な真由美さんに付け入るようなことはしたくないのです。貴女が自分の力で幸せになって、相応しい相手に出会えると信じています」

 と毅然として答えた。

 

 私は冷めた紅茶を口にしながら、夢から覚めていくのを感じていた。結局のところ、教授の行動は計算されたものだったのだ。私のような恋に初心な女には、たった一度の軽い接吻で充分だった。

 教授の本当の顔を知ることなんて無理だと思い知らされた。舞い上がったのは自分だけで、冷静なヒギンズ教授の態度に歯痒さと後悔の念が込みあげてくる。

 だが私にも意地がある。必ず、自分なりの幸せを掴んでみせる。その時こそ彼と新しい関係が築けるのではないか? 悔しさをバネにするんだ、心に炎が宿ったのだ。


「ヒギンズ教授、よく理解出来ました。教授の立場も、私がどうすべきかも。出来の悪い生徒ですが、これからもどうかご指導下さい」

「真由美さん、それでいいんです。僕たちの間には、飛び越えることの出来ない立場の違いがあるんです。それでも貴女は、大切な生徒だ。それは決して変わらない」

 

 私はこの夜の甘さとほろ苦さを、しばらくは忘れないだろう。

 でもいつか、教授の唇の感触は忘れられる。きっと忘れてみせる。

 帰途につき、煎餅布団の中で身を縮こまらせながら願いにも似た気持ちで決心していた。




読んでくださってありがとうございます。

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