ⅩⅩⅦ シュラムの正体
クレイは、郊外の物陰に佇んでいた。
(1人、か?)
あたりを警戒しつつ、カルトはクレイに近づいた。
「クレイ」
「カルト! 無事だったか? ほんと、びっくりしたんだ! あんな通達が来るなんて……」
「――そうか、すまなかったな」
クレイはカルトの変化に気付いた。
「カルト……?」
「クレイ。俺はお前を信じていいのか?」
「当たり前だろ!? 拾ってくれたお前に俺は表しきれないほど感謝している! お前を護るためだけに、俺は存在してるんだ!」
クレイは必死にカルトに語りかけた。しかしクレイとカルトの間には、ひどい温度差があった。
「そうか……。だから、リュイも殺したのか?」
「何のことだ?」
「あの通達を送れば、お前が来ると思って、送ったんだ。助けに来てくれると……。しかし、返ってきた通達には、“クレイが行方不明”だと書いてるじゃないか。挙句の果てには、リュイの妹はシュラムというやつに兄は殺された、と言った。 ――シュラムという名は、お前のモストロ時代の名だろ……?」
カルトは悲しげな目をして言った。
「そんな顔すんなよ、カルト。俺は、お前のために、殺したんだぜ? あいつはカルトを撃った。俺の恩人のカルトを、だ」
カルトはクレイの言葉に愕然とした。
「たった、それだけのことでか?」
「カルトにとっちゃそれだけのことかもしれないが、俺にとってあいつは大罪人だよ! 俺とって、神にも近い存在のカルトを、傷つけるという大罪を犯したんだ!」
クレイの悲痛の叫びに、カルトは悲しげに苦笑した。
「お前は、俺のためにリュイを、俺の同級生を、殺したというのか?」
「そうだ! たとえ同級生だろうとなんだろうと“俺のカルト”を傷つけるやつは許さない!」
カルトは先程のルアンの話を思い出していた。「周りに誰もいなくなれば自分のものになる」「絶望させれば自分のものになる」と言っていたリュイ。
(こいつも、リュイとさほど変わらないじゃないか。行き過ぎた尊敬は崇拝へと変わる。崇拝は、やがて固執に、執着に、そして束縛へと変貌する……)
「――そうか、俺は今お前を殺したいよ……。なぜあいつを殺したんだ! リュイだって根はいいやつなんだ。モストロを生み出すまでは、ずっと一緒にいた。あんな風になってしまっても、リュイはリュイであることに変わりはない。だから俺はあいつに撃たれるなら、何か意図があるのだろうと思っていたのに……」
「カルト、なぜ分かってくれないんだ……。こんなに俺はお前のことを!」
クレイは、腰に挿していた剣を抜いた。
「クレイ。俺はお前を家族だと想っている。ただ、お前の想いは、愛ではなく執着だ」
「執着……? ああ、そうだ! 俺はお前に執着している! それの何が悪いんだ!」
斬りかかってきたクレイを、カルトは腰に挿した剣で防いだ。
「どうして分かってくれないんだ、カルト。俺はこんなにも想っているというのに!」
吼えるような声とともに、クレイは再度カルトに斬りかかった。耳を劈く金属音と獣のような叫び声があたりに響いた。
「――俺に斬りかかってくる、このときを待っていた」
カルトはクレイの剣先を避け、急所を突き刺した。短い悲鳴をあげて倒れこむクレイ、その姿にカルトは背を向け、リストの待つ車の方向へと向かった。
「そんなに、リュイが好きなら……。あいつの銃で逝けよ……」
背後から聞こえたその途切れ途切れの掠れた声に、カルトが振り向くよりも早く、あたりに乾いた銃声が響き渡った。
うっ、という短い呻き声をあげ倒れこむカルトを見た、クレイの息はまさに絶え絶えだった。
「これで、カルトは……、俺と……」




