Ⅰ 謁見
大陸のもっとも西に位置する国、ガルブ。この国では古くから“人喰い”という文化が根付いてしまっていた。
ここには昔、主食が“人間”のモストロという種族が住んでいた。人間はそこに攻め込み、無理矢理占領し、そして一人の男は高々に宣言したのだ。
「人喰いの化け物共! 今、この瞬間からお前らの国は消え去った!! 今日から私が国王だ!!」と。
国王と名乗ったその男はモストロを差別し、狭く汚い地域へと押しやった。
モストロたちを押しやったその町はフーガと呼ばれ、その文化は今でも受け継がれている。
加工場に行けば断末魔のような叫びが響き渡り、あたり一面は血の海。そこらへんには逆さ吊りにされ、血抜きをされている最中の首の斬られた人間、その上、骨やら肉片やらが飛び散ったあとのようなものまである。
フーガ郊外には食用の人間を育てる場所がある。
そこで育てられているのは、税金未納や、借金などの生活苦で身売りしたモストロではない一般市民たち。
国王は国を発展させるため、生活苦などの相談で来た下級の市民たちに徹底的に身売りを勧めた。
「今よりいい生活ができるよ。1日3食なんて当たり前、遊んで暮らせるよ」
などと甘い言葉で誘い込み、モストロの食糧を確保し、国を発展させていたのだ。
そんなお陰で市場に売られているのは、豚肉や鶏肉などの家畜の肉ではなく、もちろん人間の肉。
男、女、子供の3種類に分類され、さらに男と女は若者、中年、老人の3種類に、子供は男子、女子の2種類に分けて販売されている。
特に女性と子供が柔らかく美味しいと、モストロの間では人気なのだそうだ。
「ひどいな……」
久しぶりに訪れたカルトは思わず呟いた。
カルトは中央の国、メディオから派遣されたエファセ、エファセとはモストロを監視する者とでも言うのだろうか。
最近、モストロの様子がおかしいという国王の要請を受け派遣されたのだ。
(見た感じ全く変わった様子はないが……)
周りのモストロは、なんら変わりなく普通に過ごしているように見えた。
「さっさと終わらせて帰るか……」
カルトは国王と謁見するため、居城へと向かった。
国王の居城に行くには屈強な兵士が左右に立っている門を潜るしかない。
カルトは道の中央に立つと、左側の兵士は手に持った槍を、右側の兵士は腰に提げた銃を、それぞれカルトに向けた。
「何者だっ!」
「名を名乗れ!」
「失礼。メディオから派遣されました、ヒネーテと申しますが」
“メディオから派遣された”という言葉に兵士たちは態度を一変させた。
「はっ! 失礼いたしました。伺っております、さあこちらへどうぞ!」
兵士は即、槍と銃を元に戻し、恭しく一礼した。
「はい。失礼します」
案内された先はまさに応接間というような煌びやかな一室。
その部屋の奥にある椅子に深く腰掛けていたのはふくよかな体型の中年男性だった。
「やあ、お待ちしてました。遠方からお越しいただきありがとうございます。この国の王、コロナ・レムレースといいます」
「カルト・ヒネーテです」
「どうぞ、お座りください」
カルトが座ると国王は早速本題に入った。
「今回来ていただいたのはほかでもない、モストロのことなのですが……」
「大まかなことは上司から聞いております、モストロの様子がおかしいとかで」
「そうなんです。なにか、反抗的な態度をとるようになりまして」
国王は顎に手をやり首をかしげた。
「どうにかなりませんかね……?」
カルトは察しがついた。
(こいつ、モストロを殲滅しろと言いたいのか?)
「先に言っておきますが、モストロを殲滅というのはできません」
カルトの言葉に国王は苦笑いを浮かべた。
「――なにも殲滅しろと言いたいわけじゃない。なぜいきなり反抗的な態度をとるようになったのか、を探って欲しいのです。お願いできませんか?」
「そういうことでしたら、お受けします。では、報酬は」
「もちろん、いつも通りの10万ディエロ。ガルブに滞在している間の生活費もこちらが出しましょう」
国王は指を鳴らした。すると秘書がキャリーバッグと鍵をテーブルの上に置いた。
「――いつも通り、私どもの行動にはあまり干渉しない、という方向で」
「それはもちろんです」
国王はあからさまな作り笑いを浮かべた。
「ご協力、感謝いたします」
形式的な挨拶を終えカルトはケースを持ち、居城を出た。
キャリーバッグの中に入っていた地図を頼りにカルトは、今日から過ごすことになる我が家へと向かった。
「ここか」
扉を開けると中は案外広い構造だった。
(ふん、いい家だ。あの狸もたまにはいいことをする)
ベッドに腰掛け、カルトは明日の計画を練った。
(前に来たときより荒れているか、と聞かれたらそうでもない。一体何を調べればいいんだ?)
悩んだカルトは上司に相談することにした。
『はい』
「あ、リスト? 俺、カルト」
『あぁ~。どうした? なにかあったのか?』
電話の相手はカルトの上司、リスト。上司とは言っても幼馴染なため、敬語を使うのはよっぽど公の場のみである。
「ちょっと相談したいことがあってな」
カルトは今の状態を説明した。
『なるほどな、長くなりそうだな~』
「そうなんだよ、全く。それで、まず、どこから探るのがいいと思う?」
『直接聞いてみれば?』
「は?」
(こいつは馬鹿か?)
カルトは本気でそう思った。そんな雰囲気が電話越しに伝わったのか、リストは慌てた口調で言った。
『ちょっ! 怒るなって! 冗談だよ~』
「こっちは本気で聞いてんだけど」
『でも、その手の話は直接聞くのも手じゃないか?』
(直接、ねぇ……)
「わかった。とりあえず、行ってみるわ」
『おお、何かあったら連絡しろよ?』
「わかってる、じゃあな」
リストとの通話が終わり、家の中は静寂で満たされた。
「もう寝るか……」
こうしてカルトの調査生活が始まったのだった。
10万ディエロ=日本円では1000万くらいです。




