最終話:謀略の限りを尽くしたんだ。あとは好き勝手にさせろ。
さて、あとは会議の日を待つだけだなと頷いていたら、ずっと黙ってこちらを見ていた母が、ツンツンと私の袖を引いてきた。
「……ねぇ、アルブレヒト様って呼ばないと駄目かしら?」
「フハハハッ! いや、いつものようにニコラウスと呼んでくれよ、お母様。貴女は私の母だとずっと伝えてきただろう?」
「じゃあ、抱きしめてもいい?」
「ああ、もちろんだ」
抱きしめた母は、少し涙ぐんでいた。たぶん幼くして亡くなってしまった本物のニコラウスに向けた涙だろう。
「エミーリア」
「……」
「一番大切なことを言いそびれていた。夫婦喧嘩は私のいないとこでやれ」
「ニコラウス、それが一番大切なの?」
「ああ。犬も食わないんだぞ? 私も食いたくない」
そう言うと母が楽しそうに笑い、ライゼガング侯爵は少し苦笑いしていた。
「笑えるのなら、大丈夫だ。ちゃんと話し合えよ」
そう言って執務室を出た。気持ちは驚くほどに晴れやかで、世界がとても明るく感じた。
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おそらく、あのときに私の心の凝りは全て消えたのだろう。騒がしい会議場を眺めながらつい先日のことを思い出していた。
項垂れた国王陛下がサインをし終えると、近衛騎士たちが国王陛下を連れて出ていった。その足のまま馬車に乗せ、先に捕えていた王妃陛下とともに離島にある別荘で隠居してもらう予定だ。
恋愛結婚で夫婦仲はとても良いが、これからもそれが続くのかは、努力しだいなのだろう。ライゼガングをちらりと見ると、少し腫れた左頬が目に入った。
指輪は嵌めていることから、まぁ何とかなったのだろうな。
「議員や騎士団の再編などは後日行う。またこの場では軽微な悪事は見逃しているが、今後それが通用するとは思わないことだ。いいな?」
議員たちが全員立ち上がり、クヌートに向けて臣下の礼を執った。クヌートはここからが正念場だろうな。仕事は手伝ってやらないが、謀略くらいは楽しそうだからやってやらないこともない。
ライゼガングが兄たちを文官にしたのは、小さな不正を事前に探し出させるためだった。私が騎士団に入ったあと何かと情報を聞き出そうとしていたときがあったが、それもそのためだったらしい。
そして、家に来た商人は悪事というよりは、他所の屋敷に入り込んでもらい金の流れを見てもらっていたらしい。
ライゼガングは、恐ろしいほどに国や国民のために働いていた。しかも仕事熱心ときた。ライゼガングは退職し母と田舎で蟄居するとか言いかけていたが、聞こえないふりをしておいた。耳をかっぽじりながら「毒の後遺症で時々聞こえないんだよなぁ。特に都合の悪いものは」と言うと、苦笑いし諦めてくれたので良しとする。
「兄さん、紅茶のおかわりは?」
「ん、くれ」
「ニコラウス様には私が入れます! クヌートは勝手にそこら辺の泥水でも啜ってなさい!」
「僕、国王になったんだけどね?」
「その『僕』気持ち悪いわ」
クヌートの執務室でゴロゴロしていると、必ずレベッカが現れる。そして毎度、クヌートと口喧嘩をしているのだが「お前たち本当は仲がいいよな?」と聞くと、声を揃えてそれはないと言うのだから、つい笑ってしまう。
レベッカはときおり何かに興奮して鼻血を吹き出しているのは御愛嬌だろう。たぶん。
「あーあー、クヌートはすぐに結婚して王妃としっぽりしてるのにぃ。あと六年も待たないといけないなんて……クヌート、法律変えなさいよ」
「無茶言うな! 馬鹿か!」
「ニコラウス様、聞きました!? コイツ、淑女に向かって馬鹿とか言いましたよ!? ねぇ、聞いてます!?」
まったく。昼寝をしに来たのに騒がし過ぎる。
「聞いてる聞いてる。レベッカ、膝枕」
「はひっ! 今すぐに!」
「ん」
ここまで来るのに十二年。謀略の限りを尽くしたんだ。あとは好き勝手にさせてほしい。
たまにライゼガングに『お父様』と呼びかけてイジったり、たまにレベッカの膝枕でサボったりして、そんな幸せな悪役令息としての日々をのんびり過ごせれば、私は大満足だ。
―― おわり! ――
最後までお付き合いありがとうございました。
捻挫して動けないしと、書きまくって怒涛の投稿しました(をい)
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