63:フィオナの処遇(1)
音楽祭から一夜明け、トウカはいつもと変わらずギルバートを起こしに行き、いつもと変わらぬやり取りをして学園に向かった。だが、2人の間を流れる空気はどこか気まずい。
こういう時はいつも、ユイがこの気まずい雰囲気をどうにかして和ませてくれるのだが、あいにく今日は休みだ。
何とも言えない空気のまま、2人はランドール夫人に見送られ、学園の門をくぐった。
「やはり色々と噂されているな」
「そうですね」
皆が遠巻きに噂の王太子を見る。
学生たちは、あちこちで昨日の音楽祭の件を噂していた。
フィオナ・モートンは昨日付で学園を除籍処分となっていた。そして同じく、ノイマン伯爵家の令嬢テレーゼも姿を消した。
まだ細かくは何も決まっていないが、暗殺計画に関与した3家は取り潰す事が確定していおり、また、親族は一時的に拘束されて聴取を受けることとなっている。
どこまでの親族が処罰されるのかはまだ決まっていないが、関与の度合いによって処刑や国外追放、投獄などの刑に処されることとなるだろう。
処分に関して決定しているのは、関与していない未成年の子どもたちの保護である。
これはギルバートが王に進言し、それを王が聞き入れたらしい。
フィオナ・モートンは現在、処分が確定するまで王宮の客室で保護されている。
しかし保護と銘打ってはいるが、実質は投獄されている状態に近く、ただ部屋が王宮の客室というだけ。
一応、彼女は叛逆者の娘。しばらくの間は監視がつけられ、会える人物や行動は制限される。本当に無害であることが確認されれば、然るべき処罰が言い渡される流れだ。
教室の前に着くと2人は顔を見合わせて深くため息をついた。
「開けますよ?」
「ああ」
トウカはギルバートの返事を聞くと、ゆっくりと扉を開けた。
すると、ピタリと時が止まったかのように鎮まり帰る教室。2人は相変わらず注目の的だった。
ギルバートが爽やかな笑顔で「おはよう」と一言言葉を発すると、教室の時は再び動き出す。皆がギルバートに群がり、音楽祭の話を聞きにくる。
トウカは相変わらず皆に質問責めにされる威厳のない王太子…もとい、親しみやすい王太子を無視して、少しはなれた席に座った。
ふと、窓際の方を見ると、いつもフィオナが座っていた席が目に入る。
そこには別の生徒が座っていた。
窓から差し込む日の光に照らされるあの席でいつも皆の中心にいたフィオナも、突然周りから遠巻きにされて不躾な視線を送られていたフィオナも、今はもういない。
結局、トウカができた事は『フィオナの命を保証する』ということだけだ。
彼女の処刑は回避されたが、これからその生活は大きく変わる。
今までのようにはいかない。家族が父親しかいなかった彼女は、これから一人で生きていかねばならない。
(これで、良かったのだろうか)
今後、自分達がフィオナに関わる事を許されるのかもまだわからず、トウカは彼女がいつか『生かされた事』を後悔しないか、少し不安になった。
今更そんな事を思っても仕方がないのに。
***
その日のランチタイム、トウカは久しぶりに食堂のいつもの席にやってきた。
「フィーの様子はどうだ?」
アーサーは隣に座るトウカに尋ねる。彼には今回の作戦の概要だけ知らされていたが、特に役割は与えられていなかった。
それ故にフィオナのために何も出来なかった自分を悔やんでいるらしい。
彼にできる事がなかったというだけで、彼自身が役立たずというわけではないのだが、それでも好きな女の一大事に何もできないというのは男からすれば悔しいようだ。
「今は少し熱を出しているようです。ここ数日、ずっと緊張状態が続いていたせいか疲れが溜まっていたのでしょう」
ここ数週間、学園では針の筵に座らされ、家では反逆者の父がいる生活をしていた彼女は、ずっと気の休まる時がなかったのだろう。
フィオナは王宮につき、リーナの元に着くと倒れ込んでしまったらしい。
「大丈夫なのか?」
「王宮の常駐医によれば、ただの疲労からくるものだそうなので大丈夫かと…」
「見舞いには行けないのか?」
「それは…申し訳ございません。彼女は今隔離されています。処分が決まるまで、少なくともあの作戦に関わった人物は彼女に会う事が許されていません」
「…そうか。まあ、仕方がないな」
そう言うと、アーサーは眉尻を下げた。
今、フィオナのそばに居る事が許されているのは男爵家の元使用人リーナだけだ。
彼女はフィオナの処分が決まるまで、そばに居ると申し出たらしい。
少しでもアーサーが安心できればと思い、トウカは『リーナがフィオナのそばに居るのなら大丈夫だ』と話した。
アーサーは君がそう言うのなら大丈夫なのだろうと笑った。
風邪引くと妄想が捗りませんね。
鼻水垂らしながらだと筆が進みません。
喝!!




