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本気のバントに敵はない!  作者: 小走煌
2 まだ見ぬ仲間を探して
24/51

敵もさるもの

 いつもなら、後は味方があれよあれよとホームベースへ返してくれるのを邪魔しないように見守っていればよい。それで次の打席もしっかりバントを決めて、勢いづいたおっちゃん達が大暴れする様を塁上から眺めているだけでお駄賃ゲット、となるわけだが今は少し勝手が違う。

 なにせ味方は結成して間もない女子高生軍団。ただ立っているだけで果たして得点を重ねられるかどうかは未知数である。リードを大きく取って相手投手の気を引こうか、いっそ盗塁でも仕掛けてみようかと色々心配してしまうが、こんな悩みが一塁塁上で繰り広げられていることなどどうせ誰も気づきやしないだろう。

 それに相手も女子高生というのが実に異色だ。どこか違う世界にでも来た気分になる。こうなれば、ひとまず余計なことはせずに佇んでおくのが得策か。

 二番バッターの奏は相手投手の投げる球に手を出すことなく見送っては、首を傾げていた。待ち球が来ないのだろうか。難しく考えないでドーンと打ったらいいのに。

「キャッチャー!」

 次の瞬間、迷ったようなスイングがキャッチャーフライを打ち上げた。相手キャッチャーが丁寧に捕球するのを恨めしそうに見てから引き揚げる奏。ベンチへ戻る間際、心なしかチラリとこちらを見たような気がした。私の声がテレパシーかなにかで聞こえて打ちに出たわけじゃないだろうな、と環は一瞬ヒヤリとした。

 続く三番の京、四番の飛鳥も同じように力のないスイングで凡退した。おっちゃん達みたいになにも気にせずフルスイングすればいいのに、と環は思ったが、まだ初回だし仕方ない。

 東高校の守備、プレイ開始前のボール回し。ファーストのポジションからセカンド、サード、ショートへとボールを転がして送球を受ける。セカンドの綾香は緊張しているのか、若干動きがカクカクしている。それに対してサードのえりか、ショートの京は慣れたものだ。二人とも、練習の時と変わらない動きで共に正確な送球をくれる。

 これなら三遊間は安心、一二塁間も少し時間を掛ければ問題ないだろうと環は一人、心の中で結論付けた。

 しかし、内野が準備万端でも意味がなかった。上大岡高校の上位打線は、センターに一本、レフトに二本とたちどころに痛烈な打球を飛ばしたのだ。

「ちょっとなにしてんのよ! なるべく内野に打たせなさいよ!」

 たまらず奏がタイムを掛け、飛鳥を中心に集まった円陣で開口一番えりかがそう言った。

「そう言ってもさ、皆スイング鋭くて、ウチの自慢のストレートが簡単に合わせられちゃったんだから仕方ないし」

 飛鳥はなぜか嬉しそうに語る。飛鳥のストレートは女子高生はおろか、おっちゃん達にも通用するであろう威力だ。ここは難なく打ち返した相手連中を褒めるべきだろう。

「それにしても、祥先輩に優先輩、よく後ろに逸らさないで捕ってくれたよ。捕りやすいバウンドだったっていうのもあるだろうけど、打球結構速かったしね」

 環は思ったことをそのまま口にした。すると「全く、鍛えておいて本当によかったわ」とえりかが吐き捨てるように言った。

「樋野さん。今の打席は素直に相手の実力がまさった結果ですわ。味方に当たっても仕方ありませんのよ」

 すかさず京がえりかを諌めるように言った。えりかは悔しそうに頭をかいた。

「ったく、分かってるわよ。一筋縄では抑えられない相手ってことくらい。でも飛鳥。アンタのフォークボールがあれば話は違うはずよ。幸いにも満塁。フォークを多投して併殺を取るのよ」

「そだね。ウチもやられっぱなしじゃシャクだし。奏、止めてくれる?」

 飛鳥は真剣な表情で奏を見た。奏は微笑みながら無言で頷く。これなら飛鳥のどんな球でも後逸することはないだろう。

「よし、それじゃ、解散!」

 えりかの号令で元の位置に戻る。マウンドから去り際、綾香が犬のような目でこちらを見て「飛んで来たらどうしよう……」などと呟くものだから、環は左手でドンと胸を叩いて見せた。

「それじゃあいっくよー、強豪相手にもきっと通用する、このボール!」

 飛鳥はセットポジションから豪快なフォームで第一球を投じた。ボールはカクンと変化し、四番打者のスイングの軌道の下を通る。打球はカス当たりになって、あらかじめ前進守備を敷いているサードの前に飛んだ。サードを守るえりかは素早く捕球し、クイックモーションで本塁へ送球した。

「奏、すぐファーストに!」

 直後、えりかの叫びのような指示の声が飛んだ。環はその声をファーストベースへ戻りながら背中で聞いた。「はい!」と奏の返事が聞こえたところでベースに辿り着いて振り向き、どうにか奏からの送球に間に合った。

「よっしゃー、ナイス守備!」

 飛鳥がグラブを叩いて大袈裟にガッツポーズをして見せた。注文通りのダブルプレー。まさかここまで上手くいくとは、フォークボール、恐るべし。

 続くピンチも飛鳥の必殺フォークボールで切り抜け、試合はトントン拍子で進む。気付けば環に第二打席が回って来ていた。

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