秋晴れの空
「あれ」と華は無理に微笑み、指で涙を拭った。
「なんで涙なんか……」
華よりむしろ瞳が驚いていた。
初めて見る華の泣き顔を見つめたまま息も出来ない。
「あ、ごめん、ダメだ……」
華はまた微笑もうと試み、今度は失敗した。
涙がぽろぽろとこぼれてくる。
華はそれを懸命に拭いながら、唇を噛み締めた。
「華ちゃん……」
瞳が遠慮がちに華を横から抱きしめる。
しかし華が相変わらずまっすぐ立っていたため、まるで瞳が彼女にすがり付いているように見えた。
華は鼻をすすり、ぐいっと天に目を上げた。
秋晴れの天から、陽の光が降り注いでいる。
空気は冷たいのに、長袖の服は暖かくなっていて、瞳の温もりとあいまって華は暑いくらいに感じていた。
それなのにどうして、と華は思う。
すっかり乾いて冷たくなった手が涙を拭うとき、とげのような何かが顔を引っかいた。
寒い、と華は感じる。
心臓が凍りついたように血が冷たい。
その、異物が血管を進む感覚が全身を巡り、細胞の隅々まで行き渡り、回り回って目から溢れてくる。
冷たくなった皮膚の上を、火傷しそうなほど熱い涙が流れた。
華はもう涙を拭いもせず、ただ空を見上げていた。
雲ひとつない青空は華の心を、分かろうとすらしていなかった。