変わっていく
「あの馬鹿」
二人並んで歩く帰り道で、瞳は何故か本気で怒っていた。
「あれじゃ、ただのさらし者じゃない!」
「……そうだね」
当たり前だが、華に元気がない。
瞳はチラリと彼女を窺い、何も言わずに前を向いた。
瞳はその瞬間のことを思い出す。
主語なんてなくても、誰の声か分かった。
誰のことかも、分かった。
皆の注目が集まる中、華はすっと立ち上がり、視線を落としてしまっていた順治の正面に立った。
そして、ごく自然な動作で彼の手を取った。
彼ははっと、少しだけ期待をして顔を上げ、彼女の顔を見ることになる。
華は微笑んでいた。
しかし、それは見たこともないほど悲しげな微笑だった。
誰もが、華の答えを察した。
いや、察していたのはずっと前からだ。
だからこの時は、確信した。
華に手を引かれた順治が教室を出て行く。
誰一人動かず、ただ二人の背中を見ていた。
そんなわけで、瞳も華が順治に何を言ったのかは知らなかった。
「でもさ、思うんだけど」
華は独り言のように呟いた。
「私が良い返事を返したらどうするつもりだったんだろう?」
「え」
その問いかけより、口調に秘められた激しさが瞳を面食らわせた。
彼女はそれをただ、感じた。
「"付き合う"わけ?」
「そ、そうなんじゃないの?」
「でも、私たちに何ができるの? 一緒に楽しくおしゃべり? それとも仲良く登下校?」
「どういうこと?」と瞳は不思議そうに尋ねた。
「つまり、そういうことなんじゃないの? 付き合うって?」
華がしかめた顔を瞳に向けた。
「……そうなの?」
「だって……。好きな人と一緒にいたいから、その人と"付き合う"んでしょ?」
華は立ち止まって考え込む。
言いたいのはそういうことではなかったはずだ。
「……やっぱり、変なのかな。それ以上を期待してるのは」
「はい?」
華は答えず、心の中の違和感の正体をすくおうとする。
その場面を頭に描いてみる。
顔のない誰かと自分が、仲睦まじく笑い合っている場面を。
楽しいかもしれない。
多分、幸せだろう。
でも。
「……それ、いつまで続くことなんだろう?」
瞳は眉をひそめて彼女の顔を見る。
その「問いかけ」は、問いかけでありながら、答えは求められていなかった。
「私たちは子供だよ――反論はあっても、それは事実でしょ?」
巧妙な一言で反論を封じられ、瞳は何も言えないまま引き下がるしかなかった。
「私たちは変わっていく。相手も、多分」
華が言葉を解き放つのと時を同じく、空中分解するように彼女の虚勢がはがれていき、感情が声を歪めていく。
「私たちはもっと大人に近づいていく。もっと成長して、もっと関わる人を増やして、もっと自分が分かるようになる。それなのに……!」
華の心に描かれた情景の、相手の顔が突然鮮明になる。
初めから分かっていた顔だ。
初めから。
それでも――。
「……同じ想いでいることなんて出来るの――?」




