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第十一話 「浄化作用」

 


 結局、《アイテムストレージ》はただの収納としてしか使えないということが確認できたところで、俺は諦めて地面の上で寝ることにした。もう疲れたんだよ……。


 ブレザーを脱いで頭の下に敷き、腕の布を縛って俺の頭を覆うようにする。耳防御よし! 気休めだけど、やらないよりましかな。手足を虫にカプカプされるのは甘んじて受け入れよう。なんなら虫っ娘に擬人化して楽しんじゃうまである。

 夜の森は、結構蒸し暑い。季節は夏なのだろうか? 掛け布団的なものが無くていいのは助かるな。


「それじゃあ、おやすみなのじゃアキト。……あの、あれじゃ。ま、街についたら、ちゃんと二人のしょ、初夜をやり直すのじゃぞ? 約束なのじゃぞ?」

「そんな約束しません」

「がーん、なのじゃ……アキトは妾のことが、その、好きではないのか……?」


 いざ寝る前になると、余計な力が抜けて一緒に気も抜けてしまったのかもしれない。

 なんだかんだいって、神様だしな。いきなり森の中に放り出された衝撃は、俺よりも強かったのだと想像できる。天界と暗い森では、文字通り天と地ほどの差だろうし。


 今にも泣きだしそうな顔で、もじもじしながら俺の顔を覗き込むものだから、思わずその頭を抱いて胸に誘導してしまう。スケコマシの手口だ。でも俺は顔だけはいいからやってもギリ許せるって元カノにも言われたから大丈夫。あれ、顔がよくてもギリなの? 俺どんだけ他のマイナス要素強いのん?


「うみゅっ」

「愛してるぜハニー」


 耳元で囁く。こうかはばつぐんだ!


「のじゃぁああ!? ……ぷしゅー……」


 ダウン確認! ……愛してるっていっても、小動物的な意味でな。愛らしいって意味でな。

 そのまま寝付きそうだったので、体勢を直してやってその日はリフィの枕になって寝た。実際、その寝顔は天使であった。異世界で一番最初に攻略するのが、ちょろい金髪ロリ神様とか……なんか思ってたのと違うけど着実にハーレムに向けて歩み出していると思いました、まる。次はケモミミっ娘とかがいいな。ぴょこんと突き出た耳を心ゆくまでもふもふしたい。




 ◇◆◇◆◇




 翌日。


「ちょう、きんにくつうぅ」

「まあ《頑丈》をあげても体力がつくだけで、筋肉痛にならんわけではないからの。ちゃんと《筋力》も上げんからこうなるのじゃ」

「それ早く言って欲しかった……」


 昨日のペースで歩き続けるのは無理ということが判明。一回横になっちゃうと筋肉痛が一気に来る。全身痛くて、昼過ぎまで動けなかった。《クリエイト:味噌汁》だけスキルで出して、リフィに食べさせてもらった。ただまんじりと、リフィの膝枕の上で空を見上げて太陽が昇っていく様をみるのは実にごくら……辛かった。細いくせに柔らかい体しおってからに、このこの。


「ぎゃー、どこ触ってるのじゃ!」

「強いて言うなら、全身」

「そんなキリっとした顔で言われても……うぅ……嫌では、ないのじゃが」


 このやりとりも、異世界生活二日目にして定番化してきた予感。すぐに男に体を許すだなんて、この淫乱チョロリビッチめ。

 お昼の味噌汁を食べさせてもらってからは、なんとか動けるくらいに回復したので、立ち上がってブレザーを着直したところでふと気付く。


「あれ? なんか服がボロくなくなってる。怪我も治ってる?」


 ブレザーにところどころ合ったほつれや、ズボンの破れや、転げ回った時にドロドロになった汚れがなくなっている。いや、正確にいうと汚れは微妙についてるんだけど、払えばすぐに落ちる程度の土汚れだ。


 あと、汗による不快感やべたつきも無いし、髪もひとっ風呂浴びてきたかのようにサラサラ。そして、昨日の猪との死闘による、軽度の打ち身切り傷が治ってる。

 ……なに、どういうことだってばよ。もしかして俺、知らない内に再生とか修復とかソッチ系の能力に目覚めたのか。あるいは寝ている間に森の妖精さんが……?


 首を傾げていると、ドヤ顔のリフィが目にはいった。薄い胸を目いっぱい反らして、鼻をピスピスさせている。これは……


「これぞ妾の能力! 女神による浄化作用なのじゃー!」


 ばーん! と背景文字が飛び出してきそうな口調で言い切った。


「浄化作用?」

「妾の傍で一晩寝るだけであら不思議、服の破れほつれはあっという間に修繕され、洗濯したかのような仕上がりに! 体は風呂に入ったかのようなさっぱりフレッシュな状態に! 夜なべいらず、洗濯いらず、風呂いらずなのじゃ! 更には軽い怪我までヒールする万能性!」

「おおー」


 なんだかよくわからんがすげぇ。すげぇ便利。だけど地味。うちの固有武装が戦闘力皆無過ぎてつらい。RPGの宿屋かよ。


 あれ、でもリフィはここに来る前に、『ただの人間の少女程度まで力が封じられる』みたいなこと言ってなかったっけ。その割には俺の心は読めるし、傷つかない体だし、こうして地味な浄化作用まである。


「それはじゃの、妾も少々想定外だったのじゃが、どうやら普通に力を封じて下界に降りるのと、固有武装となって下界に降りるのでは意味合いが違うようでの。まあ、ちょこっとだけ今の状態のほうがお得というわけなのじゃ」

「へぇ。じゃあ他にもまだいろいろ、固有武装としての力があったりするのか?」

 

 使えねーと思っていたリフィが、意外な活躍を見せている。これは他にも、なにかしら便利な機能がついているのではないかと、ワクワクしながら聞いたのだけど。


「ないのじゃ!」


「うん?」


「……ごめんなさい、これ以上はもう何もないのじゃ。読心と浄化は、この世界に降り立ったときになんとなく使えそうな気がしてたんじゃが、それ以外はなんにもティンと来てないのじゃ」


 今度は背景に三本縦線が入りそうな様子のリフィ。


 大丈夫、なんとなくわかってた。

 全然落胆なんてしてない。


 でも、さっきの偉そうに胸を張るリフィに、なんらかの希望を感じたことは否めないので、素直に励ましづらい。結果、粛々と現実を受け入れてあげることにした。まあなんだ、ただのロリじゃなくて心が読めて(俺限定)、凄い頑丈で(これはガチ)、浄化作用(微妙だけど)まであるんだもん。上出来だよ、うん。


「そういえば、この世界には風呂の習慣とかってあるのか? もしなかったら、リフィの価値爆上がりだけど」

「一般家庭のレベルでは、あまり普及しておらんの。その……《生活魔法》……があるものじゃから」

「《生活魔法》?」


 聞いたことのない魔法……ああいや、なんかで見たことはあるぞ。あれだろ、ちょっとした火種を熾したり、冷たい水をだしたり、身だしなみを整えたり、風呂代わりになるっていうあの……。

 まあ魔法って付く以上、俺には使えない可能性大だけど。


「その通りなのじゃ。この世界の人間は、《生活魔法》レベルの魔法の才能なら持っている者が大半じゃからの。そのー、非常に言いにくいのじゃが、妾の浄化作用も……ほとんどその、《生活魔法》で代用できたり……うぅ」


 さっきの威勢はどこへいったのか、どんどん尻すぼみになって最後にはうな垂れるリフィ。まあでも、素直に自己申告してきたし、あんまり弄ってやるのはやめよう。俺も鬼ではない。


「じゃあリフィの取り柄って、実質丈夫なだけだな」


 俺の心だけ読めても取り柄にはならないし。


「ぐはっ」


 丈夫な金髪小学生は、胸を抑えて崩れ落ちるのだった。


 『一晩一緒に寝れば下級霊くらいなら浄化で退治できるもん……』だそうだが、お前それでいいのか。


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