表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/232

スノウホワイト丘陵2

 もじもじとした恥ずかしさは街に入ると同時にどっか消えた。

 スライムを掲げて叫び声を上げて走り回る。

 立ち込める鉄の匂い。ハンマーの音。賑やかな市場。煙突から立ち上る煙。

 上を見上げれば、夜空にどこからか火の粉が舞い上がるのが見えた。

 もしかしてもしかしなくてもこれってファンタズィー!!

 二秒でご機嫌となった私に畏れるものは最早何も無い。

 涎を垂らして走り回り店先を覗き込み散らばったクズ石を拾い集めていそいそとポシェットに仕舞い込んで屋台でタレのかかったイカ焼き購入。うめぇ。


「なんだっけ?」


「知りませんわ!」


 何をもじもじ悩んでいたか忘れてしまった。

 イカ焼きの前にはありとあらゆるものが無意味であった。

 この街は海産物が豊富のようだ。

 そういや微かに潮の匂いがする気がする。

 海が近いのだろうか。西に近いと言っていたな。大陸の端っこかもしれない。

 それはつまり……魚が食えるかもしれないな!あの荒野にはそういう新鮮さが命な物は無かった。

 これは楽しみが増えた。


「私は長の元に行って来る。

 キャメロットはギルドへ。夜も遅い、皆は各々宿を取り休んでいろ」


「私もギルドへ行きますわ」


「僕も行きたいなー」


 ふむ。ギルドと街の長か。

 うーん、私はいいや。

 長に会ってもしょうがないし、ギルドには今のところあまり興味が無い。

 それよりも立ち並ぶ屋台の方がはるかに重要だ。


「じゃあ私は街をうろうろするー」


「…………心配ですわね。

 アッシュさん、クーヤさんについていて貰ってよろしいかしら?」


「あ、はい」


 お守りを付けられてしまった。

 まあいい。


「おじさん、行くぞー!」


「はぁ…………」


 おじさんを伴い、イカ焼き片手に意気揚々と出立したのであった。

 一人で食べるのも何だし、おじさんとも食べたいのだが。

 でも食べないって言ってたしなぁ。

 ちらちらと伺っていると、私の視線に気付いたのか、おじさんは穏やかに笑った。


「……ああ、大丈夫です。気にしなくていいですよ。

 隣で人が食べているところを見ているのは好きなんです」


「おじさん……!!」


 聖人か。それとも菩薩か。人間見習え。

 そんな事を言われてしまったら仕方が無い。

 ここは一つ、おじさんとのデートを楽しむべきであろう。

 と、るんるん歩き出そうとして、ふとおじさんの足が止まった。


「………………おじさん、どうしたの?」


「……何か、悪寒が……なんでしょう……?」


 はて?

 気温は……低いな。

 もしや寒いのだろうか?


「はぁ……寒さは結構慣れてるんですけど……」


 不思議そうにしながらもついてくるおじさんに思わず首を傾げる。

 まあ、いいか。

 手の中でブルンブルンと蠢くスライムを抱え直して再び歩き出した。


「どれどれ」


「らっしゃー」


 やる気ねぇな。

 宝飾店のようだ。

 青い石がついた宝飾品がずらずらと並んでいる。

 一色しかない。色々ありそうなものだが。


「この青い石って何ですか?」


「あー……」


 ガリガリと頭を掻いたバンダナあんちゃんはめんどくさそうにしている。

 本当にやる気ねぇな。


「マリンブルーだろ。見りゃわかんだろ……ったく。

 満足したらとっととどっか行けよ」


「………………」


 やる気ねぇってレベルじゃなかった。

 売り物を眺める。

 どうにも安定していない気がする。バラつきが大きいというか。

 ごく一部の物はかなりよさげだが。……店主がこれじゃな。

 それにしてもマリンブルーか。透き通るような水色に入る白の文様。

 確かに海をそのまま固めたかのような見事な石だ。

 ここらの鉱山で取れる石なのだろう。

 ふむ……よし、スライムとおじさんに何か買おうではないか。

 幾つか手にとって眺めてみる。

 どれがいいだろうか。

 見た感じ大玉はいまいちだな。小粒の方がいい気がする。

 うーむ…………カッと目を見開く。

 神の天啓を得た、ピキーンときた!


「これだ!」


 叫びつつ手に二つの細工を握った。小さなブレスレットとリング。

 小さく、シンプル。

 だが、見事。私の目は誤魔化せないぞ。職人の技がキラリと光っている。


「これを買う!」


「んな、な」


 なにやらパクパクとしている。魚の真似か?

 このバンダナあんちゃんの趣味が変わっていようともどうでもいいので聞かないでおこう。

 値段は……それなりだ。サイズが小さいせいか、そう高くは無い。

 こんなものだろう。


「はい」


 掲示されていたお金を差し出した。

 が、受け取らない。

 何だ、売買拒否か?

 構わないけどもったいないな。


「ちょっ……と、待てやてめぇ!

 何でそれを選んだ!?普通デカいのだろうが!?

 つか、金あんのかよ!先に言え!!」


 なんだめんどくさい奴だな。


「えー……デカいのはなんか……つまらんし」


 ふらり、よろめいたあんちゃんはまさに雷に打たれたような面をしている。

 ていうか金ない冷やかしかと思ってたのか。

 冷やかしだとしてもあの態度はどうかと思うが。

 それでは何れ大きな魚を逃がす事になるぞ。

 にしても大玉か。

 大玉は……微妙だ。そうだな……思いつくままに喋ってみた。


「デカいのは何かさ、派手なだけだし。

 邪魔だし。そもそも何のアクセサリーかわかんないし。その指輪ってどう見ても邪魔じゃん。合ってないよ。

 石の模様もちょっと浮いてるしさー。白い部分が無意味に横向いてるじゃんか。折角綺麗な海の模様なのに。全体的にバランス悪くね?あと地金の加工も毛羽立ってるよ。細かい傷も多いよね。くすんでるし。そもそも趣味が悪いですな。海の石に薔薇と髑髏はないわ。あとは――――」


「うっがぁあぁぁああ!!うるせぇよ!何だよ知った風な口聞きやがって!

 帰れ!誰が売るか!!とっとと帰って召使いとでも遊んでろこの箱入りむす……あいってぇぇええぇ!!」


 すっごい音がしたなー。

 拳骨ってあんな音がするもんなのか?


「アホか。てめぇの腕の悪さを指摘されてキレてんじゃねぇよ馬鹿息子が」


「あ、ども」


「悪かったな。ほら、持ってけ。

 お前の物を見る目は悪魔じみてやがるな。その道にでも進みな。そいつは俺の作だ」


「ほほー」


 なるほど。

 このドワーフのおっさんが作ったのか。

 あふれ出るこの貫禄、確かにこの細工の主に相違ない!

 素晴らしい。

 ふむふむ。よし。ちらっとスライムとおじさんを見やった。

 魔力はそれなり、この小粒なアクセリーなら恐らく十分であろう。

 本を開く。



 商品名 星辰の加護


 指定アイテムに星辰の加護を与えます。効果は消費魔力量に比例して高くなります。

 アイテムによって魔力消費量が変わります。また、アイテムの質に見合わないあまりに高い効果を付けると破損の可能性があります。

 暁闇の加護と併用可。



 ふむふむ。

 値段は青天井のようだ。すなわち効果は無限大、夢があるな。

 でもこれはステータス補正か。

 おじさんとスライムには向いてないな。

 暁闇の加護とやらを見て決めようか。ペラリとページを捲った。



 商品名 暁闇の加護

 指定したアイテムに暁闇の加護を与えます。

 アイテムによって付加効果と魔力消費量が変わります。また、アイテムの質に見合わないあまりに高い効果を付けると破損の可能性があります。

 付加できる効果は3つまで。



 ずらずらと効果が書かれている。

 破損率0の範囲内でそれなりの効果が付けられそうだし、結構安いな。きっとこのアクセサリーの質が高いのだろう。このドワーフのおっさんは相当な職人っぽいしな。

 何にするか。うーむ、スライムとおじさんなら防御系かな。無詠唱とか魔法効果範囲二倍とかどうしようもないだろう。

 状態異常耐性に痛覚緩和、うん。これはおじさんにいいだろう。

 しかしスライムには意味がなさそうだ。生命力回帰に全属性耐性アップ、これでいいか。

 あとはー……。


「お」


 何か変わった物がある。



 付加効果 神の工芸品レベルのアイテムの為、特殊効果の付加が可能です。

 人魚の涙:願い事が叶う。恋が実る。



 神の工芸品レベル…………すげぇなおっさん。

 なんでこんなとこで露天だしてんだ。いいけどさ。

 人魚の涙か。オシャレな。

 効果は願いが叶う、恋の実り…………ブフッ!

 吹き出した。これに決めた。これしかねぇ。

 スライムとおじさんにこれの効果があるかどうかは分からない。というかそんな事はいっそもうどうでもいい。

 ツボった。いかんわ。これ以外目に入らない。これしかない。これ以外に選択肢なんか存在しない。有り得ない。

 他はゴミクズ。間違いない。


「ブヒッ!ブヒャヒャヒャ!」


 笑いながら購入。

 変な目で見られているが構うものか。

 暗黒神なのに願望成就に恋愛成就とかヤバイわ。

 人魚の涙って名前がそもそもヤバイ。なんて乙女ちっくな。

 ブヒヒヒ!


「はー、笑った笑った。

 おじさんとスライムにあげる」


「え?はぁ……いいんですか……その、こんな高いものはとても返せないですけど…………」


「いいよー」


 押し付けた。

 おじさんにはもっと幸運な事があってもいい。

 わたわたとおじさんは大事そうに懐にしまった。

 よしよし。スライムにもゲルボディの中に突っ込んどいた。

 そのアイテムで強くなって鍛えてゆくゆくは私の変わりに頑張って戦ってくれ。

 期待しているぞスライム。


「…………あんた、今のは」


「お?」


 おっさんが偉くびっくりしている。

 あんちゃんなんか石になっているな。


「神霊族、か?精霊じゃねぇよな。

 魔族だと思ってたが……今のは加護だろう?生憎と高ランクの霊視スキルなんぞはもってねぇから詳しくはわからなかったが……。かなりの加護だったよな。あんた、すげぇな。

 年も見た目どおりじゃねぇのか?」


「ふふーん」


 踏ん反り返ってやった。

 凄いと言われるからには凄いに違いない。

 正直言って本で購入しているだけの私には何が凄いのかわからんがここは偉そうにすべき。

 あと年齢は聞くな。

 一年経っていない。ケツに卵の殻がついているレベルである。

 おっさんは妙に汗を拭ってこちらを見つめている。

 ふむ、何やら定めるような。


「……これもやる。

 持ってけ」


「ん?」


 何やら投げ渡された。


「えっ!?うぇぇ、親父、それくれてやんのか!?」


「別にいいだろ。俺が作ったもんを誰にやろうが俺の勝手だ」


「何これ」


 ピアスか。揺らしてみた。やはりマリンブルーの石だ。金細工がチャラチャラと涼やかな音を立てる。

 ふむ?これは中々………………クワッと目を見開いた。

 素晴らしい!!さっきの二つも凄かったが……これは物が違うな。

 何やらこう、オーラがある。神々しい感じがする。

 素晴らしい。

 ………………というか。これ、高くないか?確実に。


「……これって幾らするんですか?」


「気にするな。片方しかねぇしな」


 いいのかなぁ。

 方耳でもあからさまに高いだろう。

 聖女のフィリアでもこんなの付けていない。


「片方はどっかいっちゃったんですか?」


「いや、石が一個しかなかった」


 ふーん。確かにかなり綺麗な石に見える。二つも三つも無かったのだろう。

 まあ、いいか。くれるというなら貰っておこう。

 ぺラッと本を捲る。


「………………わお」


 た、かい。

 何だこりゃ。

 さっきの二つも中々だったと思うのだが……。

 どうにもそういう次元を超えているアイテムのようだ。

 破損無しで付与できる効果が桁違いだ。

 これ多分同じ効果を普通のアイテムに付けようとしたら更に値段と破損率が跳ね上がるだろうな。

 暁闇の加護に表記されている効果には凄そうな物がずらずらと並んでいる。ざらざらと流すと下位互換として先ほどと同じものがあった。

 やっぱり先ほどの二つとは比べ物にならない一品のようだ。

 とんでもないものを貰った気がする。

 もう返さないが。

 あ、人魚の涙がある。

 使われている素材も作った人も同じだからか。

 見てたらなんだかまた笑えてきた。ブヒヒヒ!

 これにも付けてやろう。もったいないなんて聞こえないな。

 これしかないのだ。願いを叶えて恋が実っちゃうのだぶひゃひゃひゃ。

 即効購入。

 人魚の涙効果がついた乙女チックマリンブルーピアスをチャリチャリと揺らして眺める。

 もう魔力も心許ないし、折角いいアイテムなのに下位の安い効果を付けてもしょうがない。今はこれでいいか。人魚の涙は別。逆に付けない方が可笑しいわ。

 そうだな……。

 ピアスか。アスタレルがジャラジャラと無駄に大量に付けていたな。あいつにくれてやるか。

 効果を知ったら頭をぐりぐりされそうだが今は眼前にあるこの面白さこそ全てである。ブヒャヒャ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ