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スノウホワイト丘陵

 パン、と合わされた手。

 質量ある音が何かを押し出していったように、カミナギリヤさんを中心にして明らかに空気が変わった。

 特に視界には何も見えないが、何か居る。それもかなりの数だ。……ふむ、生物なのだろうが性質として魂と同種のようなものなのだろう。だから私には見えない。

 動植物と同じく、こいつらに焦点を合わせて見ようと思えば見れるかもしれんが見たら多分ぐえーするなこれ。数が多すぎるしなんか印象としてめんどそうだ。

 キョロキョロと辺りを見回す。

 変な生物達に気を取られているうちにいつの間にかなにやら周囲には巨大な魔法陣が浮かんでいる。くるくると回るそれは如何にも複雑そうで、難解な代物であるのが見てわかるレベルだ。


「凄いですわね……」


 フィリアが夜空を見上げながら感嘆したように呟いた。

 つられて見上げると、空を覆い尽くさんばかりの光が描く摩訶不思議な紋様。でっけぇ。周囲にあるのはただのトリガーのようなものであちらが本体のようだ。

 ウルトの封印、マリーさんや天使が使っていた魔法とも違う模様だな。

 これがカミナギリヤさんの扱う魔法なのだろう。もしかしたらウルトの説明でいうところの妖精王という役職で使える魔法なのかもしれないな。

 そういや妖精王というのは精霊王と同レベルの偉い人だと言っていた。

 その人が使う本気の魔法、良く考えたらかなり貴重な場に立ち会っているのかもしれない。

 しかし花の妖精王か。何の魔法を使うのだろう? 四元の精霊王とやらはまあ普通に考えれば火に水に土に風だろう。

 では花とは何だろうか。


「妖精王ってさ、何の魔力を使うの?」


「そうですわね。魔力というよりも……霊力と言った方がいいかもしれませんわ。魂への干渉や次元への干渉が得意であると聞いております。

 生命の如く輝く、透き通る春の息吹を表す虹の魔力ですのよ。

 眷属である妖精族の属性がまちまちなのもこれといった属性がないのが原因ですわ。

 人魚族の王家、古代巨人族、エルフの皇族に並ぶ、神霊族の王の中でも特に神に近い特別なお方ですの」


「へぇ」


「花とかああいうのってサイクル短いじゃないですか。僕一時期植物食べるのが流行だったことあるんですけど。杉は嫌いでしたけどタンポポが好きでした。

 あっという間に伸びて咲いて枯れて萎む。同じ場所でずっと入れ替わり続ける。だから生命力とその反面で枯死、老いとか朽ちることを司るんですよね。えーこせいすいってヤツです。

 だから最初から悪霊としての側面も持っているんですよ。

 他の神霊族の王はそんな側面持ってないでしょうしね」


 ほほう。カミナギリヤさんは案外私に近いかもしれないな。

 ……暗黒神、押し付けられないかなァー。

 あーいやだいやだ。

 久方ぶりのイヤイヤタイムである。


「妖精王らしく一次元上の霊界に飛び込んで次元を越えるか、もっとシンプルに単純な魔力量に物を言わせて力技で空間に無理やり穴を開けるか。

 どっちだと思います?」


「力ずく」


「力技」


 おじさんも明後日の方向を向いて黙っているが視線の泳ぎ方からして力技だと思っているに違いないな。

 満場一致である。仲間意識が高まるな。

 カミナギリヤさんの手元から光が弾け、景色が撓む。音が軋む。

 空間が上げる悲鳴にやっぱりなと悟る。

 これは力技だな。

 だってカミナギリヤさんだし。眩い光を遮るように手を翳して目をつぶる。

 そして次に目を開けた時、そこは普通に雪原だった。

 そう離れていないと言っていたが……本当にそう離れていなさそうだ。

 少なくとも大陸は変わってなさそうである。


「……………………」


 まぁいい、新天地に来たからにはやる事は一つ。

 ささっと隠れて地獄の穴を設置。


「お?」


 エネルギー取り出し作業中

 推定作業時間8時間


 何か吸い込んだっけ?

 うーんと考えてふと思いついた。そういや大量のゴミを投げ入れた。あれかもしれない。

 あんなのからも回収できるのだろうか。凄いな魔物。頑張れ魔物。お前達は粗大ごみリサイクルを日々こなすエコロジーな生物だ。


[自動洗浄]


 おお、居る居る。

 ジャガボゴボゴと吸い込んでやった。


 エネルギー取り出し作業中

 推定作業時間17時間


 結構吸い込めたのか?

 わからんけど。

 まぁ腕輪をつけて取り合えずは放っておこう。


「ここは……」


「西に近いな。

 スノウホワイト丘陵だ」


 何だその可愛い名前は。思うと同時に我々の着地地点近くで餌を探していたらしい羊がメェーと鳴いた。

 放牧中?

 よし、モフってやろう。良きモフモフであるからして。羊に向かってたったかと走り寄る。


「クーヤちゃん、それは結構凶暴ですよ?」


 逃げた。そして入れ替わるようにして私があのまま走っていたら直撃したであろう場所を羊がとんでもなく野太い声を上げながら豪速で駆け抜けていった。

 あぶねぇ!


「えと、あれでしょうか……?」


 おじさんが伺うように指した先。

 街だ。それも結構大きな。


「ああ。

 竜人族とドワーフが多い。工芸の街だ」


「教会なり寺院なりもありますの?」


「いや、モンスター外認定を受けていない者達が住んでいる。教団関連の施設は無い。ギルドが保護している街だ。

 ペルシャ! 他に変わったことはあるか?」


「はっ! はいぃ!! あの、その!

 今は異界人の方が一名滞在していると聞いてますぅ!はひぃ……。

 それに、鉱山が閉鎖されてしまって今は街の移動も考えているとか……!」


 図書委員長は本当に図書委員長だな。

 あざとい、実にあざとい。


「成る程。

 ……グラブニル鉱山か?

 どうかしたのか? 取り尽くしたとは考えにくいが」


「そっ! それが、凶悪な魔獣が住んでいて迷宮化しているらしいですぅ!」


「へぇー。

 鉱山丸ごと占領するなんてすごいですねぇー」


 お前が言うな。

 多分フィリアも同じこと思った。目が合った。


「異界からの獣ですの?」


「いっ! いえ! 分からないらしいです!

 突如現れたと……! 姿もわからないとか!」


 むむ、ライバル発見!

 飛びかかってがっしと鷲掴む。水色の身体をぷるんぷるんと揺らしている。

 羊と違って大人しい奴のようだ。たふたふたふたふ。

 ん、中々……これは……イイな。

 たふたふたふたふ。……イイ。すばらし。時代はやはりモフモフよりもたふたふなのだ。モヒモヒも捨てがたいが。


「……クーヤさん、スライムで何を遊んでいますの」


「え? いやだって……よくわからないし」


 大人の話は大人同士でしてくれ。

 私は幼女なので。


「ははは、クーヤちゃんそのスライムが気に入ったんですか?

 テイムでもしてみます?」


「ていむ?」


 何だそりゃ。


「捕まえるんですよ。

 お供にするんです」


 へぇ。

 お供か。それはいいな。


「どうやるの?」


「妖精王にやられたじゃないですか。

 真名を掴むんですよ」


 ……カミナギリヤさんがめっちゃ見てる。

 気にしてないので気にしないで欲しい。


「うーん……真名……」


 どうやるんだ?

 本で出来るだろうか?

 ぱらぱらと捲った。こうして細かい作業をしてみるとこの左腕本当に鈍いな。

 いいけど。



 商品名 暗黒神様を崇め奉れの会

 指定した霊的生命体の真名をがっちりキャッチして離しません。

 魔物と同じように神殿内で飼えます。

 魔物と違って作業等は出来ません。値段は指定した生命体によります。



 ふーん。

 ……商品名がちょっと気になるのだが。

 崇め奉られても困る。スライムが私の周囲をドンドコと太鼓の音と共に回るのを想像してみる。だいぶ困るな。

 真名を持たない奴は出来ないのだろうか?

 ペラリと捲った。



 商品名 暗黒神様に跪いて足を舐めても委員会

 指定した魂を眷族化します。

 条件を満たした魂でなければ失敗します。

 値段は魂の質に左右されます。



 真名がある奴でもない奴でも捕まえる事が出来る上位互換といったところか。

 しかしあるにはあったがもっと酷い商品名だった。今すぐ解散しろ。

 というか眷属化? よくわからないな。テイムとは違うものなのだろうか。

 まあいいや。あるならそれでヨシ。

 この本におけるターゲティングシステムは未だに謎であるが枝でビシッとスライムを指定してみる。商品値段の表記が変わった。

 ふむ、まぁまぁお安いようである。

 試しに購入してみよう。枝でスライムをつついて購入。ブルンとスライムが揺れる。


「お」


 本にスライムの名前が表記された。


[パンプキンハート]


 何故だ。どういう名前だ。成功したらしいけど納得いかない。

 どこにパンプキン要素があるのか。しかも…………。


「ああああ!」


 青空のような水色が見る間に濁っていく。

 しまいには真っ黒になってしまった。

 なんてこった!

 掲げて光に透かすが最早あの綺麗な水色の面影は影も形も無い。


「あーあ。

 クーヤちゃんに染まっちゃいましたねー」


「あら、新種ですわね」


「……こんなスライム……初めて見ました……」


 おじさんが言うなら相当だ。

 ぶるんぶるんと上下左右に揺らすが真っ黒な身体は元に戻らない。

 煌きを抱いた黒は星空に見えなくも無いが遠目には普通に黒だ。

 しかもうっすらと見える核っぽい部分にリュックや本と同じような目玉模様がついてて不気味だ。

 あああ……。いいえ私は全てを黒に染めるゴッド……。


「何を遊んでいる? そろそろ出発してもいいか?」


「ふぁーい……」


 無念……。

 真っ黒になってしまった不気味スライムを抱えてトボトボと歩いた。

 それにしても、変だな。


「荷物はどこに行ったんですか?」


 荷物が無い。

 大量に有った筈だが。


「ああ……コレだ」


 カミナギリヤさんが見せてくれたのは水晶球だ。

 だが、水晶の表面に映りこんだ景色は周りの風景ではない。

 あの緑の大樹だ。もちろんそんなものはどこにも無い。


「あれ? これって」


「この中に全て収まっている。

 少々重いので皆には持たせられないがな」


 へぇ。

 これこそアイテムボックスと呼べるアイテムだ。

 というか重いのか。……もしやこれに映りこんだもの全て入っているって事か? この樹も?

 そして重さは変わらない、そういう事か?

 ……めちゃくちゃ重いですよねソレ。片手で持つカミナギリヤさんに軽く戦慄した。


「……こんなのあるんですね」


悪魔の芸術品(オーパーツ)だ。他と違って特に危険な物でも無い様なので使っている。

 ベッドの下というらしいが。私も詳しいことは知らん」


 何だその嫌な名前。


悪魔の芸術品(オーパーツ)ってすっごい貴重なんじゃないですか?」


 確かグロウがそんな事を言っていたような。


「そうだな。今の時代、現存しているものなどほぼ無い。

 これも実体は既に失われていたのだが幽界に幽体が残っていたのでな。

 固めて持ち込んだというだけだ。実物はもっと違う姿だったのだろう」


 ふーん。アイテムの魂みたいなもんか?


「妖精王ってそんな事出来るんですか?」


「幽界への干渉は得意分野だな」


「……グロウに知られていなくて良かったですわ……」


「既に失われた秘宝を復活させる事が出来るって事ですもんねー」


「幽体が残っていればな」


 すごいな。

 確かにグロウが知ってればあれやこれや復活させただろう。

 くわばらくわばら。


「ああ……そうだ。

 クーヤ殿、と呼んでも大丈夫なのか?」


「あ、はい」


「これを渡しておく。

 貴女に返すべきものだろう」


「ん?」


 その豊満な胸に手を突っ込んでゴソゴソと取り出し、ポンと投げ渡されたソレ。

 む、ほのかにあったかい。

 何だコレ。ただの石っぽいが。温石か?

 ……良く見たら何か書いてあるな。不気味な模様が。


「ウサギの石と呼ばれるものだ。

 嘘か真か悪魔が封じられていると聞いている。

 いずれにせよ、悪魔に関するものなら貴女に返そう」


「おー……?」


 ウサギ石とか。可愛いな。悪魔の癖に。

 ふむ。

 カミナギリヤさんと同じように胸元に突っ込んでみた。スカスカだった。

 クソッ!

 ……あれ、もしかしてカミナギリヤさんに私が暗黒神だってバレバレ?

 もし分かっているなら悪魔の神とか恥ずかしいので黙っていて欲しい。

 しかもこの弱さである。

 つーか全員カミナギリヤさんの発言を華麗にスルーしている。

 全員にバレバレ!?

 もしや皆わかってて気を使って黙っているのか!?

 あまりにも生き恥、暫く表を出歩けない!



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