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月夜の帰還

 視界が開けた先、そこは既に月に照らされる樹と光で構成された美しいあの里だった。


「おおー……」


 転移魔法ってほんとに便利だな。

 まぁ話を聞く限りカミナギリヤさんの転移魔法は厳密には転移魔法ではないらしいが……私からすればどっちも一緒である。

 里の皆さんは慌しく動きまわっていたようだが、カミナギリヤさんの姿を認めると涙ながらに一斉に走り寄って来た。

 いいなあいいなあ。

 私もああやってファンタジー住人に囲まれたいなぁ……。

 羨ましい……ギリギリ。

 しかしカミナギリヤさん本当にデカいな。

 この里の人たちは結構背が高い人が多い気がしたのだが……頭一つどころか二つ三つぐらい飛びぬけている。

 正直近くに立たれるとデカすぎて普通に怖い。

 いや、でもあの大きさこそが器の大きさ、皆に慕われる秘訣かもしらん。

 いつか私もあれぐらい大きくなりたいものだ。

 ひとまず牛乳摂取からだな。

 話はそれからだ。


「皆、長い間済まなかった。……が、再会の喜びは後ぞ。

 最早此処は我らが住むに適さん。直ぐに離れる。

 神霊族の道具は一つも残すな、全て持っていく!

 持っていけぬなら破壊しろ!……行け!」


「はっ!」

「わかりました!」


 全員蜘蛛の子を散らしたようにてんでバラバラに走り去ってしまった。

 すばらしい統率能力、私も欲しい。


「クーヤさん!今は子猫の手も欲しいのですわ!重たいものは結構ですから少し手伝ってくださいまし!」


「む」


 ちぇっ!サボっているのがバレてしまった。

 仕方が無い。

 働かざるもの食うべからず、ここはキリキリと働くべきであろう。

 小さな切り株をゴロゴロと転がして運んだ。

 妖精の椅子らしい。

 どうやら本当に一つも残さず持っていくつもりのようだ。

 まぁエキドナの小瓶とかいうへんてこ道具があるぐらいだからな。

 この里にもそういう道具がたんとあるのだろう。


「クーヤちゃん、それはただの切り株ですよ?」


「な、なにぃ!?先に言えー!」


 完全に無駄な労働だったらしい。

 ちくしょう!損した!

 ウルトのアホー!


「あっちで小さい物を選別してましたからそっちの方がいいんじゃないかなー。

 僕も出来るならクーヤちゃんに付いて行きたいですけど、美しい女性達がこぞって僕を頼りますから手伝ってきますね」


 ……パシリだな。それは。

 まぁ力がありそうだしな。

 重い物は力が有る奴に任せるに限る。

 何せこの里にはか弱い女性ばかりだ。ウルトは貴重な戦力だろう。


「じゃーあっち行くー」


「はは、頑張ってくださいね。クーヤちゃん」


「おー」


 てってけと走り出した。

 走りながらちらとウルトが歩いて行った先を見れば、俵のような超重そうな箱を片方ずつ腕に乗せてのっしのっしと歩くカミナギリヤさんが見えた。

 歩く度に爪先が地面に若干めり込んでいる様に見える。

 ……すげぇなあの人は。

 私も頑張らねばなるまい。


「手伝うぞー!」


「……っ!」


 皆さんちょっと身体がビク付いたようだが逃げようとはしない。

 今回の件で割りと受け入れられたと見ていいのだろうか。

 もっと近寄っていいのよ?

 ……そしておじさんは何故ナチュラルに神霊族の女性達に混ざっている。

 大人しくちまちまと小物を仕分ける哀愁漂う姿が妙に似合うからいいけども。

 空いていたのでおじさんの隣に陣取ってやった。

 目の前には何かキラキラとした色とりどりの宝石の山。札が貼られている。


「これはー?」


「あ、え、と、封じて持っていくそうです……」


「そうなの?」


「はぁ……」


 態々封じるとは危険物なのだろうか?

 つんつんとつついてみた。普通の石に見えるが。


「それは……この里に処理をして欲しいと預けられた呪物なのです。

 放置するわけにもいきませんが、この場で処理をするのも難しいものなので……。

 封印して持っていくしか……」


「ふーん」


 結構な量だが。

 それに、呪物と言うことはやはりそれなりに危険物なのだろう。

 持って歩いて大丈夫なのだろうか。心配である。

 と、つんつんとつついている腕につけた物が視界に入る。

 ……これに入れればよくね?物は試しである。

 地獄のわっかを地面に置く。

 開いた穴にざらざらと石を掻きこむ様に流してみた。

 おお、案外入るな。腕を突っ込んだ時にはあまりの小ささに驚いたのだが。

 すっかり入りそうだ。これでいいだろう。

 見回して気付いた。


「………………あれ?」


 全員逃げていた。

 何故逃げる。

 残っているのはおじさんだけだ。


「何で逃げるんだーい!」


「あの……すみません、その腕輪しまってくれませんか……?

 よく、判らないですけど……その、すごく怖いです……」


「え!?」


 マジか。

 そういやこれ地獄だもんな。

 自動洗浄を使うわけでもなし、見た目ただの穴なので大丈夫だと思ったが。

 聞かれたらマジカルアイテムボックスと答えようと思っていたのに。

 良く考えたらそりゃ逃げるわ。

 というか全部突っ込んでからなんだがゴミを入れてしまって大丈夫だったのだろうか?

 ……まあいいか。別に何てことは無いだろう。

 地獄のわっかをしまってからハァとため息をついた。

 全く!

 折角仲良くなれそうだったのに振り出しに戻ってしまった!


「ちえー」


 ぶすくれつつおじさんと二人並んで小物の仕分けに戻ったのだった。

 壊れ物と植物、何か魔法が掛かっているらしい道具。

 呪符が貼られたものは危険物だろうとみなして地獄に放り込む。

 出し入れする内におじさんも慣れたらしい。恐る恐ると自分も呪物を投げ入れている。

 これなら早く済みそうだった。




「二人とも、準備は出来たか?」


「あ、はい……」


「おー」


 ようやく誰か近づいて来てくれたと思ったらカミナギリヤさんだった。

 他の神霊族の皆さんは遠巻きにこちらを見ている。

 ぬぐぐ。

 悔しがっているとキャメロットさんも近寄ってきた。

 おひょひょ!もっと近う寄れ!


「お二人とも、有難うございます。呪物の処理には頭を悩ませていましたから……大変助かります。

 ペルシャ!こちらへ来て!これも運びます!」


「はっ!はいぃぃ!!」


 転び出てきたのはメガネをつけたドライアドっぽい女性だ。

 翠の髪に可愛らしい白い花がぽつぽつと咲いている。

 図書委員長と名付けよう。

 脳内で適当に渾名をつけておいた。

 図書委員長は慌てたようにおじさんと私が分別しておいた小道具たちをどさどさと大きな袋に詰めた。

 仕分けた意味ねぇ。

 食器もガラス細工も刺繍道具も全部突っ込んでしまった。

 袋の中ではガシャガシャと何か壊れるような音がしている。

 あーあ……。


「……ペルシャ」


「すっ!すみばぜぇぇん!!」


 ドジっ娘だな。


「お二人とも、大樹に集まってくださいまし。

 出発するそうですわ」


「はーい」


「……え、と、あの。わかりました……」


 フィリアに答えて大樹の元へと向かったのだった。


 ……凄いな。

 家が全部ただの植物に戻っている。

 あれ程に美しかった里は今はもうどう見てもただの森だ。

 魔法の力でああいう形にしていたのだろうか?

 なるほど、確かに神霊族に故郷という概念が無いのも頷ける話である。

 ……しかし、どうやって引越しするんだ?

 たどり着いた大樹の根元には大量の荷物が積まれている。

 馬車とかなんとかそういう移動手段らしきものは全く無い。ただ積んでいるだけだ。

 おじさんも不思議そうにキョロキョロとしている。

 というか壮観だな。

 里の神霊族が全員集まっているのだろう。月の光を反射してキラキラである。

 目が潰れる。


「カミナギリヤ様、今回は舟を使うのですか?」


「いや、アレは目立つ。

 人間に知られればきゃつらの事、寄越せだのと五月蝿いだろう。

 今は使わん」


「はい」


 舟?

 そんなのがあるのだろうか?

 ここは陸地だが。もしかしたら不思議道具かもしれないな。

 何れ見てみたいものである。


「あ、もしかして転移魔法ですか?本物の」


「そうらしいですわ。

 妖精王様直々にかなり大掛かりな術式を組むらしいですけれど」


「へー……」


 ……なるほど、魔法で引越しか。


「本物の転移魔法ってそんなに難しいの?」


 よくわからん。

 アスタレルはごく普通に使っていたが。


「かなり難しいらしいですよー」


「光魔法以外ではほぼ絶望的ですわね」


「そうなの?」


 おじさんも不思議そうにしている。

 魔法には疎いらしい。


「そう、なんでしょうか……。

 ……昔は……魔族の皆さんが頻繁に使っていたような……」


「……貴方、本当においくつですの?

 いつの時代の話ですのそれは」


「はぁ……すみません……二千を超えた事ぐらいは……覚えているんですけど……ちょっと……」


 少なくとも二千以上……。

 すげぇ。


「あはは、今は無理ですよ。

 あれは暗黒魔法ですから。

 今でも魂源魔法で使える人は居るかもしれませんけど……少ないんじゃないかなー」


「魂源魔法って何さ」


 気になっていたので聞いてみる。


「そうですねー。

 クーヤちゃんの本が結構近いのかな?眷属の力ですよねソレ。

 精霊や神の力によらない、存在の根源から来る自らの魂を使う魔法……いや、技術かな。技術ですよ。

 符術とか、呪術とか化粧術とか。亜人が得意な分野ですよ。

 あと精霊王クラスの力を与える側の大精霊や神の眷属が使う魔法もこれですね。

 カテゴリー的にはそうだなー。魔法、その他ですね。光でも暗黒でも精霊でも契約でも闇でもない分類不能な魔法全部です。大雑把ですねー。

 場合によってはその辺の魔法以上の効果が得られるし、精霊や神が居なくても使えるのが利点ですけど、欠点としては魂の格によっては習得にかなり苦労するのと……魂の根源によっては下手をすれば一生掛けて修行しても手を触れずに一センチだけ物を動かせるとかクソ能力しか目覚めない事もあるって事ですかねー。

 それに使える術は一つの魂に一つこっきり。それ以上はありません。

 竜種や高位魔族、それに純亜人みたいな血統持ちなら兎も角、それ以外だとギャンブルに近いですよ。

 マリーベルさんは変換だったかな?魂を魔力に変換する。でも紫にしか出来ないしその魔力を使った魔法も精霊王の制約を受けるらしいです。

 自前で紫魔力作れるならいいと思うんですけど。黒が良かったって言ってました。

 精霊王や眷属は根源がはっきりしてますから最初から例外ですね。

 彼らのような位階の高い次元違いの魂を持った霊的存在であれば魂源魔法を使う方が俄然いいですよ。

 態々格下が使うような魔法技術に頼る必要なんか無いですからね」


「異界人の方々が使うのも魂源魔法ですわ。

 だからでたらめなのです」


「あ、そうなんですか。

 異界人っていうのも見てみたいですねー」


 へぇ。

 何を言っているのかさっぱりわからん。

 とにかく凄いのはわかった。

 それだけわかれば十分だろう。

 もう聞きたくない。頭から煙が出てきた。


「どこに引越しするの?モンスターの街から遠い?」


 荒野に戻りたいのであまり遠くに行かれるのならば名残惜しいがここで別れた方がいいかもしれない。

 あそこ以外は危険地帯だ。


「モンスターの街か?いや、そう離れていない。

 取り敢えずは交友を結んでいる亜人の街に行く。

 ギルドがある街だ。

 そこで新しく場所の選定を行う」


 ギルド!

 それはいい。

 マリーさん達に連絡が取れるかもしれない。

 がっちりキープで引っ付いていくべき。


「それにしても50年の間に何があった?

 この辺りの地形が変わっている。霊峰が特に酷いな。

 誰ぞ何か呼び出したか?

 地脈が乱れている。座標の指定がし難いな」


 フィリアと二人でそっと目を逸らした。

 うちの子が暴れてどうもすみませんでした。





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