青ブーとコミックフェスとティアラ
「あおおー」
落ちてくる落ちてくる。どういう状況になったらこんなのが落ちてくるんだと言いたくなるようなものがぼろぼろと。サンダル、浮き輪、ビーチウェアに謎の壺、観葉植物にココナッツ、水鉄砲にズボンにメガネに珊瑚に漫画に紙くず。聖銃まで落ちてきた。これ落として大丈夫なヤツか?
それに聞き覚えの無い女性の声が複数、これは多分受付嬢だな。お姫様抱っこでお願いとかなんとか聞こえてきている。直後に聞こえてきたふざけんじゃねぇはカグラだろうが。どうやら受付嬢達は作画資料集めをしているようである。まぁ最近は別ジャンルとしてカグラが素材にされているらしいからな。大冒険野郎共もそうなのだが、自由都市の住人はなんというか後で後悔したくないが先立ちすぎてイノシシみたいなのが多いのだ。この世界の状況を考えれば無理もない生き方ではあるが。寝起きの九龍を脱がそうとする受付嬢とか悪魔にキスを迫る冒険者とかお前らそれでいいのか、本当にそれは我慢出来なかったのかと突っ込みをいれたくなるような結果的にアホほどしょうもないことに命を賭けるという状態になっているのが散見されるのはどうかと思う。前のめり過ぎるだろ。
……ふむ、まだちょっとねばりそうだな。そのうち落ちてくるとは思うが。
崖上から目を離して視線を戻せば、よれよれとクロノア君が頭上を見上げながら位置決めしている。この辺りでヨシとなったらしく立ち止まって雑な手つきで腕を縫い始めてしまった。重症なのかどうなのか……多分本人的には特に無理はしていない認識なのだろうとは思うがなんだか申し訳ない。ちくちく作業を手伝いたいところだが、手当てや介助などに対して私は私の器用さを信用していない。間違いなく逆に縫い付けるだろう。かと言って悪魔に手伝わせるのもな。間違いなくわざと逆に縫い付ける。どうしたものか……ちくちくするのを眺めつつウロウロとしていると私の動きに気付いたのか、クロノア君がこちらに少し顔を向けて僅かに微笑んで首を振った。気にすることはない、という意味合いなのであろうが……。
「…………!!」
なんてこった。
ブラドさんはああ見えてたいへんにモテるらしいが。これクロノア君のほうがモテてないと嘘だろう。今のは私でもわかるラブレボリューション乙女のトゥナイト鯉と鱚のトキメキッスキュルルンでジャンボ仕草だぞ。我がオトメゴコロがトゥンクトゥンクしている気がした。不整脈かもしれないが。脳内イケメンランキングをがちゃがちゃと操作してクロノア君のランキングをアップさせておく。ちなみに1位はマリーさんだ。2位は店主である。そして犬臭いランキング1位はブラドさんだ。ついでにイケメンランキングと連動している受付嬢の素材ランキングも上がった。食いしん坊ランキングは異界組が席巻しているが堂々たる第1位は私である。譲るつもりはない。
「……ぁぁぁあぁあああん!!」
「お」
ランキングの見直しをしていると誰かが落下してきた。女性の声だ。
「ひぃん!!」
バインッボインッボヨンッと音を立ててクロノア君の腕の中で跳ねている。ゴム毬みたいな跳ね方だった。確か受付で依頼受注業務をしているお姉さんだな。すっとお姉さんを降ろしたクロノア君が立ち位置を変える。直後、再び上空から悲鳴。
「……えぇぇえぇええぇん!!」
バインッボインッボヨンッ。
「ぷひぃ!!」
ゴム毬2号。
「……ちょきぃぃぃいぃぃ!!」
独特な叫び声を上げつつも続いてゴム毬3号が降ってくる。
「ぺぃん!!」
最後まで独特だった。上で見物していたのか。受付のお姉さん達、物見遊山に来すぎだろう。いやまぁ大冒険野郎共よりは理性があるというべきか……。
「もっと優しく降ろしてくださーい!!」
「お尻打ったぁ!!」
「スケブ!! スケブーっ!!」
違った、理性は無かった。自ら進んで落とされたらしい。イノシシすぎる。ちゃんと手にスケブ以外にも杖とか精霊書とか持っているので一応……一応仕事の体ではあるようだが。杖と精霊書を放り捨てて這いつくばってスケブを探している姿を見ているとその体すら無くなっている気がしなくもないが。
「カグラさん落としますねー」
「待て、私は男を横抱きにする趣味はない!! 綾音、君が抱えればいいだろう!!」
「イヤに決まってんだろが!! 女に抱えさせるなんぞ俺の恥じゃねぇか!!」
「今更だ、待て綾音やめろもう少し」
「めんどくさいので2人とも落としますー!」
不毛な争いを続けていたようだが容赦なく落とされたようだ。合掌。なむなむ……。
「きゃーっ! 待って待ってぇ!!」
「スケブ、スケブ……!」
「お姫様抱っこで、お姫様抱っこでお願いしますぅー! 推しカプを……なにとぞ……!
神様仏様女神様ぁ!!」
「この雑食顔カプ者ぉ!!」
「ダメだこりゃ」
思わず口にしてしまった。腐ってやがる、早すぎたんだ。しかもなんかわけのわからん専門用語まで出てきおった。
悲鳴も虚しく、1人で先に落ちてきたブラドさんが危なげなく着地。続いて落ちてきて目を回したカグラをクロノア君がしっかりとお姫様抱っこでキャッチした。……まぁクロノア君は言うがままなすがままだからな。受付嬢が懇願している要望に合わせたのだろう。お姫様抱っこを理解しているらしいのがちょっと面白いが。でも受付嬢は推しカプとやらがあるのでダメじゃないだろうか。
「…………見えた、本を出します!!」
「お願い青ブー、私達にオンリーイベントを出す投票の力を!!」
「まっ…………2人はどっち?」
ダメだけどほんとにダメだった。斜め上にかっ飛んでいく生き様、イノシシどころかロケットである。こんな受付嬢で大丈夫か? どうにも悪魔づきあいで悪化した気がするな。気まぐれにメンディスを放り込んだのは失敗だったか。劇薬になったらしいので。しかもお互いの宗派に引っかかったらしくガシボコと殴り合いを始めてしまった。もうほっとこう。既に疲れ果てたようにしているブラドさんがよっこらせと立ち上がるのを待って再度トイレをしておく。しかし、クロノア君があんまりにもなすがまま言われるがままなのでちょっと心配になってきたな。そのままキスしてくださいとか言われたらやりそうな勢いで言われるがままだ。嫌がられたら止めるだろうが、もっかいお願いされたらまたやりそうである。クロノア君へのお願いは上書き制なのだ。ブラドさんも似たような事を考えているのだろう、眉間を揉みながら頭が痛そうにしている。
「…………クロノア、もう少しこう……主体性というか……。
私としてもパーティを組んでいる同士、悲惨な事故は見たくないのでね。あの都市の女性達はどうにも変わった趣味を持っている。彼女たちは本気で言っているわけでもない、あまり本気にするな。いや本気ではあるのだが……。
………………………………男体化マリー×私を見た時は……この世の終わりかと……」
「かわいそう」
遠くを見るような眼差しに悲哀が乗せられている。シンプルに可哀想。マリーさんが。
それはともかくとしてだ、どうにもクロノア君は望まれるならでサクッと我慢するフシがあるのだ。一見ギャグのようであるが多分、クロノア君のこの性質は私の事が問題の根幹としてあるのだろう。自主的に動いた結果私がポックリがよっぽどトラウマ化したらしい。気にしなくていいとは言ったがクロノア君は勇者メンタルなのでそういうわけにもいかないのだろう。困らせるなと認識すればうっすらとでも主体性を持つようなのだが。クロノア君の中で剣を使わないが最上位、その次が人を困らせない、そして次に他者の要望に答えるとかそんな感じなのが伺える。困らせない、要望に答えるという中にも一応人によって優先順位があるらしいのはわかるのだが、とにかく自己意志が最下位なのはわかる。全員が全員やりたいことだけやってやりたくないことは一切やらずに生きたら社会秩序の崩壊だが、私としてはこれはこれでどうかと思うのである。ノーと言えないクロノア君、キクラゲのような生き様。じーちゃんには容赦なくノーを突きつけていたが。まぁ首は大事である。
うーむ……そういや先刻私の為ならとかなんとか言ってたか? トラウマの元凶として私のオネダリは割合上にあるらしい。ならちょっと上書き保存をしてもらおう。うむうむ。
「クロノア君クロノア君、ギブミーチョコレート!!」
む、違った。しかも首を振られた。計らずともノーと言えるクロノア君になったらしい。
剣を使わない人を困らせない要望に答えるの更なる上に私をダイエットさせるがねじ込まれている可能性が浮上した。
「おチビ、糖分は厳禁だ」
「ぐぬぬ……。
…………はっ、違ったのです。クロノア君、我慢は身体に良くないと思うのであるからして!
もっと好きにすればいいと思う!!」
「……………………………………」
何度か受付嬢達とこちらを見てから目を回しているカグラを見下ろす。
「いてぇ!!!」
ペッとカグラが捨てられた。…………若干こちらへの忖度の気配を感じたが。まあいいか。もっとノーと言わせて慣れさせよう。なんせ私を超えた人間だ。レガノアがあの人間にそうしたように、私もちょっとは彼女の真似をしてみたいのである。




