SHIRASE
2170年
とある中学校の現代史の授業。
「さて、前回はケルベロスとの戦いを勉強したので、今日はその後の話をしよう」
教壇に立っていた初老の教師は、隅に置いてあった椅子を中央に持ってくるとそれに座った。
20人ほどの生徒は、ケルベロスの話が終わったことを少し残念に思いながらも次の話に耳を傾けた。
「ケルベロスの襲撃で壊滅的な被害を受けたあとに国名を変えた大国ルミアは、自国の復興中も優先して軍事力の回復と増強を行った。
これは復興の混乱の中で少しでも自国の勢力を拡大しようと考えたわけだな。
また、ケルベロスとの戦いでバイオマシンの能力の高さを知ったルミアは、以前に日本が公開したバイオマシンの資料をもとに独自にそれを発展させた人型の汎用兵器、ギガントを開発した。
そして、2098年。
ギガントの部隊を使い、鉱物資源が豊富な隣国を攻め始めた。その時のギガントの数は千にも及んだとされる。
その時日本は、ルミアの次の行動を予測していた。十分な資源が手に入れば、さらに太平洋を越えて侵攻の手を伸ばすだろう。そのためには、戦略的に次は日本に攻め込むことは明らかだった。
日本にもNCBMがあった。おそらく性能的にはギガントよりも上ではなかったかと考えられている。
考えられているというのは、実際にはNCBM部隊とギガント部隊との交戦はなかったからだ。
攻め込まれることがわかっていても、日本としてはできるだけ戦争は避けたかった。
ギガント部隊の方が圧倒的に数が多かったし、万が一本土で戦闘が行われれば、その被害は甚大なものになることは間違いなかったからだ。
そこで日本は、ギガント部隊に向けて秘密裏に独立遊撃部隊を送り込むことにした。
まぁ、すぐにこれが日本のものだというのは、明らかになるのだがね。
日本はそれも見越していたんだな。日本はこれだけのものを持っているんだとさりげなく主張したんだ。
それだけ、独立遊撃部隊の能力に自信があったんだろうね。
そして期待通り、独立遊撃部隊の3機のNCBMは、わずか半日でルミアの千にも及ぶ最新鋭の人型兵器を行動不能にした・・・」
静かに話を聞いていた生徒が少しざわめいた。
「たった3機で千を相手にするなんて、かなり盛ってますよね。そうじゃなかったらフィクションですよ。作り話も、もう少しリアルにしないと」
一人の生徒が不満そうに言った。
「そう思うのも仕方ない。しかし、これはきちんとした記録が残っているので事実なんだ」
「じゃぁ、どうして3機で勝てたんですか? よほど性能差があったんでしょうか?」
別の生徒も聞いてきた。
「機体の性能もパイロットの能力も、独立遊撃部隊がかなり優っていたことは間違いない。しかし、最も大きな要因はこれだと言われている」
教師はタブレットを手にすると、ペンを動かした。するとリンクした生徒のタブレットに『SHIRASE』と表示された。
「SHIRASE?」
「何ですか、それ?」
「すごい兵器とか」
「SHIRASEが何なのかは分からない。人の名前なのか。集団の名前なのか。兵器の名称なのか。自然現象なのか。詳しい記載が全くないんだ。最後のケルベロスとの戦いに出撃したパイロットの一人の名前が報瀬だということは分かったのだが、そのパイロットはその戦いで亡くなっている。だから、SHIRASEとは別なのだろうな」
「変なの。やっぱり作り話なんじゃないですか」
「当時の会見で、独立遊撃部隊のことが世界中に知れ渡ったことによって、各国がそれを凌ぐ兵器を開発してしまうのではないかと記者に聞かれたときに、統合軍の偉い人がぽろっと言ったんだな。『SHIRASEが現れない限りそれは無理だ』と」
「現れる?」
「オカルトチックなこと?」
「亡くなったパイロットの幽霊だ」
「もう、それこそ作り話になっちゃうじゃない」
「偉い人がそんなことを言ったものだから、SHIRASEとは何だ?と追及が始まったわけだがその後も全く情報は出てこなかった。軍から漏れた機密資料の中に黒塗りの部分がいくつかあって、それがSHIRASEなんじゃないかと言われたこともあったが、そもそも軍から漏れた機密書類が本当のものかどうかも怪しいものだった」
「今もSHIRASEは存在しているんですか?」
「たとえ存在していたとしても、その情報は今はまだ出てこないだろうな。もっと先、君たちが大人になる頃には何かわかるかも知れないね」
「独立遊撃部隊は、その後も活躍したんですか?」
「その戦争を最後に、独立遊撃部隊に関する記録は何も残っていない。その戦果による抑止力のせいなのか、軍のNCBM部隊で事足りるようになったからなのか、一説によると解散したとの噂もある。いずれにせよ、独立遊撃部隊に関する情報は一切消されたようだ」
初老の教師はタブレットを操作し表示されていたSHIRASEの文字を消すと、新しい文字を入力するためにペンを動かした。
生徒のタブレットにも文字が現れた。
「次の話は、成れの果て物質だ」
「成れの果て・・・物質?」
ひとりの生徒が初めて聞くような声を出した。
「ケルベロスの時に出てきたでしょ」
別の生徒が笑いながら言った。
「まぁ、忘れても当然だな。今はもう、聞くこともないだろうからね・・・」
教師は椅子に座り直すと、成れの果て物質の顛末をゆっくりと話し始めた。
時の流れのままに生きるモノにとって、その中で生じた事象は必然として受け入れ、疑うことをしない。
しかし、それは干渉された偶然の出来事だった。
その時を必死に生きたモノたちは、偶然の中でほんの少しだけ明日への道を変えた。
やがてそれは膨大な時の流れの中で大きな変化となり、確実に未来を変えるのだ。
・・・終了
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここで完結です。
今時の流れにそぐわない内容にもかかわらず、根気よく読み続けていただいた方々には感謝しかありません。
ありがとうございました。
この物語はここで終わりますが、時の流れは止まりません。
世界はまだまだ続きます。 ・・・Kei




