7 縄張り意識と見下されたヒーロー(上)
千野柊斗。彼は生まれながらにしてピラミッドの頂点に君臨する怪物だ。
12歳の時、全日本ジュニアテニス選手権(U12)を全勝で制覇し、その後も破竹の勢いで飛び級を果たし、U14の全国シングルスタイトルを総なめにした。弱冠16歳にして、柊斗はすでに無数の「先輩」たちのプライドをクレーコートの上で容赦なく削り落としてきた。
彼は日本テニス界において、ここ10年で最もまばゆい光を放つ超新星である。現役の高校生でありながら、ファーストサーブの球速は驚異の200キロを突破しており、これはすでにプロレベルの恐ろしい数値だ。国内外のトップスポーツブランドがこぞってスポンサー契約をオファーし、メディアは彼を「100年に1人のテニスの天才」と持て囃している。
奏は心の中で密かにツッコミを入れた。
もしこれが恋愛シミュレーションゲームだとしたら、こいつは間違いなく最難関の攻略対象キャラだろうな。なにせ性格は死ぬほど冷酷だし、どう足掻いても『テニスへの好感度』がプレイヤー(こっち)を上回る鬼畜設定だからだ。見事攻略できた暁には、凄まじい達成感をもたらしてくれるに違いない。
——だが、もしプレイヤーが彼の『同居人』というポジションに立たされた場合、話は別だ。それはもはや、セーブ機能なし、初期装備のままラスボスのダンジョンに放り込まれる『超ハードモードの死にゲー』であり、毎日理不尽にHP(体力)を削られ続けるだけのクソゲーでしかないのだから。
テニスセンターから命からがら生還し、マンションに帰り着いた奏は、熱暴走でマザーボードが焼き切れ、強制的に工場送りでオーバーホールされているポンコツPCのような気分だった。
午後3時。一日の中で最も日差しが凶悪な時間帯である。
マンションの遮光カーテンは隙間なく引かれ、一条の光も通さない。セントラル空調の微かなモーター音だけが、この部屋における唯一の規則的なホワイトノイズだ。奏は巨大な本革ソファの上に大の字……いや、スライムのようにだらしなく広がり、頭には柊斗に被せられたあのタオルをまだ乗せていた。
毛並みはつやつや、フォルムはぽっちゃりなゴールデン・ブリティッシュが、ソファの背もたれに鎮座している。カルはエメラルドグリーンの縦長の瞳で奏を見下ろし、喉の奥で「ゴロゴロ」と警告音を鳴らしていた。まるで、「初期スペックが低すぎる」せいで危うく外でスクラップになりかけたこの人間を、厳しく監視しているかのようだ。
「見ないでくれよ、カル……」奏はタオルの下から虫の息で訴えた。「ああ、認めるよ。耐熱性においては君たちネコ科の圧勝だ。でも、そんな目で見つめられ続けると、自分が猫缶のツナにでもなって、今にも腹をかっさばかれるんじゃないかって錯覚しそうになるんだ」
カルは軽蔑を込めて「ニャー」と鳴き、尻尾をパタンと振ると、奏がソファの端に置いていた漫画雑誌の上にドカッと腰を下ろした。
それは奏がコートで読み終えられなかった単行本だ。表紙に描かれた、黒い猫耳を生やし、鋭い眼差しをした覆面スーパーヒーローは、今やカルのモフモフのお尻によって無情にも鎮圧されていた。
自分の精神的糧を救出するため、この気性の荒いゴールデン・ブリティッシュと一戦交えるべきか……奏がそう思案していた矢先、突然リビングの照明が「パチッ」と音を立てて全灯した。
刺すような冷白色のLEDライトが、室内の薄暗さを一瞬で駆逐する。
「痛っ!」奏は悲鳴を上げ、本能的に頭のタオルを引きずり下ろして目を覆った。「何すんだよ! 今の俺の網膜はめちゃくちゃデリケートなんだぞ。強い光を浴びたら不可逆的なダメージを負うかもしれないだろ」
「アンタの網膜がデリケートかどうかは知らん。とにかく起きて、これを飲め」
タオルの越しに、柊斗の冷たく硬い声が響いた。シャワーを浴びたばかりの彼は、黒のシルクのルームウェアに着替えていた。上質な生地が体に滑らかに沿い、彼の肩幅が広く腰の引き締まった逆三角形のプロポーションを際立たせている。アッシュブロンドの髪はまだ少し濡れており、ストンと降りたサラサラの毛先が、コート上で見せるあの鋭いトゲを少しだけ和らげていた。
彼の手には透明なグラスが握られており、中には極めて怪しげな『深緑色の液体』がなみなみと注がれていた。
奏はタオルを少しだけずらし、その液体の正体を確認するなり、眉間を激しく寄せた。「……なんだよそれ。裏庭の芝生でもミキサーにかけたのか?」
「セロリ、ゴーヤ、きゅうりに、スポドリの粉末を少々だ」柊斗はソファに近づき、ローテーブルの上にドンッとグラスを置いた。ガラスがぶつかる高い音が鳴る。「ちょっと日光を浴びただけで熱中症になるような温室育ちの粗大ゴミには、これが最も効率的な物理的クールダウンとビタミン補給の方法なんだよ」
「ただの反人類的な生物兵器じゃないか」奏はタオルを再び顔に被せ、絶対防御の構えに入った。「俺はコーラ以外の液体の摂取を断固拒否する。俺の生存の基本原則に反するからな」
柊斗はソファの傍らに立ち、全く反省の色がないこの干物男を見下ろした。その瞳の奥に、危険な光がチラリと閃く。
「柏木奏」柊斗の声が一段低くなり、背筋が凍るような凪いだトーンに変わった。
彼は突然身を乗り出し、ソファの背もたれに片手をついた。その弾みで、ふんぞり返っていたカルが端に追いやられる。カルは不満げに鳴いたが、柊斗の冷たい視線に射抜かれた瞬間、空気を読んでサッとソファから飛び降り、自分のベッドへと逃げ込んだ。
柊斗のもう片方の手が、奏の顔を覆っていたタオルを容赦なく剥ぎ取った。
「数時間前、クラブのラウンジで俺が言ったこと、もう忘れたのか?」柊斗の顔がゼロ距離まで迫る。交差する息遣いから、冷涼なミントのボディソープの香りが漂ってきた。「今日からアンタは、俺の視界の範囲内で生存しろと言ったはずだ。これはつまり——何を摂取し、何を消費するかも、すべて俺のルールに従えという意味だ」
奏は無理やり目を開けさせられ、極めて支配欲の強い柊斗の深い瞳と真っ向からぶつかった。
「こんなの不法監禁だ……暴君の振る舞いじゃないか」奏はのろのろと抗議したが、相手の絶対的な力の抑圧の前では、その言葉に何の威嚇効果もなかった。
「あぁ、俺は暴君だ」柊斗はあっさりと認め、口角を上げて底意地の悪い冷笑を浮かべた。彼はローテーブルの上のあの特製青汁を手に取り、奏の唇に直接押し当てた。「さて、自分で飲むか? それとも俺がアンタの顎を外して胃袋に流し込んでやろうか? アンタの回避速度がどれだけ遅いか、ここでもう一度テストしてみるか?」
たっぷり10秒間の膠着状態。
結局、柊斗の異常なまでの執着と眼力に負け、奏は溜息をついて強権に屈した。彼は顔をしかめ、鼻をつまみ、まるで毒薬でも呷るかのように、絶望的に苦い緑色の液体を胃に流し込んだ。
「ゲホッ、ゴホッ……まっず……死ぬ……」奏は苦悶の表情でソファに倒れ込み、魂が口から抜け出ていくのを感じた。
柊斗は、苦さのあまり目尻に涙を浮かべている奏を見下ろし、容赦なく言い放った。「弱すぎる」
ふと彼の視線が、先ほどまでカルが座っていたあの漫画の単行本に止まった。柊斗はそれを無造作に手に取り、表紙をパラパラとめくる。
「なんだこれ?」柊斗は眉を跳ね上げた。表紙に描かれた、猫耳を生やして廃墟の街を飛び回るスーパーヒーローを見て、あからさまな嘲笑のトーンで言った。「猫耳? 覆面? 毎日ソファでゴロゴロしながら、アンタの脳内に詰まってるのは、小学生でも読まないようなこんなガキ向けの漫画なのか?」
「これは芸術だよ」奏は目を閉じたまま弱々しく反論した。「彼は都市の闇夜を駆ける守護者、猫耳ヒーローなんだ。ただのファンタジーじゃない。俺の精神世界における絶対的な信仰なんだよ」
「猫耳ヒーロー?」
柊斗は鼻で笑った。まるで世界で一番くだらない冗談でも聞いたかのように。「俺が今まで聞いてきたスーパーヒーローの名前の中で、ダントツで一番クソダサいな」
彼は漫画をローテーブルにポイと投げ捨てると、突然手を伸ばし、長く美しい指で奏の顎をクイッと掴み、無理やり自分の方へ顔を向けさせた。
少年の指の腹には、長年ラケットを握り続けてできた薄いタコがあり、それが奏の顎の敏感な肌を擦り、微かな粟立ちを誘う。
「よく聞け、柏木奏」柊斗の眼差しは極めて攻撃的で、一言一言を叩きつけるように言った。「この現実世界に、汗をかくことすらビビってるような粗大ゴミを助けに来てくれる『猫耳のヒーロー』なんて存在しない」




