61 ワクワク
奏は柔らかいラグの上に膝立ちになり、機械的にマッサージの動作を繰り返していた。この沈黙の中で、この肉体労働もようやく終わりに近づいていると思っていた、その時だった。
クッションの中から突然、くぐもっていながらも、一語一句はっきりと聞き取れる声が聞こえてきた。
「さっき、お前、期待してただろ」
「は?」柏木奏は手の動きを止めないまま、唐突すぎるその言葉の意味がすぐには理解できなかった。
柊斗はすぐには答えなかった。
彼はゆっくりと寝返りを打ち、うつ伏せから仰向けの姿勢に変わった。片手を後頭部に敷き、その大きな瞳で、傍らに正座している柏木奏をじっと見つめた。
「さっき。」柊斗は口角を吊り上げ、その声は静かなリビングにやけに鮮明に響いた。「俺にキスされると思って、期待したような顔してただろ?」
奏の手は、まるで感電でもしたかのように、驚きのあまり空中でピタリと硬直した。
数秒前にようやく落ち着いたはずの心音が、再び前触れもなく胸の中で激しく打ち鳴らされ始めた。
奏は自分の耳の裏が、信じられないほどのスピードで熱を持っていくのを感じた。
「してない」奏はサッと手を引っ込め、体を少し後ろに反らせると、硬い声でそう吐き捨てた。
「嘘つき」
柊斗はすぐさまサーチライトのような視線で彼の顔をロックオンし、確信に満ちた笑みを崩さなかった。「さっき、しっかり目ぇ閉じてたくせに。まつ毛まで震えてたぞ。あれが期待じゃなきゃ何なんだよ?」
「あれは無意識の反射だ!」
奏の声は少し上ずっていたが、それでも彼は意地を張り、声の大きさで自分の動揺をごまかそうとした。「どんな正常な人間だって、突然押し倒されて、目の前に顔が迫ってきたら、生物としての本能で目を閉じるに決まってるだろ!これは純粋な生理的防衛メカニズムなんだよ!」
彼は一気に専門用語をいくつも並べ立て、この一件を単なる本能的な反応として決定づけようとした。
しかし、千野柊斗はただ「へえ、もっと言い訳しろよ」と言わんばかりの表情で彼を見つめていた。
その瞳の奥には細かな光が揺らめいている。それは悪戯が成功した後の、隠しきれない愉悦だった。
「ふーん、お前、俺にキスされたかったんだ」
柊斗のその間延びした口調に、奏は一瞬、彼をぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。
奏「勝手な推測をするな!」
柊斗は反論もせず、奏の言葉に乗っかることもなく、ただ静かに見つめていた。
その「全く信じていない」という顔つきの態度は、直接反論されるよりもさらに奏を息苦しくさせた。
奏は深呼吸をした。もしこの話題がこれ以上続けば、自分の今生における尊厳が、すべてこのリビングで散り去ってしまうと思った。
「千野様」奏は両手を膝に置き、姿勢を正して、少しやけくそ気味な懇願の口調で言った。「この話題は、もうこれくらいにしていただけませんでしょうか」
その降参の言葉を聞いても、柊斗はすぐには口を開かなかった。
その視線は、明らかに羞恥で赤く染まった奏の顔にしばらく留まっていた。
突然、柊斗はプイッと顔を背けた。
彼は再び顔をリネンのクッションの端に埋めた。奏の角度からは、少し乱れた淡い金色の髪と、空気に晒された片耳しか見えない。
その耳の縁が、いつの間にか怪しげな薄紅に染まっていた。
柊斗は彼に背を向けたまま、気づかれないほどわずかに肩を二度揺らした。極力押し殺した、くぐもった笑い声が、クッションの隙間から漏れ出ていた。
彼は普段の冷酷で奔放なイメージを保とうとしていたようだが、先ほどのからかいの結果は、明らかに彼自身の予想をも超えていたのだ。
この年齢の少年特有の、少しの青臭さと、思い通りになった後の密かな喜びが、ついに彼が常に張り詰めていた外殻を打ち破った。
柏木奏は顔をクッションに埋め、まだ小刻みに肩を震わせているその背中を見つめ、一瞬どう反応すべきか忘れてしまった。
こいつ、笑ってるみたいだ。
しかも、その隠しきれない笑い声と、赤くなった耳が相まって、なんだか……少し可愛いとさえ見えてしまう。
空気が妙な具合に変化し、その甘ったるくねっとりとした雰囲気に、奏はひどく居心地の悪さを感じた。
「マッサージも終わったことだし」奏は無味乾燥に言い捨て、両手で膝をついて立ち上がろうとした。「俺は部屋に戻るからな」
膝を浮かせ、体の重心を上に移そうとしたまさにその瞬間――
視界に突然、残像が走った。
「ドサッ!」
奏の背中は、再び柔らかいソファに激しく叩きつけられた。わずか一時間のうちに、彼が天地がひっくり返るような無重力感を味わうのは、これで二度目だ。
千野柊斗の片脚が曲げられ、膝が柏木奏の脇腹に押し当てられ、両腕が再び彼をわずかな隙間にしっかりと閉じ込めた。風呂上がりの体温とミントのボディソープの冷たい香りが混ざり合い、まるで潮のように柏木奏を頭から飲み込んでいく。
頭上では、千野柊斗の淡い瞳が瞬きもせずに彼を見つめていた。
シーリングライトの光を反射してキラキラと輝くその瞳は、少し縦に細められ、まるでジャングルで獲物をロックオンした大型のネコ科動物のようだった。
「考え直すチャンスをやる」
柊斗は悠然と口を開いた。少し顎を上げ、その口調には大慈大悲の恩賜とでも言うべき響きがあり、まるでまたとない名誉を施してやっているかのようだった。
柏木奏はその気迫に恐れおののき、先ほど相手が笑ったことで生じたわずかな油断は跡形もなく消え去った。彼はでんでん太鼓のように必死に首を横に振った。「いえいえいえ、千野様、どうかお見逃しを!あっしにはチャンスなどマジで必要ございません!」
言い終わるや否や、千野柊斗の瞳の奥にあった悪戯っぽい笑みは、潮が引くように急速に消え去った。
彼は微かに目を細め、眉を少し下げた。淡い金色の前髪が、瞳の奥で渦巻く不機嫌さを隠している。
「なんで?あんた、本当は欲しいくせに」
柏木奏の激しく振られていた頭は、強制的に止められた。
千野が空いている右手を伸ばし、長年ラケットを握ってできた薄いタコのある少しひんやりとした指先で、柏木奏の顎をしっかりと掴んだからだ。力はそれほど強くなかったが、逃げられない束縛感を伴い、奏の顔を真正面に固定し、二人の視線をがっちりと絡み合わせた。
時間がこの一秒に引き伸ばされたかのように感じられた。
奏は口から音を発することさえ忘れていた。
千野柊斗の頭が少しずつ下がってくる。彼の眼差しは真剣で、視線は柏木奏の目からゆっくりと下へ移動し、最後には緊張で微かに結ばれた二枚の唇に留まった。
柏木奏の脳は完全にフリーズした。
網膜には、次第に拡大していく相手の顔立ちだけが残された。形の良い唇、高く通った鼻筋、そして長いまつ毛……目元を飾る小さな泣きぼくろまでがはっきりと見える。
周囲の空気がねっとりとしたものに変わり、奏は呼吸することすら忘れ、胸の中の心臓が制御不能なリズムで肋骨を叩いているのを感じるだけだった。
10、9……
距離がカウントダウンされているかのようだ。
温かい吐息が交差する。
柊斗の息が奏の唇をかすめ、無視できないほどのくすぐったさと痺れをもたらした。
その時――
「ドスッ!」
大きな鈍い音が頭上で炸裂した。
先ほどまで山のように柏木奏の上にのしかかっていた千野柊斗が、不意を突かれて「グッ」と低い呻き声を上げた。
続いて、彼はまるで天から降ってきた超重量級の物理的衝撃を受けたかのように、張り詰めていた腕の力を一瞬で失った。
柊斗の支えていた身体はそのまま崩れ落ち、胸が柏木奏の肩に激しくぶつかり、頬が柏木奏の首筋にぴったりとくっついた。
「……」
奏は押し潰されて目がチカチカし、胸が詰まった。彼は硬直して横たわったまま、頭の中に巨大なハテナマークをずらりと並べていた。
何事だ?地震か?
奏は辛うじて眼球を動かし、柊斗のふわふわした金色の頭を越えて、視線をゆっくりと上へと移した。
彼のむき出しの広い背中のド真ん中に、巨大な金色の毛玉がどっしりと鎮座していた。
ルルがいつの間にか高い場所へ登り、猛虎のごとき勢いで飛び降りて、狂いなく千野柊斗の背中を着地マットとして使ったのだ。
今、この驚異的な体重を持つおデブ猫は、ふさふさの尻尾を振りながら、エメラルドのような目で無邪気に周囲を見渡し、あろうことか体勢を整えて両前足を心地よさそうに体の下に香箱座りさせた。喉の奥からは大満足の「ゴロゴロ」という音が響いている。
どうやら、この保温性抜群で弾力のある新型の肉布団が、すこぶるお気に召したらしい。
こうして、エアコンの冷風が吹き抜けるリビングで、千野柊斗と柏木奏の二人は、栄えあることにこのぽっちゃり猫の専用クッションに成り下がったのである。
柊斗は顔を柏木奏の胸に埋めたまま、ピクリとも動かなかった。
柏木奏は、相手が密かに歯を食いしばり、呼吸を荒げているのを感じ取ることさえできた。
その底冷えするような負のオーラは、まるで絶対零度のブリザードを纏った魔王が目覚めたかのごとく、リビングの空気を一瞬で氷点下へと叩き落としていた。
奏「あの……生きてるか?」




