特別編:普通の距離
夕方。
スーパーの帰り道。
袋を片手に歩く。
「……重い」
思わず呟く。
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「持つよ」
横から声。
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「……いい」
即答する。
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「……いや持つって」
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「……いいって」
少しだけ強めに言う。
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「……」
ユイが、一瞬だけ止まる。
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「……ほんとに?」
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「……ほんとに」
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少しだけ間。
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「……じゃあ半分」
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「……は?」
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「……全部じゃなくていいから」
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そう言って、袋に手を伸ばす。
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「……」
一瞬、迷う。
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でも——
そのまま渡す。
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「……ありがと」
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「……どういたしまして」
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自然なやり取り。
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「……」
「……」
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並んで歩く。
少しだけ距離を空けて。
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でも——
遠くはない。
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「……ね」
ユイが言う。
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「……ん」
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「……今日さ」
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「……うん」
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「……ちょっとイラっとした」
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「……なにに」
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「……あんたに」
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「……」
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来た。
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「……なにした俺」
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「……昼のLINE」
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「あー……」
思い出す。
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「……既読ついてから遅かったやつ?」
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「……それ」
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「……仕事中だった」
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「……分かってる」
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「……でもちょっとムカついた」
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「……」
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少しだけ考える。
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「……悪い」
素直に言う。
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「……いいよ別に」
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「……よくねえだろ」
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「……まあね」
少しだけ笑う。
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「……」
「……」
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沈黙。
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でも——
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ちゃんと、終わってる。
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「……ね」
今度はこっちから。
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「……ん」
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「……俺もある」
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「……なに」
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「……昨日」
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「……うん」
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「……帰るの遅かっただろ」
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「……あー……」
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「……連絡なかった」
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「……ごめん」
即答。
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「……忘れてた」
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「……」
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「……普通に怒っていいやつ?」
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「……いい」
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「……じゃあちょっとムカついた」
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「……ごめんって」
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ユイが少しだけ笑う。
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「……」
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そのまま、少しだけ距離が近くなる。
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意識してじゃない。
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自然に。
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「……ね」
ユイが言う。
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「……ん」
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「……こういうのさ」
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「……うん」
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「……前、できなかったよね」
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「……ああ」
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「……我慢するか」
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「……爆発するか」
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「……どっちかだった」
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「……そうだな」
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「……」
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少しだけ間。
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「……今の方が、面倒だけど」
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「……うん」
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「……楽かも」
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「……同じだ」
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頷く。
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「……」
「……」
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歩く。
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夕焼け。
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特別なことはない。
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問題も、ゼロじゃない。
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多分これからも。
ちょっとずつイラついて。
ちょっとずつ話して。
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それを繰り返す。
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「……ね」
ユイが言う。
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「……ん」
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「……今日さ」
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「……うん」
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「……うち来る?」
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「……どっちの意味だよ」
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「……普通の方」
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「……じゃあ行く」
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「……なにそれ」
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笑う。
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軽く。
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そのまま、歩く。
二人で。
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逃げ場でもない。
帰る場所でもない。
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でも——
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ちゃんと隣にいる距離。
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それが。
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今の、ちょうどいい。




