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3章1話:うまくいってるはずなのに

 目が覚める。


「……」


 隣に、ユイがいる。


 少しだけ距離を空けて。


 前みたいにくっついてはいない。


 でも——


 離れてるわけでもない。


---


「……」


 天井を見る。


 静か。


 落ち着いてる。


 前みたいな重さはない。


 息もしやすい。


---


 これが、多分。


 “いい状態”。


---


「……起きてる?」


 ユイの声。


 目は閉じたまま。


「……ああ」


「……そっか」


 それだけ。


---


「……今日、仕事?」


「……ある」


---


「……そっか」


 それ以上は聞かない。


 前なら、もう少し踏み込んでた。


 でも——今は違う。


---


 距離を守る。


 それがルール。


---


「……」


 ユイが、少しだけこっちを見る。


 一瞬。


 何か言いたそうにして——やめる。


---


「……」


 気づく。


 でも、触れない。


---


 それが“対等”。


 そう決めた。


---


「……ね」


 ユイが言う。


 小さく。


---


「……ん」


---


「……なんでもない」


 すぐに引っ込める。


---


「……」


 何も言わない。


 前なら、拾ってた。


 でも——今は違う。


---


 それが正しい。


 はず。


---


 数秒。


 静かな時間。


---


「……あのさ」


 ユイがもう一度言う。


---


「……うん」


---


「……やっぱいい」


 また引く。


---


「……」


---


 そのまま、起き上がる。


 ベッドから出る。


---


「……コーヒー淹れる」


 言う。


---


「……うん」


---


 キッチンに行く。


 水を入れる。


 火をつける。


---


 問題ない。


 いつも通り。


---


 でも——


 さっきの“間”。


 少しだけ引っかかる。


---


「……」


 いや。


 気にしない。


---


 踏み込まないって決めた。


---


 それが、壊さないためのやり方。


---


 コーヒーを淹れる。


 カップを2つテーブルに置く。


---


「……はい」


---


「……ありがと」


 ユイが受け取る。


---


 少しだけ指が触れる。


 一瞬。


---


「……」


「……」


---


 何も言わない。


 言わないのが正解。


---


「……ね」


 ユイが言う。


---


「……ん」


---


「……最近さ」


---


「……楽だよね」


---


 その言葉。


---


「……ああ」


 頷く。


 それは本当。


---


「……前より、ちゃんとしてる感じ」


 続ける。


---


「……そうだな」


---


「……うん」


 頷く。


---


 そこで、会話が止まる。


---


「……」


「……」


---


 静か。


 穏やか。


 問題ない。


---


 なのに——


---


 少しだけ、足りない。


---


「……」


 ユイが、カップを見つめる。


---


「……」


 何も言わない。


---


 でも。


---


 分かる。


---


 同じことを思ってる。


---


 多分。


---


「……」


 でも、言わない。


---


 言ったら、また崩れる気がするから。


---


 だから——


---


 このまま。


---


 うまくいってる“はずの状態”を。


---


 続けるしかなかった。

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