表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/31

2章5話:同じ距離には戻れない

 夜。


 帰り道。


 いつも通りの道。


 特に理由もなく、少し遠回りしている。


「……」


 意味はない。


 ただ、まっすぐ帰る気にならなかっただけ。


---


 角を曲がる。


 駅前。


 人が多い。


 ざわざわしてる。


 その中で——


「……」


 止まる。


 見つける。


---


 ユイ。


---


 数メートル先。


 立ってる。


 一人。


 スマホを見てる。


 仕事帰りか、これからか。


 分からない。


---


「……」


 向こうも気づく。


 目が合う。


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ。


---


 逸らさない。


 どっちも。


---


「……」


「……」


 数秒。


 動かない。


 周りだけが流れていく。


---


 ユイが、先に動く。


 ゆっくり近づいてくる。


 逃げない。


 でも、急がない。


---


「……久しぶり」


 先に言う。


 声は、普通。


 作ってない。


「……ああ」


 短く返す。


 それしか出ない。


---


 距離は、腕一本分くらい。


 前より、明確に遠い。


 でも——


 完全には他人じゃない。


---


「……元気そうだね」


 ユイが言う。


 少しだけ目を細める。


「……普通だ」


「……そっか」


 小さく頷く。


---


「……そっちは」


 聞く。


 自然に出た。


 止められなかった。


---


「……まあまあ」


 曖昧な返し。


 でも——


 それ以上は言わない。


 線がある。


---


「……」


「……」


 沈黙。


 気まずくはない。


 でも、楽でもない。


---


「……あのさ」


 ユイが言う。


 少しだけ視線を外して。


「……うん」


「……この前は、ごめん」


 あっさり。


 軽く。


 でも——


 ちゃんとした謝罪。


---


「……いや」


「……違う」


 首を振る。


「……あたしが悪いとこもあった」


 続ける。


 正直に。


 でも——


 それ以上は踏み込まない。


---


「……俺も」


 短く言う。


 それで十分な気がした。


---


「……」


「……」


 また沈黙。


 でも——


 前と違う。


 少しだけ、柔らかい。


---


「……仕事は」


 ユイが聞く。


「……普通」


「……そっか」


 それだけ。


---


「……」


 会話が続かない。


 続けようと思えば、できる。


 でも——


 どこまで踏み込んでいいか分からない。


---


「……ね」


 ユイが言う。


 少しだけ間を置いて。


「……あの時さ」


 あの時。


 分かる。


---


「……うん」


「……あんたの言ってたこと」


 視線をこっちに戻す。


 まっすぐ。


「……間違ってなかったと思う」


 はっきり言う。


---


「……」


 予想外。


 少しだけ、言葉が止まる。


---


「……でも」


 続ける。


 ここからが本音。


「……言い方が、最悪だった」


 少しだけ笑う。


 自分にも、こっちにも。


---


「……それは、悪かった」


 素直に言う。


 言い訳しない。


---


「……うん」


 頷く。


 それで終わり。


 責めない。


---


「……あたしもさ」


 ユイが続ける。


「……ちょっと依存してたと思う」


 ぽつりと。


 軽く言う。


 でも——


 重い。


---


「……」


「……あの距離、楽だったから」


 続ける。


 視線は少しだけ下。


「……逃げてた」


 はっきり言う。


---


「……そっか」


 それしか言えない。


---


「……でも」


 顔を上げる。


 少しだけ、強い目。


「……あのままだと、ダメだった」


 言い切る。


 迷いなし。


---


「……ああ」


 同意する。


 それは、分かる。


---


「……だから」


 一歩、少しだけ近づく。


 でも——


 触れない。


 ギリギリの距離。


---


「……戻らない方がいいと思う」


 言う。


 静かに。


 でも——


 はっきり。


---


「……」


 胸の奥が、少しだけ重くなる。


 でも——


 否定できない。


---


「……そうか」


 短く返す。


 それが限界。


---


「……うん」


 頷く。


 少しだけ寂しそうに。


 でも——


 決めてる顔。


---


「……じゃあ」


 ユイが言う。


「……行くね」


 背を向ける。


 そのまま歩き出す。


---


「……」


 止めない。


 止められない。


---


 数歩。


 離れていく。


---


「……ね」


 ユイが、振り返らずに言う。


---


「……ん」


---


「……でもさ」


 一瞬だけ間。


---


「……嫌いになったわけじゃないから」


---


 それだけ。


 それだけ残して——


 そのまま人混みに消える。


---


「……」


 立ち尽くす。


 何もできないまま。


---


 分かってる。


 全部。


---


 正しい。


 多分、これが。


---


 でも。


---


 正しいだけで、納得できるほど。


 簡単じゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ