オアシスの襲撃者
1. 天落山を望む
滑空のための上昇をする、飛行機。
日は傾いてきておりもう一時間もすれば、日が落ちる頃合いだった。
そして、上空からオアシスを探すが、見当たらなかった。
「あれは……」
行く先に、まるで富士山のような形の山が遠目に見える。
「あれが、最果ての塔までの最後の山……天落山です」
ルーシェンが、答える。
「五千メートルを超える山で、あの山の頂上付近から飛べば最果ての塔に着くと、アルセイン翁が言っていました」
「五千メートル……」
俺は、思う。
「五千メートルを超える山だと……高山病が怖いかもしれないな」
「高山病ですか……」
ルーシェンが、あごに手を添える。
(また、延々と質問される流れか……)
俺は、身構える。
だがルーシェンは、今まで聞いた異世界の理科の知識から高山病の原理について、仮説を話し始めた。
「おそらく、高度が上がることで空気が薄くなり……」
あまりにも専門的で、俺の知識では理解が難しいところも多かったが、何とか、重要なところだけは抑えることができた。
「……合っていますか?」
ルーシェンが、聞いてくる。
「あ、ああ……多分、そんな感じだ」
俺は、あやふやながらも何とか返すことができた。
(高校生レベルの知識から、それらを導き出したのか……)
俺は、戦慄する。
(ルーシェンの頭脳は……化け物か……)
そして続けてルーシェンが考えた高山病の対応策を話そうとした時、飛行機は着陸する。
2. 砂漠蠍の襲撃
「それで、対応策ですが……」
なお話そうとする、ルーシェン。
その時、降りた砂漠の地面が、振動していることに気づく。
「ちょっと待ってくれ。何かが……下から来る!」
身構えると砂の中から、3〜4m程の蠍が何体も出てくる。
「砂漠蠍です!」
エリシアが、刃を形成しながら叫ぶ。
「話は後だ!」
俺も剣を抜き放つ。
「やれやれ……」
ルーシェンが、仕方ないといった感じで呟く。
その緊張感のなさに、ファルマが苦笑いする。
だが、蠍は襲いかかってくる様子がなく、周囲をじりじり回りながら囲んでいるだけで、襲ってこようとしない。
「どうした……?」
俺が、疑問に思う。
「おそらく、榊さんの水属性の剣に警戒しているのでしょう」
ルーシェンが、答える。
「砂漠に住む魔物は、総じて水属性に弱いですからね」
そう言って、水弾の魔法を唱える。
「シギャァァァ……⁉」
その水弾が、一匹の蠍に当たると一発で、倒してしまう。
それを見た他の蠍は、逃走していった。
「すごいな……」
俺が、感心する。
「さて、この蠍は……足が食べられますよ」
ルーシェンが、倒した蠍に寄っていく。
「えぇ……」
俺とファルマが、引く。
だが――
(節足動物だし、味は甲殻類に近いはずだ……これだけ大きければ、食べられるか……?)
俺は、脚を剣で斬り落とす。
「さ、榊さん!?」
ファルマが、顔を青ざめる。
「海で食べたカニと一緒だ」
「で、でも……」
躊躇していたファルマだが、思いついたように、
「蠍の毒は……役に立つかも……」
ファルマも、シッポの毒の採取を始めた。
野営の準備をしながら夕食として、蠍の脚をルーシェンの水魔法と火魔法で茹でる。
少し大味ながらもそれなりに美味しい脚を、驚きながらも堪能するのだった。
「美味しい……!」
ファルマが、目を輝かせる。
「少し大味だけど、結構おいしいな」
俺も、微笑む。
夜の寒さも、闇の力とそれぞれの防護服で乗り越えるのだった。
3. オアシスへ
そして次の日、朝方にも蠍の襲撃はあったものの、今度は俺の剣であっさり倒し、また脚を何本か手に入れる。
「冷却のマジックバッグに入れておこう」
「はい!」
ファルマが、嬉しそうに答える。
滑空は、順調に進み、天落山も近くなってくる。
頂上付近には雪が残っており、見た目はほぼ富士山だった。
(確かああいう山を成層火山って呼ぶと習った気がするな)
「あと二日ほどで、山の麓に着くでしょう」
ルーシェンが、山を観察しながら言う。
そして最後の滑空時、大きめなオアシスがあるのに気づく。
「今晩は、あそこで過ごしましょう」
ややルートから外れるものの、そちらに滑空する。
オアシスは、中央に大きな泉があり、周囲は緑で溢れていた。
広さも、小さな町くらいあり、十分休めるだろうと、踏み込む。
泉のそばに、野営地を作る。
また夕食の準備をしているとオアシスの木々の間から、視線を感じる。
(何かが……見ている……)
ルーシェンやエリシアも、気づいたようで身構える。
だが、こちらが気づいたことがわかったのか、視線の主は音もなく去っていく。
「何かがいるのは確実ですね」
ルーシェンが、小声で言ってくる。
「警戒を、密にしよう」
魔物でもすぐ襲い掛かってこないということは、知恵の働くタイプだ。気を付けないとな。
4. イスムル族
そして夜になり、ファルマの召喚した光源虫の明かりだけが、照らす野営地。
気がつけば複数の人間が、囲っているのに気づく。
「誰だ!」
咄嗟に、呼びかける。
そして暗がりの中から、一人の目しか見えない砂漠の衣装を着た男が歩み寄る。
「このオアシスは、イスムル族のテリトリーだ」
男の声はとても低かった。
「勝手に入ったことは謝る」
俺が、答える。
「だが、俺たちは最果ての塔に向かうまでの途中で立ち寄って、一晩過ごすだけだ。明日の朝には出る」
そう言いながらその男に、何か既視感を感じる。
(この感覚は……間違いない。
俺が、ずっと隠してきたものと同じだ)
自分の闇の力と、同じ感覚をその男から感じ取る。
「まさか……闇の力……?」
思わず、呟いてしまう。
それを聞いた男は即座に臨戦態勢になる。
「我らを追ってきたか、神の尖兵め!」
シャムシールで、斬りかかってくる。
そのシャムシールには間違いなく、俺のものに比べ薄いものの闇の力を纏わせていた。
「!?」
驚きながらも、剣で受ける。
周りの男たちも、剣を抜いてジリジリと、ファルマやエリシアたちに近づく。
「闇の力を知られたからには、生きて返すわけにはいかない!」
男が、殺気を向けてくる。
「待て! 誤解だ!」
俺は剣でシャムシールを受けながら、自分と同じ闇の力を持つ者がいることに驚くのだった。
天落山
バルフォア半島の南端にそびえる、標高五千メートルを超える成層火山。遠くから見える姿は美しく、昔から数多くの絵や物語の題材として語られてきた。
頂上付近は夏でも雪が残り、山自体も半島の砂漠を越えた先に位置するため、実際にたどり着いた者はほとんどいない。
特に朝、朝焼けに赤く染まる山容は一見の価値があるほど美しいとされている。
山を越えた先には最果ての塔があると言われているが、実際にその姿を見た者の存在は確認されていない。




