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祭りのあと

 「閉会式を行います! 全体、整列!」

 合図で、全校生徒が夕陽に染まるグラウンドに整列した。

 得点板には、最終結果が大きく掲示されている。

 赤組:280

 白組:265

 黄組:240

 青組:360

 我が青ブロックの得点は、他を圧倒していた。

 完全勝利だ。

 「がーっはっは! 見ましたか斉藤先生! これが指導力の差、いや、人徳の差というやつですよ!」

 列の先頭で、国語を担当している俺たちの担任が、隣のクラスの数学担当の担任に向かって盛大に煽りを入れていた。

「……確率的にはあり得ない数値だ。君のクラスの生徒が異常なだけだろう」

「負け惜しみですかぁ? 数字の先生が数字で負けちゃあ、おしまいですねぇ!」

「なんだと……?」

 いい歳した大人二人が、生徒たちの目の前でメンチを切り合っている。

「……おい、あれが教職者の姿かよ」

 隣に並んでいた健太が、呆れ果てた声でツッコミを入れた。

「ガキか。俺らよりはしゃいでんじゃねーよ」

「まあ、勝ったから機嫌いいんだろ。負けて八つ当たりされるよりマシだって」

 俺が苦笑いすると、健太は肩をすくめた。

「平和だねぇ。……ま、俺たちが頑張ったおかげで、あのオッサンも鼻が高いってわけだ」


 「優勝、青ブロック。代表、雪乃宮怜」

 校長先生の声と共に、雪乃宮さんが朝礼台に上がった。

 優勝旗を受け取るその姿は、絵画のように美しいが、表情筋は死んでいる。

「一言お願いします」

 マイクを向けられ、彼女は淡々と言い放った。

「当然の結果です。個々の能力値を最大化し、非合理なミスを排除した結果、勝利というデータが出力されました。以上」

 会場が静まり返る。

「……相変わらず可愛げがねえな」

 健太がボヤく。

 すると、同じブロックの他クラス男子たちがヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。

「いやマジで雪乃宮さん化け物だよな」

「それな。100メートル、障害物、リレー、全部一位だぜ?」

「女子の得点の8割あいつが稼いでんじゃね? 一人で50点以上取ってるらしいぞ」

 その会話を聞いた瞬間、健太の動きが止まった。


 「……おい、湊」

「ん? どうした」

 健太の顔色が悪い。彼は指折り数えながら、虚空を見つめてブツブツと計算を始めた。

「雪乃宮さんの個人得点が50点……で、リレーと他の競技の加点を合わせると……」

 彼は得点板を凝視し、ガクガクと震え出した。

「け、健太?」

「……おい、嘘だろ」

 彼は乾いた笑いを漏らした。

「俺たちが命懸けで戦った騎馬戦の配点……30点」

「……うん」

「今の得点差……80点」

 健太が俺の方を向き、死んだ魚のような目で言った。

「つまりだ。俺たちが騎馬戦でボロ負けしてようが、泥だらけになって頑張ろうが、関係なく優勝してたってことじゃねーか!!」

「ぶっ」

 俺は思わず吹き出しそうになった。

「俺たちの汗と涙は!? あの『負けたら終わりだ!』みたいな緊張感は!? 雪乃宮さんのポイント稼ぎの前では誤差レベルだったのかよ!!」

 健太はその場に崩れ落ちた。

「虚しい……俺はなんのためにゴリの下敷きに……」


 「あはは! 言うなよ健太!」

 周りのクラスメイトたちがドッと笑った。

「結果オーライだろ! 雪乃宮さんが最強すぎただけだって!」

「ドンマイ! お前らの騎馬戦、カッコよかったぞ!」

「そうそう、数字じゃねえんだよ! 記憶に残ったからいいじゃん!」

 山本や高橋が、膝をつく健太の背中をバシバシ叩いて励ます。

「いってぇ! お前ら人事だと思って……!」

 健太も泣き真似をしながら、結局は笑っていた。

 俺はその光景を見て、自然と口元が緩んだ。

 数字で見れば無駄だったかもしれない。

 でも、あの瞬間の熱気も、篠原さんとのゴールも、泥だらけのハイタッチも、決して無駄なんかじゃない。

「……さてと」

 閉会式が終わる。

 祭りの終わりを告げる放送が流れる中、俺は大きく伸びをした。

 心地よい疲労感。

 そして、これから訪れる帰宅へのわずかな緊張感。

 俺は仲間たちに手を振り、校門へと向かった。

 長い長い一日が、ようやく終わろうとしていた。

 一人、暗い影を刺されて。

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