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初対面と涙の理由

 家族という枠組みは脆い。

 紙切れ一枚の手続きで赤の他人が家族になり、同じ屋根の下で暮らすことになる。

 父が再婚すると聞いた時も俺は特に感情を抱かなかった。

 どうせ互いに干渉せず空気のように過ごすだけだろうと思っていたからだ。

 けれどその予想は彼女の姿を見た瞬間に裏切られることになる。

 境界線はあまりにもあっけなく踏み越えられた。





 「今日から一緒に住む事になる……結愛(ゆあ)です。よろしくね」

 玄関先で彼女は少し上目遣いに俺を見た。

 父の再婚相手の連れ子。

 俺よりも年上の義理の姉。

 肩まで伸びた明るい髪と大きな瞳が印象的な美少女だった。

 だがどこか今にも壊れそうな危うさを纏っている。

 俺は当たり障りのない挨拶を返した。

「……どうも。弟の湊です」

 彼女は俺の言葉を聞くと安堵したようにふわりと笑う。

「よかった……怖がられたらどうしようって思ってたの」

 その笑顔は無防備で、初対面の距離感にしては少し近すぎる気がした。

 引っ越しの荷解きが一段落した夜のことだ。

 リビングで二人きりになったタイミングで彼女がスマートフォンを取り出した。

 少し頬を染めてモジモジとしている。

「あのさ、湊くん」

「何?」

「交換しない?番号とID……」

 これから一つ屋根の下で暮らすのだから連絡先くらいは必要だろう。

 だが俺は少しだけ意地悪な気持ちというか、姉弟という関係にまだ照れがあったのか、軽い冗談のつもりでこう言った。

「……良いのか?それって」

 異性とすぐに交換するのはどうなんだ、というニュアンスを含めたつもりだった。

 しかし彼女の反応は俺の予想を遥かに超えていた。

 彼女の大きな瞳からボロボロと大粒の涙が零れ落ちたのだ。

「ッ……ウソ!ウソ、結愛さんが良いなら喜んで!」

 俺は慌てて訂正した。

 まさか拒絶されたと受け取って泣くとは思わなかった。

 彼女は涙で濡れた瞳で俺を見つめ返す。

「……ほんと?嫌じゃない?」

「嫌なわけないだろ。これからよろしく頼むよ」

 俺がそう言って端末を操作すると、彼女はようやく泣き止み、またあ花が咲いたような笑顔を見せた。

「よかったぁ……これから沢山連絡するね」

 その言葉の響きには、単なる家族愛とは違う、何か湿度の高いものが混じっている気がした。

 その予感が的中したことに俺が気づくのは、その日の深夜のことだ。

『眠れないよ〜』

『湊くん起きてる?』

『部屋に行ってもいい?』

 通知画面を埋め尽くすメッセージを見て、俺はこの義姉との生活が平穏なものでは終わらないことを悟ったのだった。

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