アリス君は弱さを知る。
「そういえば、ハクさんって13神徒なの?」
「ん? ああ、そうだけど知らなかったのか? この街だと知らない人なんていないんだけどな。」
うわー、13神徒、神子として最高の力を持つ13人の1人、ハクさんそんなに凄い人だったんだ! 今度サイン書いてほしいな。
って事はハクさんのパートナーは宝剣13位!?
うわ! 凄すぎる!
最強の龍使徒の1人だなんて、・・・あれ?
ハクさんのパートナーってロイさんだよね。
「ロイさんが宝剣13位!!?」
僕は廊下で足を止め思わず大きな声を出してしまった。
「おう、なんだよ。それも知らなかったのか? 宝剣13位、炎獄剣のロイ・フレイ・アリス、俺達の憧れだぜ。」
「そ、そんなー。」
ロロナの言葉に僕は顔を押さえて身悶える、そんな凄い人と近くにいたのに全然喋れなかったー。
「なんだよ、どうした? ほら行くぞ、アリスだって初めての実技授業で遅刻する訳にはいかないだろ。」
「う、うん、分かってる。」
炎獄剣って事はイシュタリフの力で戦うんだよね?
見てみたいなー。
中庭にある訓練場に行くと人が一ヶ所に集まっていた。
「なんだ、あれ?」
ロロナは首を傾げるけど僕には分かった、あそこにエトがいるんだ。
「ああ、エト・クラナ・ドールか、凄い人気だな。」
「・・・そうだね。」
エトを囲んでるのは僕のクラスメイトと神子達か、エトの楽しそうな顔がちらりと見えた。
エトは神子の人達と上手くやってるんだな。
「あなたは行かなくていいの?」
「またお前か、どうせすぐ赤くなるんだろ。」
「ならないわよ! 仕方ないでしょ、クラスメイトなんだから。」
毎回ロロナとカナデさんは言い合いするの、仲いいのか悪いのか。
カナデさんの声が大きかったからか人の視線が僕らの方に集まる。
・・・そして僕が神子の子達に囲まれた。
「きゃー、本物! 本物のアリス君だ!」
「髪の毛サラサラ、触っちゃお!」
「ズルい! 私は顔に触ってもいい?」
「いや、あの・・・。」
とりあえず僕は本物じゃなくて紛れもない偽物ですけど。
視界を神子達で埋められて、じりじりと後ずさる僕はどんどん逃げ場が無くなっていく。
・・・エト、視界の端に映ったエトに手を伸ばす、確かに目は合った筈なのに彼女は背中を向けて離れていった。
・・・。
「お疲れ様。大変だったな。」
教師役の龍使徒の先輩と神子の女性が来て解放された僕はロロナと並ぶ、ロロナに肩を叩かれた。
「ふん、見た目だけで人気者になれるなんて素敵ね。」
「お前な、・・・お前だって女子からキャーキャー言われてるだろ。」
「・・・ぐっ。」
上唇を突き出して目を泳がせるカナデさんは品のある艶やかな髪に切れ長の目で端正な顔立ちだから、確かに女の子から人気ありそうかも。背も僕より高いしね。
「それにしても、あなた幼馴染に見捨てられてたわね。」
「あうー。」
カナデさんの言葉でこれが一番きつかった。
まず僕たち龍使徒が走って神子に癒してもらう、完全に疲れが取れる訳じゃないけど回復が格段に早くなるのは感じられた。
次に剣を抜いての素振り、それから模擬戦を繰り返す。
本物の剣で戦う事に最初はビックリしたけど、怪我をしてもいい様に神子が来てくれているそうだ。
これは僕たちにとっても訓練だし彼女たちにとっても訓練という事だ。
そして、僕は思っていたよりも戦えていた。
二か月先輩の龍使徒相手にもちゃんと戦える、これならちゃんとやっていけるんじゃないか、そんな思い上がりをしてしまった。
すぐにそんな思い上がりは消えてなくなる。
訓練は龍の力を剣に宿しての模擬戦に変わる。
途端に僕は手も足も出なくなった。
龍使徒は龍の力で身体能力を大きく上げる、人の限界を越えられるのだ。
龍脈が弱いという僕は当然その身体能力の上がり幅も小さい、むしろ僕はそれを自分では実感出来ないくらいだった。強くなっている気がしない。
さっきまで受けられていた攻撃を止められなくなる、追えていた動きについていけなくなる、必死に必死に戦おうとして、最後には攻撃が見えなくなった。
立っていられなくなって僕は膝をつく。
「くはっ・・・がはー。」
空気が足りないと倒れこんで大きく息をする。
「おい! 大丈夫か?・・・悪い、やりすぎたな。」
相手をしてくれていた男の子が僕に手を伸ばす、違う、僕はそんな困った顔をさせちゃいけないんだ。
自分で立ち上がらなくちゃいけない、
腕で地面を押そうとして力が入らず身体が崩れる。
こんなに、こんなに僕はダメなの?
「奇跡よここに! エルクドール。」
その声は差し込む光の様に綺麗で、杖を地面に突き立てる音が聞こえた。
僕の身体に染み込んでくるのはエルクドールの癒しの光、僕の身体から重さが消えた。
「エト・・・?」
なんでだ、普通に立てる。
エルクドールの力では疲れは癒せないんじゃないの? さっき走った後に別の人が癒してくれたけどこんなんじゃなかった。
これがエトの力なの?
その異常に気付いたのは僕だけじゃなくて皆がエトを見ていた、うん、その前に見られていたのは倒れた僕だったけど。
「アリスの回復は私がします。・・・何度も倒れていては相手の人もやりづらいでしょう。」
「あ、ああ、頼む。」
エトの言葉は有無を言わせず、教官もそう言って頷くだけだった。
僕はもう一度剣を構えて相手をしてくれる男の子を見る。
「ごめん、手加減はしないでほしい。強く、なるから。」
何度も力尽きてはエトに回復してもらって、その日の授業は終わった。
ここで解散して後は自由時間だそうだ。
もう日が暮れるんだ、長い一日だったな。
僕は地面に寝転がる。
僕の横にエトが座った。
もう残っているのは僕とエトだけだった。
「エトも帰りなよ。」
「帰らないよ、アリスを癒してくれる人がいなくなるでしょ。」
優しく笑うエトに見られているのが恥ずかしくて僕は転がって背中を向ける。
「分かるんだ?」
「分かるよ。何度だって見てきたんだから。」
エトの声はまるで僕を包み込んでくれるみたいに優しくて、僕はこの声の一粒まで大好きなんだと思い知る。
「でもね、アリス。アリスがどんなに頑張ってもきっと他の人には届かないよ。」
分かっているよ。
僕は伸ばされるエトの手から逃れる様に立ち上がる。
「それでも、諦められない。」
僕はただ自分勝手に、もっと速くと何度も踏み込み、もっと強くと剣を振るう。
真っ暗になっても僕はそれを続けて、エトはずっと真っ直ぐに僕を見続けていてくれた。
・・・身勝手な僕にはそれがとても苦しかった。




